▽映画 ◎Tango アルゼンチンタンゴ ブログ「言葉美術館」 私のタンゴライフ
▪️1本の長編映画のようなミロンガ
今週火曜日のタンゴ、ミロンガ「Switch」のテーマは「1本の長編映画のようなミロンガ」。
さいきん『愛されるためにここにいる』をもう何度目かわからないけれど、また観て、自分の好きなタンゴの世界をじんじんと感じて、いろんな摩擦で見失いそうだったり、望まない方向に迷いこみそうになっていたけれど、でも、私はこの世界が好きなんだ、ということをつよく感じることができて、ひとりで泣いていたりした。
今回のテーマはそんな経験のなかで浮かんだ。
当日、3着を脱いだり着たり、アクセサリーをつけたり外したりして、もっともしっくりくるドレスとアクセサリーを選んだ。リップだけが新しい。大阪に出かけたときに買ったものだ。
所用や仕事があったこともあり、タンゴを踊るのは2週間ぶりだった。1週間が限界なのに2週間もあくと、もう飢餓状態に近い。踊る相手にこわがられないようにしないと、と用心しながら出かけた四ツ谷のタンゴバー、シンルンボ。
扉を開けるとDJブースに男性がひとり、バーカウンターに男性がひとり、そしてバーカウンターに立つひとりの女性を見たとたん、わあ、とひきこまれた。
薄明かりのなか浮かび上がっていた彼女があまりにも艶やかだったからだ。
瞬間、大好きな映画『花様年華』が浮かんで、その世界に迷いこんだかのような錯覚におちいった。くらりとする。
ここで彼女のことをこれ以上誉めそやすことはしないけれど、『花様年華』のヒロイン、マギー・チャンと彼女が重なって、私はずっとそのイメージのなかにいた。ウォン・カーウァイ監督がいるような、男性みんながトニー・レオンに見えてくるような(これはうそ)。
その夜のテーマについて、あれこれと想像をふくらませた結果、彼女が選んだ衣装。もちろんその姿が美しいのだけれど、テーマを意識して、想像をめぐらせ、おそらく楽しみにして、その場にのぞむ、という一連の流れのなかの彼女が愛しくも美しいと思った。そしてその美しさはきっとその場に艶やかな香りをふりまいていた。
ふたりのDJもそれぞれに「テーマを意識している!」と伝わってくるような選曲で、いつもとまた違う色彩の夜。
Buscándote ブスカンドーテが流れたとき、踊っていた相手のひとが言った。「この曲好きです」。
あなたを探し求めて、という曲でこのひとはどんな風景を思い浮かべ、どんな想いで踊るのだろう、と彼の物語と自分の物語を重ね合わせるように踊った。
あんなふうに踊ったのもきっと…。いま思い返して思う。あの場を支配していた彼女の艶やかな香りのせい。
♪Buscándote あなたを探し求めてわたしはさまよい歩き続けていた 疲労と孤独、不安をたずさえて 人生をかけてあなたを探し求めてきた あなたに逢うために足を速め 長い道を歩いてあなたの腕のなかにようやくたどりつき安らぐ でもわたしなんかいらないと言うなら、わたしはただ昨日まで歩いていた道にもどるだけ(超私訳)
さいご、ひゅう、ってふく風が好き。せつない。
その場を映画を観るようにながめるクセが私にはある。映画を観るようにながめたとき、当然、そこに集ったひとたちは、同じ場にいるというだけで、それぞれに役があり、物語がある。あの夜は、映画を意識していたひとたちが、たぶん、多かったから、だからいつも以上に私にとっては、一度しか上映されない貴重な映画だった。
*8年前の記事ですが。『愛されるために、ここにいる』はこちら
*対談形式のはこちら。よいこの映画時間『愛されるために、ここにいる』