◇永遠の語らい
カトリーヌ・ドヌーヴが出ているので観た『永遠(とわ)の語らい』。原題はポルトガル語でUm Film Falado 語られる映画、という意味。
ほんとその通りで全編通して、会話ばっかり。けれどそれがとてもよくて、私はすべてをノートに書き留めたかった。
ポルトガルの1908年生まれの映画監督マノエル・ド・オリヴェイラの2003年の作品。当時監督は95歳。
ポルトガルで歴史を教える若くて美しい女性が娘を連れてボンベイの夫に会いにゆくのだが、せっかくだから地中海の歴史ある地をめぐりたいと船旅を選択。豪華な船には有名人たちも乗船し、そこでヨーロッパの文明を象徴するような会話がテンポよく展開される。
映像は美しく、セリフもよくて、しずかに品よく物語りは進む。全員が、それぞれに個性的で魅力にあふれ、よい印象をもてる人たち。
ゆったり観ていて、途中気持ちよくなりすぎて、ついうとうと……そんな状態で観ていたからラストシーンには強い衝撃を受けた。
こういう終わり方をする映画は知らないはずはないし、私も自分が創る物語で似たような結末にしたこともある。
だからそういう意味での驚きではなく、これはなんだろう、映画を観終わったあとから、じわじわと私にいろんなことを語りかけてくる。
共鳴という形で。
監督は9.11がこの映画に深く関係していると言う。
どんな文明も、どんな知性も、どんな美しい人も、一瞬で滅ぶ。人間同士の権力への欲望が招く争いのために。
どちらか一方が悪いわけではないところが難しい。
昔から人間はそういうことを繰り返してきた。ギリシア、アテネの栄光の遺跡が、ラストシーンを観たあとで、頭を占領する。そして悲しみに覆われてしまう。
こういう映画を観たあと私はいつもこうなる。
こういう映画というのは、私がもっている感覚と似たものがある映画のこと、真実から目をそらすことを許さずに真実を私の目の前につきつける映画のこと、私のなかを流れる虚無と希望を混ぜて強く揺り動かす映画のこと。