◎69本目『カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇』
【あらすじ】
カミーユ・クローデルは19歳で彫刻家ロダンに弟子入りし、恋に落ちる。しかし23歳年上のロダンには内縁の妻ローズがいた。波乱に満ちたカミーユとロダンの関係は15年で破局、カミーユは精神を病み家族によって精神科病院へ送られる。時は1915年。南仏のモントヴェルク精神科病院で、苦悩の日々を送るカミーユは51歳。弟のポール・クローデルが久々に訪ねてくると聞いて、退院への希望を胸に弟の来院を心待ちにするが……。
近年のジュリエット・ビノシュ出演作の中では、彼女の女優性が輝いている映画だと思いました。
りきマルソー
路子
私もそう思う。いい映画だった。
日本では上映されていない作品なんですよね?
りきマルソー
路子
そうみたい。
精神病院の日々だけを淡々と描いている作品だから、ヒットしないと判断したのかな。
精神病院の日々だけを淡々と描いている作品だから、ヒットしないと判断したのかな。
すごくいい作品でしたよね。
りきマルソー
路子
うん。ビノシュって本当にすごい!
ドヌーヴ現象のように、ビノシュだからいいと思っているのかもしれないけれど、これ、ビノシュでなければ成立しなかった映画だと思う。だって、なんの変化もドラマ性もないじゃない? ひたすら悲惨な女性だもの。
ドヌーヴ現象のように、ビノシュだからいいと思っているのかもしれないけれど、これ、ビノシュでなければ成立しなかった映画だと思う。だって、なんの変化もドラマ性もないじゃない? ひたすら悲惨な女性だもの。
じわじわと来るんですよね。ビノシュの演技が。
りきマルソー
路子
ビノシュだからこその演技力ですごいと思う。でもこれって矛盾じゃないよね、ジュリエット・ビノシュという存在が完全に消えてた。
ビノシュはそれぞれの映画で、役に化けますよね。
りきマルソー
路子
そこがドヌーヴと違うところ。
もちろん『おやすみなさいをを言いたくて』や『アクトレス 女たちの舞台』みたいに、ビノシュらしい役柄もあるけれど、彼女は演技力もあるし、役になりきるから、その度に違うものが出てくるのがすごい。
もちろん『おやすみなさいをを言いたくて』や『アクトレス 女たちの舞台』みたいに、ビノシュらしい役柄もあるけれど、彼女は演技力もあるし、役になりきるから、その度に違うものが出てくるのがすごい。
カミーユ・クローデル自体は有名ですよね?
りきマルソー
路子
うん、有名。
路子
りきちゃんは、イザベル・アジャーニの『カミーユ・クローデル』は観たことある?
観てないです。
そちらはカミーユ・クローデルの人生の前半部分、彫刻家のオーギュスト・ロダンとの関係を中心に描いているんですよね?
そちらはカミーユ・クローデルの人生の前半部分、彫刻家のオーギュスト・ロダンとの関係を中心に描いているんですよね?
りきマルソー
路子
そうそう。
ロダンと制作を共にして、ロダンに作品を盗まれると思い始め、狂気に陥っていくあたりのことを描いているの。
ロダンと制作を共にして、ロダンに作品を盗まれると思い始め、狂気に陥っていくあたりのことを描いているの。
アジャーニが演じているというだけで、どんな作品か予想が出来ますね。
りきマルソー
路子
私たちに言わせれば、「このくらいのこと、普通にあるよねえ」ってくらいの恋愛話。アジャーニは演技過多でやり過ぎな感じがあったような記憶が。
アジャーニってそういう傾向がありますよね。
はいっ、演技です!みたいな。
はいっ、演技です!みたいな。
りきマルソー
路子
そうそう。
狂乱演技でロダンとの関係を演じていたから、そのあたりは観ていてきつかったけれど、ふたりの共同制作の様子やカミーユの才能が描かれているから面白かったよ。
狂乱演技でロダンとの関係を演じていたから、そのあたりは観ていてきつかったけれど、ふたりの共同制作の様子やカミーユの才能が描かれているから面白かったよ。
路子
ロダンの代表作の中には、カミーユが作った作品もいっぱいあるけれど、当時は評価されなかったし、そもそもカミーユが作った作品だと誰も思わなかった。
路子
