●美術エッセイ『彼女だけの名画』7:パリ、モネの「睡蓮の間」
2020/08/26
私の一日は珈琲で始まる。珈琲がないと目覚めた気にならない。
パリの珈琲はしかし、強烈すぎた。「カフェ」をオーダーすると、日本の「エスプレッソ」が出てくる。美味しいけれど、毎日だときつい。
パリ三日目の朝、紅茶がむしょうに飲みたくなって「アンジェリーナ」に出かけた。
リボリ通りをはさんでチュイルリー公園の向かいに有名なサロン・ド・テ「アンジェリーナ」はある。
「サロン・ド・テ」は「カフェ」と違って、ちょっときどった雰囲気。
大きめのテーブルにかけられた真っ白なクロス、貴族風の制服を着た店員。カジュアルな服装で入るのがためらわれる、そんな空気に満ちている。
緊張しているのを悟られないように努力しつつダージリンをオーダーした。
薬臭いから嫌い、と顔をしかめる恋人の顔が浮かんでひとり笑いしそうになる。
繊細な花模様のカップに注がれたダージリンをストレートで味わう。久しぶりの紅茶は私にとても優しかった。美味しい。
刺激的な濃い珈琲が大好きであっても、ときどき、このように、優しい紅茶が欲しくなる。
象徴的だ、と思った。