ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎64本目『MISS ミス・フランスになりたい!』

【あらすじ】
 アレックス(アレクサンドル・ウェター)の子どものころの夢はミス・フランスになること。「男の子なのにおかしい」と笑われた記憶は頭から消えません。さて、成長した彼は、両親を事故で亡くして以降、人生を諦めたような日々と送っています。そんなとき偶然再会した幼なじみが自分の夢を叶えたことを知り、なにかがアレックスのなかに芽生えます。自分も夢を叶えたい。そしてミスコンテスト出場を決意します。下宿の家主ヨランダ(イザベル・ナンティ)や個性豊かな下宿人たちに支えられて、アレックスは男性であることを隠したまま厳しい審査を勝ち進んでいきますが……。

 

路子
路子
すごくいい映画だった。うまい作り方なのよね。感動させどころのツボをおさえてる。
割とオーソドックスな作りでしたね。
ちゃんと性格の変化も描いていたり。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
SNSをやることで、自分を見失ったり。
予選の時と、SNSで自分を見失っている時のアレックス(アレクサンドル・ヴェテール)は、全然違いますもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
いとも簡単に、人って勘違いをしてしまうのよね。
それに気付くか、気付かないかで、自分を取り戻せるか否かも決まる。
りきマルソー
りきマルソー

   

 

路子
路子
それにしても心をかなり揺さぶられたから、理由は何かなって考えてみたの。
ひとつは、アレックスがチャレンジしていく様子や、周りの人たちの優しさとか、理屈ではない美しいものを見たから。
路子
路子
アレックス役のアレクサンドル・ヴェテールがインタビューの中で、(脚本を読んだ時に)自分の好きだと思えるような女性たちが描かれていたのがよかったと、言っているの。そんな人ばかりではないよね、というくらいみんないい人たちだったものね。
ホテルで相部屋になるパカ(ステフィ・セルマ)が一番分かりやすいいい人ですよね。
他のミスコンメンバーの秘密を知ったら、揺さぶって脅すぐらいのことは考えそうですけど、秘密を受け入れて、応援までしちゃいますもんね。
プロデューサーのアマンダ(パスカル・アルビロ)は、アレックスの正体に気付きながらも、最初から目を掛けて、励ましたり、時には厳しいことを言ったりしながら、アレックスを立ち直らせますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
なかなか現実世界ではないものを見せてもらった。こうだったらいいなのオンパレード。
ミスコンのシーンはドヌーヴの『ミス・ブルターニュの恋』を思い出しました。
将来、ヨボヨボヨレヨレの姿で「何年のミス・〇〇よ」って誇らしげに言うんだろうなあって(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私も思い出した(笑)。

   

 

この作品はトランスジェンダーの話ではなく、どちらかといえば、ドラァグクイーンに近いように思えます。
自分は幼い頃、女の子が好きになるようなものが好きだったり、それが理由でバカにされたりしました。でも女の子になりたかった訳でも、女性らしさをアピールしたかった訳でもなかったです。
アレックスは男性でありたいと思っているし、手術をしたい訳でもない。私と違うところは、女性の姿で女性らしさをアピールしたいと思ってるところですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私の場合はタンゴかな。
タンゴは女性性をすごく出すものだけど、たまに男側としてリードしたりもするの。その時は完全に男になるし、いつもとは違う自分が立ち現れる。
アレクサンドル・ヴェテールが「誰の中にも男性性と女性性があって、それが強く現れる人と、そうじゃない人がいる」と言っていたけれど、すごく納得がいく。
男らしさ、女らしさって、そもそも何だろうって感じですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう、それも考えさせられた。
昔は、男の子なんだから泣いちゃダメとか、女の子なんだからおしとやかにしなさいとか、普通に言われていましたけど…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
それが当たり前の中で育ってきていたものね。
伝承しちゃうんですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
伝承(笑)。
ここは男らしくしっかりしなさいみたいな気持ちとか、そういう感覚は抜けきらないのよね。よくよく考えれば違うとは思うけれど、私もたまに口にしちゃったりする。

   

 

路子
路子
ひとりひとりの人物の掘り下げが、もう少し欲しかった。
割とサラッとしていましたよね。
アレックスが住んでいる家は、マイノリティのごった煮みたいなメンバーでしたが、深く掘り下げられたのは、ローラ(ティボール・ド・モンタレンベール)ぐらい。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうなの。
でもやっぱりアレクサンドル・ヴェテールの魅力によるところが大きいね。
もし主人公が、オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』のロマン・デュリスみたいだったら、女装しているおじさん感が強くなって、コメディよりだったり、笑わないようなシーンなのに笑う人がいたりする、全く違う映画になりそうですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
奇跡的な美しさだもん。
ジェンダーレスという言葉が使われていましたね。監督のインタビューでは、アンドロギュノス的と書かれていました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
セクシュアリティを扱った映画の中では、新しいタイプよね。
トランスジェンダーの映画はたくさんありますけどね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。『リリーのすべて』とかね。

 


 

路子
路子
パカがアレックスの箱の中身を見ていたけれど、何を見つけたの?

