▪️セリーヌ・ディオン『愛の讃歌』に3人の歌姫を想う
オリンピックは式典も競技も観ない。東京オリンピックのときもそうだった。私なりの考えがあるわけだけれど、今回パリ五輪の開会式にセリーヌ・ディオンが『愛の讃歌』を歌った、と知って「観ないわけにはいかない!」とへんに力を入れて鑑賞した。
「観ないわけにはいかない!」の理由は、エディット・ピアフの『愛の讃歌』に対する思い入れが一つ。2015年ピアフ生誕100年に『エディット・ピアフという生き方』を出版し、いくつかの朗読コンサートを行った。『愛の讃歌』の訳詩も作った。ピアフが最愛のひと、マルセル・セルダンに捧げた歌とそこに在る物語は色褪せない。
もう一つの理由はセリーヌ・ディオン。私は洋楽に疎いけれど、彼女は別格で、彼女が歌った『To Love You More』、これは私の人生が最高に天真爛漫な愛に満ちていたとき、つまり1996年3月3日の結婚パーティーのラスト、スクリーンに映し出される彼が撮った私の写真とともに流した曲だった。
内容は、恋人がほかのひとを好きになってしまって、恋人をとりもどしたくて、私はもっともっとあなたを愛するよ、っていうもので、結婚の場にふさわしいとは言えないけれど、愛の歌だし、何より、その雰囲気、メロディーが好みだった。
「死ぬ前に聴きたい曲ベスト3」につねに入っている曲。
そんなわけで、「観ないわけにはいかない!」となったわけだ。
セリーヌ・ディオンが難病に冒されて活動休止していたことは知っていた。病との闘いのなか、奇跡的に一夜の舞台で復活、という情報も得ていた。
エッフェル塔で、クリスチャン・ディオールの白いドレスを着て、ピアフの『愛の讃歌』を熱唱する彼女の姿に、ピアフの晩年が重なった。いつ死んでもおかしくない、まさに瀕死の状態で、オランピア劇場の舞台に立ったピアフが。
胸がつぶれるようになって、そのまま、いつか観ようとチェックしていたドキュメンタリーを鑑賞した。
アマゾンプライムビデオで『アイ・アム セリーヌ・ディオン ~病との戦いの中で~』を。
あるシーンで、セリーヌ・ディオンが胸もとにゆれるネックレスについて語る。尊敬するオペラ歌手、マリア・カラスのものなのだと。
ああ、マリア・カラス。
彼女も晩年声が出なくなって、セリーヌ・ディオンが過去の自分のコンサート映像を観るように、パリのアパルトマンの一室で、いつまでも自分のレコードを聴いていたのだった。
セリーヌ・ディオンは言う。自分の人生はただひたすら「声」に導かれてきた、と。
奇跡的な「声」という才能を与えられた歌姫たち。
歌姫たちは、みな言っている。
ステージの魔力について。いちどステージに立ち、あの歓声を受けたらもう逃れられない、あれは強烈な麻薬のようなものなのだと。
ドキュメンタリー鑑賞後、もう一度、エッフェル塔の『愛の讃歌」を観た。
まさに奇跡としか思えなかった。この一夜のためならどうなってもいい。そんなセリーヌ・ディオンのまなざしが見えたように思った。