ブログ「言葉美術館」

■安吾■「欲望について」

2017/06/12

「美しく多情」で「汚れを知らぬ少女のように可憐な娼婦マノン」の世界にひたって、すこしでもそのエッセンスをいただこうとの魂胆で読んだアベ・プレヴォーの「マノン・レスコー」。

あまりにも自分とは違うその姿に読後、絶望したけれど、よく考えてみれば、そもそもマノンは読書なんかしないのだった。汚れを知らぬ天性の娼婦。夢のなかで永遠に憧れることにしましょう。

この本を再読しようと思ったのは、久々に坂口安吾の「欲望について――ブレボーとラクロー」というエッセイを読んだからで、彼はとってもマノンが好きなのだった。

彼女には家庭とか貞操という観念がない。それを守ることが美徳であり、それを破ることが罪悪だという観念がないのである。マノンの欲するのは豪奢な陽気な日ごと日ごとで、陰鬱な生活に堪えられないだけなのである

マノンにとって「媚態は徳性」で「勤労」ですらあった。そして、そこから「当然の所得」を得る、これ、マノンにとっては至極当たり前のこと。

坂口安吾は、「結婚もしないうちから、家庭だの女房の暗さに絶望し、娼婦(マノンのような)魅力を考え、なぜそれが悪徳なのか疑わねばならないようなたちだった」のだそうだ。

多くの人がほとんど疑うことなく従っている習慣や道徳に対する強烈や違和感。それをもち続けた安吾が、マノン大好き、というのは、とっても納得できる。そして晩年に彼が結婚した相手、三千代さんもどこかマノンのように、私には思える。

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