◎Tango 私のブエノスアイレス〜タンゴ紀行〜

■私のブエノスアイレス*7■

2018/12/13

 ぼろぼろで訪れてしまったサロン・カニング。

 お友だちと踊って、ようやく身体が寝起き状態を脱したころ、待ちに待ったライブが始まった。

 TANGO BARDO タンゴバルド。

 一曲目の出だしから私は、からだの真ん中を撃ち抜かれた。

 だって、一曲目、何だったと思う?

「Loca」だったの!

 大好きな、そして、私たちが通うタンゴサロンの名前である「Loca(クレイジーな女)」だったの!

 たまらない。

 お友だちたちも、先生も、ぜったい、わあ、って思っていたはず。私たちのテーブル世界、ぶるぶると震撼していたと思う。

 *「ロカ」はこちらから聴けます。↓音だけ。目を閉じて、聴いてみてください。

 

 

 一曲が終わって、手から血が出るくらいの拍手を送り、それから、たまらずにお友だちとフロアに出た。

 もちろん、ずっと見ていたい思いもあった。

「TANGO BARDO タンゴバルド」

  BARDOってスペイン語で詩人、吟遊詩人、という意味みたい。いいなあ。吟遊詩人とタンゴのくみあわせ。

 ヴァイオリン:Lucas Furno、バンドネオン:Leonel Gasso、ピアノ:Hugo Hoffmann、コントラバス:Juan Miguena。なかでもヴァイオリンのルーカス・フルノの、Loco クレイジーっぷりが好き。

 

 でも私は、どうしても踊りたくなってしまう。

 踊ることで、彼らを限界まで感じたい。

 

 (*お友だちのひとりが撮っていてくれた、あの日あのときのタンゴバルド)

 

***

 ライブが終わるまで、私たちは一度も席に戻らなかった。

 どのくらいの時間だったのか、わからない。一時間くらい? 何曲踊った? ぜんぜん覚えていない。

 バルドの生演奏で踊った、あのときの絶頂感を私は忘れないだろう。

 すぐそこでバルドが演奏をしている。生演奏ならではの、次はどうくるの、って予測ができない楽しみ。バンドのひとたちと一体となって踊る、よろこび。

 バルドが大好きなパートナーと大好きなバルドを踊る至福。

 一曲終わるたびに、バルドに、全身で拍手を送り、次の曲が始まり、ああ、この曲も好きっ、と踊り始める。それが何度繰り返されたか。

 全身に音が満ちる。からだの内側に入りこんでくる。血管を音がめぐる。彼のリードとバルドと私。

 いま地球が、ばん、ってなくなっちゃって死んでもいい、っていう時間。

 私は、ほんとうに、人生で何回かあるかわからない、絶頂の時間を得ていた。あれは、たしかにそういう時間だった。

 

 恍惚。なんという恍惚のなかに私はいたことだろう。

 

 夢心地、だけど疑いようもない生の、実感。

 

 バルドの生演奏で踊るという非現実的な、夢のようなひとときに私は身を投げ出す。

 

 もうどうなってもいい。

 

(*撮影をしてくれたお友だち、ありがとう。左右にお友だち、先生ペアが写っているのも嬉しい)

 

***

 ……ねえ、私。

 生きていてよかったね。あのときも、あのときも、生を選択せざるを得ない状況でよかったね。

 ありがとう、私の生命のストッパー。いま、これを書きながら娘に感謝する。

 だって、あなたがいるから私は死を選択できなかった。だから生きた。そして、生きていなかったら、あの恍惚はなかったもの。

 

***

 ライブが終わり、もちろん、感動を伝えにゆく。

 日本からメールをしていたお友だちと一緒に。ヴァイオリンのルーカス・フルノが広報担当のようで、彼と話をする。

 お友だちは、メールのこと、タンゴバルドが大好きなことを伝え、そして、

「来日してください。そして僕たちのタンゴサロン・ロカでライブをしてください」

 って言っていた記憶がある。違ってたらごめんね、でもそういうふうに記憶しちゃってる。

 私は思った。なんて大胆なのだろう。すごい。

 きっと彼らは「タンゴサロン・ロカ」を「サロン・カニング」みたいなところと思ったに違いない。

 まあ、いいわ。そのときが来たら、私、なんとかするわ(どんなふうに)。

 私も感動を伝えた。「I LOVE YOU!」

 お友だちがあとで言った。

  バルドのみんな、ジョッキでビール飲みながら演奏してるのもよかったですよね。

***

 

 ブエノスアイレス3日目の夜。

 超絶体験。

 もうほんとにほんとに、充分すぎる。感動の飽和状態。

 その夜、どのように帰り、どのように眠ったのか、まったく記憶がない。

 もう、ほぼおかしくなっていた。……Loca。

 なのに、そんななのに、翌日、これを上回ると言ってよいほどの体験が。

 もうむり。ゆるして。おねがい……。

<8>につづく

***

*おまけ*タンゴバルド、ライブの映像、あまりこれといったのがないのだけれど、アップします。

 

★ひとつめ。躍動感が伝わってくる。右、のりのりの男性はメンバーではありません。誰だろ。

 

 

★ふたつめ。フロアの人たちの熱狂がすごい。踊っている人もいるけど、かぶりつきで見ている人たちを見て。

 

 

 

 

(2018.10.25)

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