■■言葉のちから、手紙のちから■■
2018/01/22
二カ月ほど前に、ある本の原稿をほぼ書き終えた。
同時に、さまざまな事情が重なって、私はその本の出版を断念した。
その本について考え始めてからは一年以上、執筆を始めてからは三カ月が経っていた。
最初から、どこかひっかかりながらの仕事だった。
断念した後、悔しさや未練よりも解放感に似た気持ちが広がったことで、自分の決断は間違ってい ないのだと思うことにした。
それはそれとして、けれど、本は出版されないことになったというのに、一冊の本を書き終えた後の、あの独特の脱力感はやってきた。
その本に関するすべての資料をしまいこんで、次なる企画の本を並べたというのに、まったく力が湧いてこない。
こうなるとすごく損をしたような気分になる。
秋で、早春からずっと続いていた心身の不調が少し回復しつつあったこともあり、余計に脱力感に悩まされた。
あっちの痛みがやわらぐとこっちの痛みが際立つみたいな? 違うかな。
すこしなまけてみようかな、と思った。
周囲から見れば、なまけっぱなしかもしれない私ではあるのだろうけれど、本人は、本人なりに懸命にあがいている毎日。
ちょうど例の本の仕事がなくなったためにスケジュールもあいたことだし。
と自分に言い聞かせた。
そしてその通りに過ごした。
一週間前に風邪をひいた。最初はがんばっていたけれど、二日間寝込んだ。
本を読んだ。
そこにある少女から母親への手紙があった。
***
ママへ
久しぶりにお手紙書いたよ。ママは最近具合が悪くて、今日は○中学校に入って初めてママのお弁当じゃなかったよ。
だけど、それでママがよく寝て元気になっておしりをたたかれながら一緒に勉強(?)できるんだったら、わたしは売店のお弁当、大歓迎だよ。
だから気にしないでね。
ママの身体は少しストレスに追い込まれちゃう時があるけど、それは「病気」じゃない! すこし、ストレスを感じやすい性質なだけだよ。
だから自分は病気とか思わないで・・・。病は気からって言うから。朝起きても「頭が痛い」じゃなくて、「いつもより少しだるいけどよーく寝た」って言ったら、身体が言う通りになる、って本に書いてあった。だから「つかれた」じゃなくて「がんばった」にしよー!
わたしからのアドバイス(1)ベッドに入るかソファで本をよむか、を区別する。本を開いたまま寝てることが多いから。(2)夜の打ち合わせはひかえめに(大人にもいろいろあると思うけど)(3)元気のいい日はできるだけ汗をかく(4)朝はちゃんとサラダも食べる(5)シャワーだけじゃなくお風呂に入る。ゆっくり入る(6)腹八分目
わたしからのアドバイス、役に立つといいなー。
でも一番は「自分のいい所をたくさん人に言ってもらう」こと。すごい効果が出るらしいよ。じゃあ、がんばってね!
***
ひれふしたくなるほどのエネルギーがそこにはあった。
風邪は、脱力生活をしていたから、寝込むまでになってしまったのかな。
身体が弱れば心も弱る。
言葉がこんなに胸に染みいる。
人々からの想いが身体に染みわたる。
大切にしたい人たちへの愛情が募る。
12月1日、今日の都心の最高気温は7度だってラジオで言っていた。
昨日より15度くらい低いって。
玄関を開けると冷たい空気が身体を覆った。
軽井沢を思い出すー、手袋貸してー。と娘が言う。失くさないでよ、気に入っているんだから。と言いながらクロエの手袋を私は渡す。
瞬間、雪が見たい、とほとんど切望した。