ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎67本目『アンティークの祝祭』


【あらすじ】
高齢で、記憶が危うくなり始めているヒロイン、クレール(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、ある夏の朝、突然に悟る。「今日が人生最後の日」。そしてヤードセールを開催し、長年かけて集めてきたアンティークのコレクションを処分する。その品々は彼女の人生の断片でもあり、アンティークとともに、彼女の長い人生のさまざまな記憶が蘇る。母親が思い出の品を処分していることを聞いた娘のマリー(キアラ・マストロヤンニ)は母を訪れる。ある事件がきっかけで疎遠だったふたりだが……。

 

路子
路子
原作はリンダ・ラトレッジの「La dernière folie de Claire Darling(クレール・ダーリングの最後の狂気)」。これは、もう、そのままのタイトルでとても好き。邦題の『アンティークの祝祭』というのも、すごくきれいなタイトルだと思う。
フランスっぽいタイトルですね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
でも、アメリカの作家の作品なんだって!

路子
路子
ストーリーは、色々あった老婦人の人生を、一日に凝縮してかいま見た感じだったね。

走馬灯のように。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。
そんなに詳しく語られるわけではないけれど、それぞれのアンティークの品物で、過去の出来事を思い出していく感じ。

 
 

過去の思い出といえば、クレールの娘マリーは、小さい頃から母親が大事にしているアンティークコレクションに囲まれながら生活をしていましたよね。
バービーちゃんで遊んでいるような子だったから、アンティークにはあまり興味を持っていないように見えました。むしろ友達のマルティーヌの方が珍しがって、興味を持っていましたよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
うんうん。
ラストまで観ると、マリーの秘密基地のような場所には、いくつものアンティークが隠されていたのが分かるんですよね。
興味のないように見えても、母親の大切にしているアンティークの影響をちゃんと受け継いでいたのかなって思いました。子どもならではの強がりだったのかもしれないですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
みんな象の時計のことが好きなのよね。
そうですね。
クレールは時計だけはガレージセールで売らないと言っていたし、マリーも回想シーンでは寝る時に側に置いていて欲しいと言っていました。友達のマルティーヌもあれだけは死守せねばみたいな感じで、隠しちゃいますもんね。
りきマルソー
りきマルソー

 
 

やっぱりTHE・ドヌーヴなんですけど、いつものTHE・ドヌーヴよりは抑えめな印象でした。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
『真実』と同時期ぐらいでしょう?
そうですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
『真実』は女優という役だったからTHE・ドヌーヴだった。それと比べたら抑えられてはいたけれど、でもドヌーヴよね(笑)。
もちろんそうですけどね(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
色々な人のレビューを見たけれど、似たようことを言っている人が多かったな。
「素晴らしいけれど、近年のドヌーヴは、どんな役柄を演じていてもカトリーヌ・ドヌーヴがカトリーヌ・ドヌーヴを演じてる。」って(笑)。
路子
路子
今回、ドヌーヴは白髪にして役柄を演じていたけれど、監督からのお願いだったんだって。
監督は、白髪姿で演じたドヌーヴについて「私は彼女の見慣れたイメージを変えたかったの。クレール・ダーリングはある種の世捨て人。彼女は気を強く持って、最後のために素敵な服を着る。でもドヌーヴのきれいなブロンドの髪はふさわしくないと思えた。」って言ってた。
白髪の提案を監督は断られると思っていたけれど、ちゃんと意図を汲んで同意してくれた、って。
ドヌーヴらしいですね。ちゃんとそれなりの理由があれば、受け入れる人ですからね。
りきマルソー
りきマルソー
ドヌーヴが自分の身体を鏡で確認するシーンとか、愛おしかったですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そういう目で見ちゃうのよね。映画を純粋な視線で観られない。
一家族みたいな感じですもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうなっているから、その歳の人が認知症を演じているというだけで、物悲しくなっちゃう。
路子
路子
娘役がドヌーヴの娘のキアラ・マストロヤンニだし、「カトリーヌ・ドヌーヴの言葉」を書く上で、ドヌーヴのことをずっと追っていたから、認知症という役柄も現実とすごくかぶっちゃった。
私もちょっと寂しくなっちゃいました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
でしょう?
役柄を演じているというのは分かっているけれど、認知症になってもドヌーヴはドヌーヴなんだって思っちゃった(笑)。
だから、映画そのものというよりは、ドヌーヴ愛ゆえの目線で観ちゃったのかもしれない。
ドヌーヴが脳卒中で入院した後に観ているから、なおさらですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そうそうそう。

 

 

路子
路子
キアラの使われ方は、ちょっと残念だったかな。
お母さんに反発をしている役柄だから、性格も服装も地味だったけれど、かなりドヌーヴに負けちゃってた。
友達のマルティーヌの方が目立って見えましたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。キアラを活かしきれていない感じだった。
まあ、ますますのますますでマストロヤンニにそっくりになっていくけれどね(笑)。
歳を重ねるごとに。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
着飾っていないからなおさらね。
路子さんから、ずっとそう刷り込まれているので、私もそうにしか見えなくなってきました(笑)。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

