ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

◎73本目『あなたの顔の前に』


【あらすじ】

長い間アメリカで暮らしていた元女優のサンオクが突然韓国に帰国し、妹ジョンオクのもとを訪れるところから物語は始まる。けれど彼女は帰国の理由を明かそうとせず、妹ともぎこちなかったり、親しかったりといった会話が交わされる。彼女の内面には深刻な問題が潜んでいることだけは伝わってくる。
思い出の地を歩き、過去と向き合い、新たな出逢いがあり、失望があり…そんなひとりの女性の一日がしずかに描かれている。

  

ホン・サンスの映画を観ると、普段あまり飲まないのにお酒を飲みたいという気持ちが湧きますね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私は普段飲むけどさらに飲みたいきもちが募ったわ(笑)。
(笑)。
お酒を飲むシーンがいつも長いイメージです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
お酒好きなのね。
お酒を飲み交わすことで何かが生まれるとか、深いところまで話せるとか、何か意味合いがありそうですよね。結構重要視していると思いますよ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
タバコを吸うシーンも多い。
水辺の公園では橋の下で隠れて吸っていたから、韓国も喫煙マナーが厳しいんだなって思った(笑)。

ちょこんと座りながら吸っているから可愛らしいんですよね(笑)。
喫煙シーンなんて今時珍しいですよね。他の作品でも、誰かとタバコを吸うシーンが結構ありました。
タバコミュニケーションという言葉があるくらい、喫煙者同士のコミュニケーションは深くなると聞きますけど、そんな感じですかね。お酒と一緒で、何かが生まれるみたいな。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

あとは、ホン・サンスといえば、お父さんのムービーカメラのような、特徴的なズームアップですよね。今回は抑えられていたような気がします。
ホン・サンス作品をたくさん観ているから、気にならなくなっているのかも。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
定位置のシーンがあって、ふと気付いたかのようにズームにする感じ。
私もそんなに気にならなかった。
この作品はどうでしたか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
面白かった。
サンオクの病気の告白が出てきた時、路子さんはモヤモヤし始めたかもしれないと思っていました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
いつも映画の中の「妊娠」と「病気」は禁じ手だと言っているから??
そうです(笑)。
前情報を見ていなかったので、そういう話になるとは知りませんでした。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
予告編でも、主人公の病気については出てこなかったよ。
路子
路子
テーマはやっぱり「私の顔の前にある天国」かしら。
冒頭にあったサンオクの言葉、「私の顔の前にある全ては神の恵みです。過去もなく明日もなく、今この瞬間だけが天国なのです」に繋がりますね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
妹の寝顔を見ている時のサンオクは、とても愛おしいものを見ている表情をしてた。
路子
路子
詳しい説明はなかったけれど、設定としては、主人公のサンオク(イ・ヘヨン)は韓国からアメリカに行って生活をしている元女優。
韓国では女優として活動をしていたけれど、アメリカでは酒屋で働いている。
女優業は落ちぶれてしまったのかしら?
そういう風には感じませんでした。
むしろ、きっぱりと辞めてアメリカへ渡ったのかと思いました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
サンオクは何歳くらいの設定かしらね。
すごく歳を重ねているようには感じなかったですね…40代くらいですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
45歳くらいかしらね。
ちなみに、サンオク役のイ・ヘヨンは40年のキャリアを誇るベテラン女優。
お父さんは1960年代の韓国映画に多大なる影響を与えた巨匠イ・マンヒ監督という方みたいです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
じゃあ私と同じくらいかしら。
1962年生まれですって。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
えっ?生まれ?
私より4歳上だ。60歳。若いね。
ソン監督と話している時のサンオクは、ちょっと毬谷友子さんみたいだなって思いました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私も思った!

