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◆小説「タンゴ、カタルシス」5:ヴィダ・ミアの色彩

2020/07/28

 

5:ヴィダ・ミアの色彩

 

◆六月×日

 心待ちにしていた週末。はじめてのタンゴのレッスン。

 十数名のひとたちが参加していた。年齢層は幅広く、けれど目を奪われるひとは皆無。男も女も。残念。高揚していた気分が消沈したが、参加者は無視することにした。
 初心者は私だけなので、私だけ別で、すみのほうでアンナが指導してくれた。

 レッスンのほとんどは「アブラッソ」。抱擁、という意味の、踊る相手との組み方だ。「これが一番たいせつなの。アブラッソにすべてがあると言ってもいいくらい。ハグとは違うのよ」
 アンナは私を抱き寄せるようにして、私の耳もとに唇を寄せる。

「相手と全身全霊で向き合うの。三分間の恋人だと思って。それから差し出された左手にあなたの右手を乗せて握って、左手は、てのひら全体で相手のすべてを、すべてをね、感じるように」

 アンナの背にまわした左の手のひらにアンナという存在を感じた。アンナの背中、エネルギーが満ちていて、そう、内部にやわらかな紅蓮の炎があるみたい。

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