そういうことがあったから、ロダンに対する執着と愛憎が生まれて、そこに芸術家としての矜持が加わって、もうドロドロなのよね。
次第に、ロダンが作品を盗みにくると思うようになり、奇行に走るようになったから、精神病院に入院させられてしまった。
そのエピソードを知った時に、この程度で入院させられちゃうんだ、気をつけなきゃって思ったの(笑)。
次第に、ロダンが作品を盗みにくると思うようになり、奇行に走るようになったから、精神病院に入院させられてしまった。
そのエピソードを知った時に、この程度で入院させられちゃうんだ、気をつけなきゃって思ったの(笑)。
何もしていない時に突然泣き出すなんて、私たちにとっては日常茶飯事ですよね。
りきマルソー
路子
そうよ。
私と路子さんが、この時代(1915年頃)に生きていたら、確実に精神病院に入れられていましたよね(笑)。
りきマルソー
路子
ハイ、一緒にあの病院にいたと思います(笑)。
でもね、カミーユを調べている時に思ったのは、誰が何をどう判断したら、私は狂っていると判断されるのだろうということ。私自身、今よりもクレイジーな時にカミーユのことを調べていたから、本気で怖かったなあ。
でもね、カミーユを調べている時に思ったのは、誰が何をどう判断したら、私は狂っていると判断されるのだろうということ。私自身、今よりもクレイジーな時にカミーユのことを調べていたから、本気で怖かったなあ。
路子
ビノシュのカミーユ・クローデルはほんとうにかわいそうな女性の数日間を描いた作品。カミーユの人生のいわばおいしいところ、ドラマティックなところをばっさり切り落としている。思いきったな、と思う。
路子
精神的に不安定だった時期があったから精神病院に入れられてしまった人が、回復してきて、家族がきっと救ってくれる、退院させてくれるって希望を捨てないことで、なんとか正気を保っている。
その数日間の日常をあそこまで丁寧に描かれると、自分がそこにいるような感じになってくる。私、本当につらくなっちゃったもの。
その数日間の日常をあそこまで丁寧に描かれると、自分がそこにいるような感じになってくる。私、本当につらくなっちゃったもの。
そうなんですよね。
ずっと狭い空間の中での話だから、本当にそう思いました。
ずっと狭い空間の中での話だから、本当にそう思いました。
りきマルソー
路子
たまに山に登るシーンとかがあると、はぁーって、深呼吸しちゃうくらい。
足元おぼつかない人が多いのに、あの急な山を登るのは結構ヘビィですよね。
りきマルソー
路子
そこ拾うよね(笑)、たしかにきついよね。
転げ落ちて死んでいく人がいるんじゃないかと思うくらい急だった。
転げ落ちて死んでいく人がいるんじゃないかと思うくらい急だった。
しかも到着した瞬間、すぐ帰るし(笑)。
りきマルソー
路子
そうそう(笑)。
他の患者を見る時のビノシュの演技が印象的だったんですよね。
修道女に頼まれて患者の連れ添いを手伝ってはいるけれど、自分はこいつらとは違うと思っているような目線。
実際にカミーユも、他の患者を見下すことで、自分の精神の安定を保っていたみたいなので、そこをちゃんと目線だけで表現するビノシュはすごいと思いました。
修道女に頼まれて患者の連れ添いを手伝ってはいるけれど、自分はこいつらとは違うと思っているような目線。
実際にカミーユも、他の患者を見下すことで、自分の精神の安定を保っていたみたいなので、そこをちゃんと目線だけで表現するビノシュはすごいと思いました。
りきマルソー
路子
そこまでちゃんと表現できていたのね。
路子
連れ添っている人の中に、カミーユを慕っている歯の抜けている女性がいたでしょう?
カミーユと手を繋いだり、近寄らないでと言われたりする人ですよね?
りきマルソー
路子
そう。
カミーユは彼女のことをどう思ってたのかしら。
カミーユは彼女のことをどう思ってたのかしら。
彼女に対する気持ちには波がありますよね。
軽蔑的な目で見ることもあるし、寂しい時は一緒にいてほしいとか思っていたんですかね。
それとも、修道女の手伝い的な目線で見ていたんですか?
軽蔑的な目で見ることもあるし、寂しい時は一緒にいてほしいとか思っていたんですかね。
それとも、修道女の手伝い的な目線で見ていたんですか?
