▪️エコーと『ロシアン・ドールズ』と「悩みを愛す」
エコー検査で見るおなかのなかの内臓たちは、肝臓も膵臓も腎臓も、けなげに脈うっていて、その姿に愛しさがこみあげてきた。がんばっているんだなあ、不摂生もいいかげんにしてあげないとね、アルコールひかえめにするね、ごめんね、ありがとう。
もし○○だったら……の1週間を過ごしてわかったこと。私は想像力がわりと豊かだと思っていたけど貧弱だったこと。さいごが見えたら馬鹿力みたいなのが出ると思っていたけど単に脱力して終わりだということ。情けなさすぎた。
そんななか、たくさんの映画を観て、心に残るものが多くて、書きたいと思いつつ、書くエナジーあるなら新作の原稿でしょ、となってしまう。
それにしても何年も前に観た映画が、時を経て、こんなに刺さるんだ、とびっくりする体験がこんなに多いのはなぜ。
たとえば、セドリック・クラピッシュ監督による3部作。
『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』『ニューヨークのパリジャン』。おもしろいなあ。続編のドラマがあるということでそれはいま観ている途中。『ギリシア・サラダ』。
『ロシアン・ドールズ』には書きとめたセリフがたくさんあった。
甘美なはじまりの恋だったけれど、小さなケンカがあったりして、やがて日々の暮らしのなかにがんじがらめになってしまった……
と過去の恋を語る男性に、話を聞いていた女性が、そんなふうに言わないで、と諭す。
ーー日々の暮らしも愛の一部なのよ。
このセリフ、さらりと流れてしまいそうなかんじで置かれているのに、ずしん、ときたのは共感か、それとも悔恨か。
また、恋人同士の、女性が男性に愛を語る場面。(グザヴィエとウェンディ。グザヴィエがほかの女に会いにゆくのを知りながら、ウエンディは知らないふりして見送る。駅での場面)
ーーあなたは「完璧な男」よ。
(そんなことないよ、地球上で一番ダメな男だよ、と男は言う←ほかの女に会いにゆくところだし)
ーーそうよ、だから私には「完璧な男」なの。
(なんでそんなに優しいの?と男は尋ねる)
ーー優しくなんてないわ。26年の人生であなたは一番の出来事なの。
(僕は君が思っているような男じゃない、と男は言う←ほかの女に会いにゆくところだし)
ーーなぜそうわかるの? あなたはつねに完璧ではない。たくさんの悩みや欠点を抱えてる。誰でもそうよ。私はあなたの悩みが好き。あなたの欠点が大好きなの。欠点こそ最高よ。
ーー女性の多くは美しいものに夢中になる。みんなそれしか見ない。でも私は違う。美しさだけではない。ほかの何かに惹かれるの。完璧でないものを愛する。それが私よ。
まあ、女性の強さというか、どんなふうに言えば相手の心を揺さぶれるかわかっているかんじに、まいったまいった、となるのだけれど、そして、こんなふうな愛の言葉を言われても男は電車に乗ってしまって、またごたごたするのだけど。それはそれとして。
私はあなたの悩みが好き。
って、なにか真実の香りがする。
欠点が好き、というのとは違って、悩みが好き、って、私はそんなのがいいな、と久しぶりに熱き想いが胸に広がった。