ブログ「言葉美術館」

■大庭みな子■「魚の泪」

2017/06/12

「偶然つかんだ居心地のよい場所に根が生えてしまうと、ひとはつまらない退屈な言葉で、自分の立場を用心深く守ることしか言わなくなります。

たとえ、それが卑劣なことだとわかっていても、ひとは不器用に、哀れに自分を合理化して、尊大ぶった処世訓を先輩顔にたれるようになります。

わたくしはそんなふうになりたくない。わたくしは生涯放浪する魂をもちつづけていたい、と思っています」

「放浪する者の魂」というエッセイ。

机の上を整理していて、手にした文庫。ぱらぱらっとページを繰って、目をとめる。息をとめる。

代弁であり示唆であり警告であり、そして真実である。このような文章を、私は今夜は胸にだきしめて、痛い、と言いながら眠りにつく。

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