◎ピアノ・レッスン◎
2016/10/20
いま、観たい映画がなくて、ちょっと飢えている。
なので、過去の特別な映画を観たりして、その飢えをなんとかなだめているのだが、一年に一度は観たくなる特別な映画は、DVDを購入することにした。
「ピアノ・レッスン」は私が利用しているレンタルサービスでは扱っていないから、購入するにも、自分に言い訳がきいて精神衛生上、とってもよい。
渋谷の映画館で、ひとりでこの映画を観たのは、かれこれ16年前になる。
私は27、8歳で、新しい恋と出逢い、そのせいで、それまでいつも側にいたひとをどうしたらよいのか、という問題をかかえて、体重が日々落ちてゆくようなそんなかんじだった。
静かで深いエロティシズムが、湿った画面にじっとりと満ちているような映像世界、マイケル・ナイマンの、熱情をそっとかきたてるような音。
「準備」は整っていたのかもしれなかった。
ラスト間際、ヒロインが、それまで自分の命と同じくらい大事にしていたピアノとともに海に沈む。
彼女はその瞬間、ピアノとともに死に導かれることをたしかに、選択した。
けれど、ぎりぎりのところで、彼女は必死になってピアノと自分の足をつなぐ縄を解き放ち、必死になって海上にむかって、水をかきわける。
彼女が「生」を選択したその瞬間は、私が生を選択した瞬間でもあった。
私は、その場面で、愕然としたのだった。
いままでの彼と海のピアノが重なったことに、愕然として、自分のこころを知った。
そして、冷酷で身勝手であっても、それでも私は私の「生」を選択したい、とつよく思った。
あれから数回、自宅のビデオでこの映画を観た。
そして久しぶりの今回、私のこころに残ったのはヒロインのこころのつぶやき。
「自分の意志が怖い。何をするか分からない強い意志が……。」
薄暗い早朝、マイナス4度の空気は、白く澄んでいて、森のなかはピアノレッスンの世界を思わせるような、そんな風景。