▪️不幸は仲間を好む『アメリカン・スプレンダー』
前回書いた『コンペティション』はU-NEXTで観たのだけど、見終わったとき、こちらもオススメ、の作品群のなかの最初にあったのが『アメリカン・スプレンダー』。
冴えない日々の生活を描いて有名になったコミック作家を描いた映画らしい。ちょっと観てみようかな、と軽い気分で観始めたら、思いがけず、面白かった。
ぐーたらで暗くて、だらしないし、いけてない外見だし、人生うまくいかなくてもうイヤだ。
という男性、ハービー・ピーカーがどんなふうにコミックを描くようになり、どんなふうに有名になり、それから人生が変わったのか変わらないのか、みたいなのが描かれていて、本人も登場したりして、ユニークな作りで、そして観終わったとき、私は救われたような心もちになっていた。
いや、このところの私、仕事的にはなかなか調子が出ていなくて落ちこんでいたけれど、そして今日も映画を浴びるように観てすでに深夜であることにやましさを感じているけれど、もっとハードル下げてあげていいんじゃない? 自分に。
と、気が楽に。
印象的だったのは、3番目の妻とのことを描いた作品について夫婦で話している場面。
妻が言う。「私が登場したストーリーには幸せな出来事もあった。でも彼は作品に描きたくなかったの。彼は幸せな内容では売れないと考えた。そうよね? 『不幸は仲間を好む』でしょ?」
これに対してハービー・ピーカーが答える。「私はネクラな男だってことさ。私の視点は陰気さと悲運だ」
Misery loves company. 不幸は仲間を好む
いくつか意味があって「不幸な人は他の人も不幸であることに安堵する」とか「自分は不幸だから他の人も不幸になれと願う」とか「同病相哀れむ」とか。
だから、ファンを失わないために幸せな出来事を描かないわけで、そんなハービー・ピーカーに私は情を寄せてしまった。
そのかんじ、わかります。
わかるけど、それって計算高くてキライ、でもわかります。
それを続けていると、実人生と作品の境界線があいまいになってきて呼吸困難になりませんか。
いろんなことを語りかけたくなった。
そしてハービー・ピーカーは、家に独りだと気がおかしくなってしまうほどの寂しがり屋で、妻が仕事で留守にしただけで寂しくて死にそうになっている。その姿に、私は自分はなんて強くなってしまったのだろう、とかなしい気分になった。