ブログ「言葉美術館」

◆「孤児列車」

2016/06/21

_koji__2好きな翻訳家の田栗美奈子さん、彼女の新作をようやく読むことができた。

孤児列車」クリスティナ・ベイカー・クライン:著 田栗美奈子:訳「感動の輪が世界中に広がりつづけている、全米100万部突破の大ベストセラー小説!」

長編小説だから、途中でやめたくなくて、その時間がとれるのをずっと待っていたのだ。

いま、すごく気持ちが落ち着いている。映画でも会話でも得られない、なにか自分の内面と向きあえる小部屋にいるような、そんなのが良質な本にはある。

「孤児列車」って、アメリカの東海岸の都市から中西部へ孤児を輸送した列車のことで、この小説は実話に基づいている。1854年から1929年まで、20万人以上の孤児が養子縁組のために運ばれた。

誰もが幸福な里親のもとに引き取られたわけではなかった。劣悪な環境に置かれた子も少なくなかった。

訳者の田栗美奈子さんは「訳者あとがき」で書く。

「本書のなかでは、人生の大事な局面で何を優先し、何を捨てるか、ということがくり返し問われています。生きるうえで本当に必要なもの、大切なものは、そう多くはない」と、

「物も情報も、人間関係も、複雑にあふれかえっている現代を生きるわたしたちにとって、あらためてじっくりと向きあうべき問題ではないでしょうか」と。

ほんとにそうだと思う。

本当に大切なものは、ぜったいに多くはない。

そしてまた私はこの物語の主人公のひとり、ヴィヴィアンの人生を物語のなかで生きながら、どんな環境でも、とにかく生き抜くという、その意志の力に圧倒された。

圧倒されてばかりではだめ。

自分のなかにもあるはずの力を見ないふりをするのは卑怯だよと、本を閉じてからしばらく目も閉じて、そんなことを思った。

そして文章の、言葉の美しさ。信頼できる翻訳者の本を読むことのしあわせ。

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