▽映画 ◎Tango アルゼンチンタンゴ ブログ「言葉美術館」 私のタンゴライフ

▪️不完全だからこそ。違うからこそ。そしてアルゼンチンタンゴ

 
 
 
 眠る前に頭が冴えてしまってぐるぐるしているときは、何度も観ているドラマを流しながら眠る。何も考えなくてよいように。さいきんはずっと『ビックバンセオリー』。科学オタクたちの生態がおもしろくてたまらない。
 
 ひとりでにやにやしながら寝落ちすることを目指しているわけで、成功することもあるのだけれど、昨夜はあるセリフに立ち止まって、メモして、ますます眠れなくなってしまった。
 
 主人公シェルドンの結婚式。息子のネクタイ(蝶ネクタイ)を左右対称に直そうとする母親に彼は言う。
 
「このままでいいんだ、どうやらちょっと揃っていないほうが粋らしんだよ」(前日だったかな、彼は婚約者にそう言われている)
「ああ、それはわかるわ」と母親。
 そして次のセリフを言ったのだ。
 
「この世には、不完全だからこそ完璧って物事がある」
 
 私はこの日本語字幕にはっとしてしまったわけだ。いま調べたら、imperfect stuff that makes things perfect と言っていて、字幕に拍手。
 
 はっとしたのは、タンゴもそうだな、とあらためて思ったから。最近、ずいぶん前のメモを読み返す機会があって思い出したばかりということもある。
 
 あれは私がタンゴに出合ってまもない、たしか2017年春だったと思う。世界大会アジア予選のラスト、入賞者を前に、アルゼンチン文化省の女性はこんなことを言った。
 
「タンゴの魅力、それは不完全さ。タンゴは完成された美を追求する踊りではない。人は誰しも完全ではないのだから。それぞれのアブラッソ、それぞれのカップルの駆け引き、それは人生そのもの」
 
 私がアルゼンチンタンゴに惹かれた理由のかけらがあるようで、会場で、小さなノートにメモした。私のメモだから正確ではないかもしれない。
 
 さらに、昨日昼間に観た映画が重なった。
 ファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエのドキュメンタリー『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』。
 これはゴルチエが自身の生涯を舞台化した「ファッション・フリーク・ショー」完成までを追ったドキュメンタリー。
「フリーク」とは、異形のもの、奇人・変人、なにか一つのことに熱中している人(マニア)などを表す言葉だ。
 ゴルチエは言う。
「フリークとは、とくに他とは違う人を指している。違いとは特別であることだ」
 そしてゴルチエは「人と違うから美しい」と、「違い」に「美」を見ている。
 
 不完全だからこそ美しい、違うから美しい。アルゼンチンタンゴ。
 
 そんなことを深夜に考えていた。
 
 書くのも言うのもたやすい。そこにいかにも重要なことがあるようにしゃべることもできる。けれどじっさいに「美」を創造できるかといえば、まったくたやすくない。
 だから、追い求めてゆける、ということなのでしょう。飽きないで。
 
 というわけで次回のミロンガ「Switch」のテーマはこれにしよう。
 
「不完全さを こよなく愛するひととき」
 
「美」をもってくると難易度高くて楽しめないから、「愛する」なら自分の心の動きだから。ふたりのDJ、それぞれの選曲がたのしみ。

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