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◆小説「タンゴ、カタルシス」13:初雪とエンスエニョス

2021/05/08

 

13:初雪とエンスエニョス

 

◆十二月×日

 オフシーズンの軽井沢、タンゴハウスは十二月から三月の間、土曜日のレッスンとミロンガを除いて休業。アンナからゆっくりしてちょうだい、と言われていた。

 私はほぼ毎日アンナにタンゴの指導をお願いした。

 指導とはいってもアンナは以前のように一緒にフロアに立つことはなくなって、座って見ているだけだったけれど、それでもアンナと一緒ということが私にはなにより貴重だった。

「甘えてしまって、でも、もっともっと知りたいんです、タンゴを」

 あなたのタンゴを、と言うと残り時間が少ないことを意識してしまいそうで、だからその言葉は飲みこむ。

 今日も「甘えてしまって」と私がいつものセリフを口にし始めると、アンナは私の両頬を両のてのひらで包んで、ひんやりとしたてのひらで包んで、「嬉しいの、とっても嬉しいの。私、これからすべてをサヨコさんに捧げるわ」とおどけた。

 それからいつものあの、しんと澄んだまなざしで私を見つめて言った。

「ある地点から見れば、私が教えサヨコさんが教わる、という形になるのかもしれないけれど、また別の地点から見れば、サヨコさんが私を救い、サヨコさんが私を救っているというそういう形でもあるのよ。じっさい、どれほど救われていることか」

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