路子
路子
神父さんは、クレールに気があるわよね?
私もそれは思いました。
クレールが神父さんを訪ねる回想シーンで、ふたりが意味深な感じで話していたので、何か関係があったのかと思っていたんです。でも違うんですよね。気持ちはあったとしても、寝ちゃったとかではなく…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そこまではないような気がする。聖職者だし、そこまでしていたら罪深いわよね。
話を追っていくと、クレールがしてしまったことと関係があるのが分かってきますよね。
りきマルソー
りきマルソー

 


 

路子
路子
夫が苦しんでいる時に電話をするのをためらっていたけれど、その場面であの映画を思い出しちゃった。いそいそと初夜の準備をする映画!

ルイス・ブニュエル監督の『哀しみのトリスターナ』ですね!
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう!
トリスターナは、死にそうな夫を前に、病院に電話をするのをやめちゃって、助けないのよね。
今回の映画では、本当に電話をしたのか、それとも認知症になった彼女の記憶違いだったのかまでは詳しく描かれていなかったけれど…。
電話については、病院でクレールがマリーに電話をしていたかを尋ねていましたけど、その時にマリーは「電話をしていた」と、答えていましたね。
でもそれが母親を慰めるためにそう言ったのか、実は本当に電話をしていなかったのか、そこまでは語られていなかったですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そういうのは曖昧でいい、という雰囲気が、この映画にはあったような気がする。それは多分、ヒロインの認知症というのが深く関係していると思う。見ている方も…。
あやふやな感じ。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そう。問い詰めなくても、与えられている情報だけで楽しむべきだと感じたの。それが見ていて心地よかった。

 

 

もしこれが自分だったら、最後の最後で大事なものを手放せますか?
死ぬと分かっていても、物に執着している人だと手放せなかったりするじゃないですか。
りきマルソー
りきマルソー

 

路子
路子
私は無いかな。今回の引っ越しでよく分かった。
(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
死ぬと思えば、本当に無いと思う。
あれだけ物に執着している人が、どうしてこんなに簡単に手放せるんですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そのまま遺して死ぬことも出来るし、好きにしてちょうだいって言い残して、死後に査定の人を呼んでオークションにかけることもできる。
でも、一つひとつの品を大切にしていたからこそ、本当に欲しがっている人や、大切にしてくれる人の元へいくところをちゃんと見届けたかったのかもしれないね。

アンティークが、今度は違う人の人生に寄り添うのを願っているわけですね。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

爆発が死因とまでは思っていないにしろ、今日、自分が死ぬんだというのをクレールは予知していましたね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
漠然とね。
今日死ぬような気がすると言いながらも死なない、というパターンは今まで見たことはあったけれど、今回の映画は、たまたま事故が起こり亡くなってしまったパターン。
認知症で、お茶を沸かしているシーン多かったし、いつガス爆発が起こってもおかしくない状況ではあったのよね。
爆発のラストシーンというと、『永遠の語らい』を思い出しちゃいますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
たしかに。
『永遠の語らい』の爆発は予告されていたことだけれど、今回の爆発は、突然、静かな世界に起こったこと。アンティークを中心に人生を振り返っていた時間が一瞬で吹き飛び、クレールの生が終わり、物もなくなってしまうのよね。
ドキュメンタリーを観ている感じの物悲しさと、押し付けがましさがなく、記憶があやふやな世界を楽しんでいる中で、一瞬にして全てが吹っ飛んでしまうあのラストシーンだったから、衝撃が大きかった。
何もかもなくなってしまいますもんね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そのコントラストが本当に衝撃的。
人生を積み重ねて、色々なものを手に入れても、終わる時は本当に一瞬。物で人生を思い出しているのを見てきたから、余計にそう思った。儚いなあ。

 


 

路子
路子
それにしても、あんな風に、認知症でものがわからなくなってきてしまうって辛いね。

朦朧としながらも、自分がしたいことができるっていいですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
自分でそろそろ危ないというのが分かっている状態だから、あのくらいの時に死ぬことができたのは、よかったのかもしれない。
自分もそう思います。クレールが爆発で死んでしまったことは悲しいですが、まだちゃんと意識のある状態で死ねるということは、逆に幸せなんじゃないかって。
認知症がもっとひどくなったら、自分で選ぶこともできないじゃないですか。自分はそうはなりたくないなぁ。
りきマルソー
りきマルソー

 

~今回の映画~
『アンティークの祝祭』 2019年 フランス
監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/キアラ・マストロヤンニ/アリス・タグリオーニ/ロール・カラミー/サミール・ゲスミ

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間