りきマルソー
路子
修道女から世話役をする人間と見られることで、自分の正気を保っていた部分はあると思う。
路子
とはいえ、ロダンの一味が作品を盗みに来るとか、食事に毒を入れようとするみたいな妄想…というか強迫観念、思い込みはずっとあるのよね。
もうかなり前にロダンとの関係は終わっていると伝えても、ずっと抜けない部分なんですよね。それが理由で食事も自分で作っているし。
りきマルソー
路子
そういった部分が、外で普通に生活している人とはちょっと違うところなのかもしれないけれど、その程度だったらよくあること。
路子
演劇の稽古を見ているシーンでは、初めて穏やかな笑顔を見せるけれど、男女の諍いをやっているから…。
思い出して突然泣き出すんですよね。
りきマルソー
路子
そう。
微笑ましいな、楽しいなと、思いながら見ているけれど、稽古中の台詞が頭に入ってくると、忘れたい記憶を思い出して泣いてしまう。
あのへんの感覚はよく分かる。
微笑ましいな、楽しいなと、思いながら見ているけれど、稽古中の台詞が頭に入ってくると、忘れたい記憶を思い出して泣いてしまう。
あのへんの感覚はよく分かる。
路子
休憩で、くだらない話していい?
ファーストシーンの入浴が印象的だったでしょう。
ビノシュ出ました!みたいな(笑)。
ファーストシーンの入浴が印象的だったでしょう。
ビノシュ出ました!みたいな(笑)。
ビノシュお得意の陰毛シーンですね(笑)。
りきマルソー
路子
足を広げてね。そこまで撮る必要があったのかと思うくらい。アングルとか色々あるだろうに、真正面からだったもの。
しかもドアップなんですよね。
りきマルソー
路子
やっぱり見せないと気が済まないのかしら…(笑)。
本当ですよね。
色々な映画でその姿を見ているような気がします。
色々な映画でその姿を見ているような気がします。
りきマルソー
路子
もう、彼女の身体のことを隅々まで知ってるくらい見てるもの!
路子
カミーユはあの状態のまま、精神病院から出られないのよね。
しかも結構長生きしたんですよね…78歳で亡くなっているみたいです。
りきマルソー
路子
1913年(49歳)に精神病院に入れられてから、死ぬまで出してもらえなかった。
入れられた時はもしかしたら錯乱状態だったかもしれないけれど、今回の映画で描かれている時代の頃は、よくなってきている状態の頃。病院の先生も落ち着いてきていると言っていたのに、劇作家で外交官でもある弟のポール・クローデルが退院を許さなかった。私はあの男を許せない。
入れられた時はもしかしたら錯乱状態だったかもしれないけれど、今回の映画で描かれている時代の頃は、よくなってきている状態の頃。病院の先生も落ち着いてきていると言っていたのに、劇作家で外交官でもある弟のポール・クローデルが退院を許さなかった。私はあの男を許せない。
ポールはキリストの教えっぽい感じで話をしていましたけど、周りもおかしいと思うくらいの変な信仰心を持っているような気がしました。神の言葉を盾にして、あたかもいいことを言っているような感じでしたが、全くそんなことはない。
りきマルソー
路子
そうなの。
ポール・クローデルは有名な作家。だけど、カミーユを病院から出してあげなかったということで、彼の書いたものは一行も読みたくないと思ってるくらい!
ポール・クローデルは有名な作家。だけど、カミーユを病院から出してあげなかったということで、彼の書いたものは一行も読みたくないと思ってるくらい!
路子
弟はそんなかんじでしょ。それでお母さんとも仲がよくなかったのよね。
ちょっと調べたら、一度も見舞いに来なかったとありました。
りきマルソー
路子
ロダンに弟子入りした時も母親は止めたし、カミーユの芸術を理解することもなかった。
施設からカミーユを出すことは、家族にとって重荷だったのよ。彼女を厄介者だと思っていたし、特に弟のポール・クローデルは、自分の名声や立場に傷が付くと思っていたような気がしてならない。嫌い。
施設からカミーユを出すことは、家族にとって重荷だったのよ。彼女を厄介者だと思っていたし、特に弟のポール・クローデルは、自分の名声や立場に傷が付くと思っていたような気がしてならない。嫌い。
~今回の映画~
『カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇』 2013年 フランス
監督:ブリュノ・デュモン
出演:ジュリエット・ビノシュ/ジャン=リュック・ヴァンサン/エマニュエル・カウフマン/マリオン・ケラー