■大庭みな子■「啼く鳥の」
2017/06/12
「彼女は日常生活でもし自分が感ずるままのことを言ったり、したりしたら、それは攻撃的な、怒りと憤懣と悲しみに充ちた露悪的なものになり、他人を不愉快にし、その結果、みんなに危険な人間だと思われるに違いないと思ったので、嘘をつき続けるしかなかったのだ。
嘘とはつまりこんなことだ。
いやなことでも「はい」とすなおに言ったり、笑いたくないときでも笑ったり、つまらないことでも一生懸命やって、更に一生懸命やり続けることで、自分の頭を麻痺させてしまうというようなことである。
だがもちろんそんなことは取り立てていうほどのことはなく、見まわせば彼女の周囲の人びとは多かれ少なかれそれに似たようなことをしている感じだったので、しまいにはこの狸と狐の化かし合いのような生活というものが、やはりそれなりに何らかの意味があるのであろうと考えないわけにはいかなかった」
頻繁に思い出す箇所で、昨夜も眠る前に頭に浮かんで、いつもは反応しないラストの部分に反応した。
「何らかの意味」があるのだろう、と私も考えないわけにはいかない状況になっているのではないか。
そんなふうに思い、かなり衝撃を受けるという形での反応。
限りなく白に近い灰色の空から、雨がぼたぼたと落ちてきている、閉ざされ感ひじょうに高い、落ち着く朝。