●美術エッセイ『彼女だけの名画』8:パリ、「レースを編む女」
2020/08/26
恋人を、どんなに好きでいようとも、ひとりになりたい時間がある。
みな「私たちは仲がいい」と思っていたいから、ひとりになりたい理由のなかに「なんとなく嫌だ」とか「うっとうしい」という要素を入れない。
その理由をいつも曖昧にしておく。ときにはそれに、いやらしい、もっともらしい色づけまでして。
私の場合、ふたりで出かけているのに、つまり、いま、このときはふたりで過ごそうと決めているのに急にひとりになりたくなる理由は単純で、彼の態度にかちんときたとき。冷静に考えれば些細なこと。喧嘩するまでもないから、物理的にすこし離れることにしている。
去年、ふたりでルーヴル美術館を訪れたときも私はとちゅうでかちんときて、待ち合わせの場所だけ決めて別行動をした。