胸のパッドみたいなやつですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
それを見つけただけ?
パカが鍵穴から覗くシーンでは、箱の中のものを何か縫っていましたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
でも、最後にアレックスが脱いだ時、胸膨らんでなかった?
男の人でも体格がいいと、そう見えますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あれだけ細い人でも?
コルセットつけていたからじゃないですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
それで持ち上がってるのか。ファリュスも完全に隠すことができるのね。
アレックスがすべてをさらけ出したのは、最初から決めていたことなのかしら。
最初からではないと思いますよ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
何かひとつの達成感があったのかな。
女性らしさで表現するのではなく、自分らしさで表現したくなったとか。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
でもせっかく最終まで残ったのに、ミスフランスになろうとまでは思わなかったの?
小さい頃の自分の姿を幻想として見たことで、否定され続けていた小さい頃の自分を肯定してあげたかったのかも。
りきマルソー
りきマルソー

 


 

路子
路子
ミスコンは女らしさをすごくアピールする場だから、アレックスもミスコンで讃えられるような女らしさを勉強していくけれど、そこで会得した微笑み方や仕草は、とても綺麗。

でも、自然な笑顔ではないですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
作っている笑顔。女らしさというものに対する風刺だったのかな。
路子
路子
そういえば、アレックスが「女性でいる時の方が強くなれる」と言っているのが印象的だった。

ドラァグクイーンの人が、そう言っているのを聞いたことがあります。
あとは女性ですが、画家の松井冬子は、自分のきっとした化粧とか着物姿は、ドラァグクイーンの感覚に近いと言っていました。
ひとつ前に出るための戦闘服みたいな感じですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
変身するみたいなのは、よく分かる。
女性になっている時のアレックスと、普段の生活のアレックスが交互に描かれていましたが、普段の時の方は弱々しさを感じますよね。
小さい頃から石を投げられるような環境で育っていたら、素の自分に対する周りからの目が怖いっていうのがあるかもしれませんね。
りきマルソー
りきマルソー
でも、女性になりたいわけではないけれど、ボクシングジムにエリアスと妊娠しているエリアスの奥さんがいる時に、アレックスがちょっと悔しそうな顔をするんですよね。あれって何だったんだろうって思いました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
自分には不可能なことだと思っているようなね。
女帝みたいな人に、「絶対に女にはなれない」と釘を刺された時も、どきっとした表情をしてます。
この映画はアレクサンドル・ヴェーテルと出会ったことで作られた作品ですが、出発点はトランスジェンダーがテーマだったらしいです。だから混ざってしまっている部分はあるのかもしれませんね。
りきマルソー
りきマルソー

 


 

路子
路子
後半の審査の時、ミスコンにトライしようと思ったきっかけを聞かれた時に、アレックスは「自分を知りたかったから」と、答えたでしょう?
あれはどういう意味なのかな。

ミスコンってあまり詳しくないですけど、見た目や内面の美しさを極めたり、知識やマナーも知っていなきゃならない。自分がどれだけできるか…自分との戦いですよね。あとは満足していない生活を変えていくみたいな野心もありますよね。
今までゆらぎのあった人生を改めて見つめ直し、自分を受け入れるチャンスみたいなものだったのかも。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そうよね。まだまだ若いもの。
路子
路子
アレックスは今後どうなっていくと思う?
ラストあたりでは、初めて両親のお墓参りしたでしょう?

それこそ、自分と向き合うことができるようになったからですかね。
両親との関係もそんなに描かれていなかったですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
全然描かれていなかった。
家の窓から見えていたのは、多分、両親のお墓だけれど、そんなに近い場所にありながら行けなかったのは、ずっと向き合えなかったから?
両親との確執があったから?
例えば、亡くなった両親は女性の姿になることを否定するような親だったかもしれないし、受け入れてくれる人たちだったかもしれない。そこはわからないです。
確執があったのかもしれないし、両親に対して後ろめたさみたいなものを感じていたのかもしれない。
うまく説明できないですが、今までは両親に対して、誇りを持って自分を出すまでには至らなかったのだと思います。親に合わせる顔がないみたいな感覚。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そういうことか。

   

~今回の映画~
『MISS ミス・フランスになりたい!』 2020年 フランス
監督:ルーベン・アウヴェス
出演:アレクサンドル・ヴェーテル/イザベル・ナンティ/パスカル・アルビロ/ステフィ・セルマ/ティボール・ド・モンタレンベール/クエンティン・フォーレ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間