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▪️マックイーンと「思いがけないこと」

 

 

 

 このところずっと次の原稿のための本を読み、映像を観ている。ファッションデザイナーたちのを中心に。十本以上のドキュメンタリーを観たり、何十冊もの本を読むなかで、つくづく思うのは、ファッションデザイナーという仕事はなんて過酷なんだろうということ。大きなのだけでも、1年に2回コレクションがある。そのコレクションにかけるエネルギーを思うと、消耗しないほうがおかしい。

 消耗。みな、たいへんな想いをしているのだけど、ファッションデザイナーといっても、おおまかに二つのタイプがあることを知った。

 ファッションが唯一の自己表現、自身は芸術家なのだというところで創作をしている人。ビジネスが苦手だから、優秀で信頼できるパートナーがいないと難しい。

 ファッションは芸術なんかではない。自分は職人なのだというところに立つ人。ビジネス感覚がある人が多い。

 そんななかで、私が久しぶりに、大きな感動を得た映画があった。

 といっても、何年も前に一度観ていて、正確な情報を得るために見返したのだけれど、内容を忘れていたこともあり、はじめてふれたときのような感覚で胸うたれた。

『マックイーン:モードの反逆児』(2019)

 アレキサンダー・マックイーン。1969年生まれ。2010年、40歳で自殺した鬼才デザイナー。もう、痛々しくも煌めいていてたまらなかった。

 彼はピアノ曲を聴きながら仕事をするのが好きで、とくに好きなのが、音楽家のマイケル・ナイマン。「マイケル・ナイマンがチームに加わった」と友人が語っていた。

 そしてドキュメンタリーもマイケル・ナイマンのしらべにのせて進むから、マイケル・ナイマンが好きな私としてはまた、たまらない。

 私が息をのんで、胸をうたれたのはドキュメンタリーの半ばを過ぎたころのシーン。

 1999年春夏コレクション。

 ラスト、真っ白なドレスをまとったモデルが回転する床の上でゆっくりとまわる。これがラスト、と思わせるから観客もそんな拍手を送る。けれど終わりではない。やがてモデルの白いドレスに二体のロボットがしなやかな動きでスプレーペイントを施す。

 と書くとあっけないかんじなんだけど、そのシーンは、ファッションショーという枠組みをすっかり超えていた。私はほんとうに胸うたれた。流れた涙は、美にふれたとき特有のものだということはわかった。

 けれど、美だけではない何かがあったのではないかと、二週間くらい考えていた。

 ひとつ思い浮かんだのは、強烈な驚きが、まったく思いがけないことが、そこにあったということ。自分のなかの予想をはるかに超えてくるものに私は出合ったのだということ。

 

 マックイーンのショーを観たあとではどんなデザイナーのショーも色褪せて見える、と映画のなかで業界の人がコメントしていたけれど、ほんとうにそうなのだろうなあ、と思う。

 デザイナーのトム・フォードがインタビューで語っていた。(『ファッション・アイコン・インタヴューズ』)

「(自分の仕事について)それは芸術を追求する作業だけど、芸術そのものではない。ところがアレキサンダー・マックイーンにとって、それは芸術だった。自分自身を表現することが大事なんだ。だから、そうしてできたものは彼の芸術作品だった。」

 ファッションと芸術を語るとき、名が出てくるのがマックイーンということに、ひどく納得した。

 ぜんぜん語りつくせないけど、記しておこう。

 来週のタンゴの夜、ミロンガ「Switch』のテーマは「思いがけないことが起こる夜」にした。

 どんなにそれが小さな、ささいなことであっても「思いがけないこと」は、たしかに感動をもたらす。そんなことが起こる夜になったらいいな、という願いをこめて。

 

*『マックーン:モードの反逆児』公式サイトはこちら

*マックーンのコレクション、VOGUE WORLDの記事がわかりやすいです

 

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