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◆小説「タンゴ、カタルシス」15:アンナのカタルシスとロス・マレアドス

2021/06/18

 

15:アンナのカタルシスとロス・マレアドス

◆1月×日

 しずかに年が明け、新年を雪に閉ざされた森で過ごしている。

 昨夜はアンナとおしゃべりができた。
 年末にまた救急で軽井沢病院に運ばれたけれど、昨夜は体調がよいようで私の部屋の扉がノックされたのだった。

 おしゃべりしたいな、と甘えたようないつものくるっとした瞳に、よろこんで、と応じると、よかった、とバスケットを差し出した。ブルーのフリルがついた、ピクニックに持っていくような籐籠のなかには、ポットとカップ。ホットショコラを作ってきてくれたのだ。

 何か話したいことがあるのかな、とアンナを待っていたら「とくに何かあるわけじゃないの、サヨコさんとおしゃべりしたいの、どちらかというと話を聞いていたいの」と言う。いつものようにお見通しモード。

「私、この間のミロンガで不思議な感覚をいだいたんです。いつもは風景にすぎなかったフロアの人たち、ひとりひとりの人生物語が突然、見えたみたいになって、もちろん勝手に想像しているだけなのですが、愛しさみたいなものが胸にこう、ほわん、ってわいて、そうしたら彼らのタンゴさえもが愛すべきものに思えてくる、そんな感覚」

 アンナは、うんうん、と頷いて、でも何も言わずに私の目を見て先を促した。

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