▽映画 ブログ「言葉美術館」

◎ハンナ・アーレント◎

2020/04/23

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 まだ一月なのに、今年一番の映画になるような予感がする。『ハンナ・アーレント』。

 昨年末は打ちひしがれていたから、こんな大切な情報も逃していた。教えてくれたAちゃんにはほんとに感謝。

 

 マルガレーテ・フォン・トロッタ監督。

 ドイツの、女性の監督。私は彼女の映画が好きで、『三人姉妹』は1988年か89年か、岩波ホールで観て、心揺さぶられて小説にも書いたくらいだ。

 劇場では観ていないけれど、『ローザ・ルクセンブルク』(1986年)は、ビデオで借りて何度か観た。ローザという女性も好きで、『うっかり人生……』にも彼女のことを書いている。

 

 それで、ローザを演じたのと同じ女優バルバラ・スコヴァがハンナを演じている。ナチを扱っているものはこのところ避けていたから普通なら躊躇するはずなんだけど、これだけの条件がそろえば当然、躊躇を軽く超えて私はひとりユーロスペースへ。

 

 ハンナ・アーレント。

 ドイツの哲学者。ユダヤ人。強制収容所に収容されるが脱出しアメリカへ。

 1963年にナチの戦犯アイヒマン裁判についてのレポートを発表し、全米で激しい論争を巻き起こす。映画ではこの時期が描かれている。最晩年まで「“悪”という問題に何度も立ち帰った」ひと。

 

 ぶるぶるっとふるえました。

 ラストのハンナ・アーレントの8分間のスピーチ。

 あまりの美しさに私は涙がとまらなかった。

 

 なにが美しいかといえば、本物の知性があり、それが勇気と合致したとき、ここまでの真実にたどりつける、というその物語が私には美しくて、自分が欲しいもの、大切にしたいものをずばりと提示されたようで、それで感動のあまり涙が出たのだと思う。

 

「悪」がメインテーマになっていて、私がいま、知りたいことがつまっている。

 

 パンフレットも買った。

 家に帰って娘との会話。

 すごいの観てきた。

 感動したの? 

 感動なんて言葉は違うな。

 あ、パンフレット買ったんだ、すごくめずらしいね。

 何年かに一度だよ。

 そうとう良かったんだね。

 うん、たぶん、「出会い」だった。

 

 

 パンフレットを買ったのは採録シナリオがあったから。

 ラスト8分間のスピーチをもう一度じっくりと読みたかった。

 とくに感じ入ったところを抜粋する。

 

***

世界最大の悪は、平凡な人間が行う悪なのです。

そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。

人間であることを拒絶した者なのです。

そしてこの現象を、私は『悪の凡庸さ』と名づけました。

***

ソクラテスやプラトン以来私たちは“思考”をこう考えました。

自分自身との静かな対話だと。

(略)

思考の嵐”がもたらすのは、知識ではありません。善悪を区別する能力であり、美醜を見分ける力です。

私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。

***

 

 悪の凡庸さ。

 ほんとにそうなんだと思う。

 すべてはこれがあって、信じがたい残虐行為が生まれる。

 

 それにしもハンナがナチ戦犯のアイヒマンの裁判を傍聴したときの、あのときの視線にはふるえたな。

 アイヒマンを悪人として糾弾して当然の立場でありながら、「うん? なにか違う、おかしい」と思う、その視線。

そして独自の考えを展開してゆく。

 集団狂気とは対極にある個人の知の力を私は彼女に見た。私が欲しいものがあった。

 

 私のブログを覗いてくださっているみなさん。

 ハンナ・アーレント。

 たいへんです、あんまり時間がありません。劇場を探してぜひ、足を運んでください。これ観ないで何を観るの。そんな映画のひとつです。

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