 

 

路子
路子
メインの登場人物は3人くらい。

主人公の元女優、元女優の妹、映画監督。
映画監督役のクォン・ヘヒョは、ホン・サンス映画の常連だと思います。他の作品でも見たことがありました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私も見たことがあった。どの作品?
路子さんが観ている中だと、『逃げた女』やイザベル・ユペール出演の『3人のアンヌ』だと思います。
先程話した「お酒の場」や「タバコ」のシーンのように似たシチュエーションも多くて、登場人物も「映画監督」や「画家」という設定が多いです。
監督のテーマがそこにはあるのかもしれませんね。
りきマルソー
りきマルソー
ご飯を食べているといえば、サンオクが甥っ子のお店で付けてしまったトッポッキのシミをさりげなくずっと気にしているのがかわいかったですよね(笑)。
ずっとシミの部分を押さえたり、最終的にはその部分を結んでみたり。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう、細かいよね(笑)。

 

 

登場人物も、毒を吐くまではいかないですが…いつもストレートな物言いをしているような印象があります。
俳優の空気感もちょっと不思議ですよね。一般人なのかと思うくらいの空気感。
映画だからもちろん演出はあると思いますが、「作られているもの」という感じではない独特な雰囲気が好きです。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
それでも、『逃げた女』と比べると、今回は女優の演技が光ってた。
『逃げた女』は、素人を起用していると言われても違和感はないけれど、サンオク役のイ・ヘヨンの演技は本当によかった。
前半はポケーっとしているのに、映画監督に自分の余命を告白した後、17歳の頃に自殺をしようとしたことや、その時に周囲の人の顔が輝いて見えたという「顔の前の天国」のエピソードを語っている時の表情は…。
いきいきとしていましたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう!
それまでとの落差があって、上手いと思った。
妹とソン監督に話す時の喋り方まで違うのよね。
ソン監督に対して話すときは、しなっとして媚びのある喋り方をしてる。演技としてとても面白かった。
スタッフと話している時の女優感というか、仕事モードの女優みたいな話し方になっていましたね。
妹も姉のサンオクと話している時と、息子の彼女と話している時では、話し方が変わっていましたね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そのあたりもすごいけれど、やっぱりサンオクの方が「女」になってた。
路子
路子
姉サンオクが手紙の返信をしてくれなかった、と妹が怒り出すシーンがあったけれど、何かを抱えていると、何らかの会話のきっかけで怒りが爆発するってあるよね。
ふたりとも何かを抱えながら生きていたということよね。その後は普通通りに話していたけれど。
あと、きょうだいなのに、お互いが何をしていたのか知らないというのも、最初の段階で話していたね。
お姉さんのサンオクが何もかも捨ててアメリカへ行ったことで、完全に関係が離れたという感じですかね。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

路子
路子
サンオクの余命が短いという予感はあった?
冒頭から調子が良さそうには見えなかったので、病気かなとは思っていました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私は、サンオクが余命の告白をしている時、「嘘ピョーン」と、言うかと思ってた。
たしかに、深刻さはあまり感じられなかったですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ソン監督はサンオクの作品を観て感動したと言ってくれたから、この人には話しておかなければならないと思ったのかしら。
妹には話していないのよね?
妹は知らないですよね。
監督とは初めて会ったけれど、深く関係性を持っていないからこそ話せるみたいな感じですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
きっとそうね。
妹はお姉さんが病気だといつかは気付くと思うけれど、きっと怒るだろうね。
だって急にアメリカに渡ってしまったことだってあんなに怒っていたもの。
サンオクは死ぬまで韓国に残ると思いますか?
私は、監督との企画もなくなったので、すぐに帰ってしまうような気がしました。
サンオクは過去よりも目の前のものを信じている節があるし、昔住んでいた家に行った時も、来たのは間違いだったみたいに心の中で言っていたりもしていましたよね。
だから妹とこのまま一緒に過ごすことで過去を振り返ってしまい、寂しい気持ちになってしまうのが嫌なのかもしれないと思いました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
じゃあ妹が知らないうちに死んでしまうかもしれないのね。
死ぬと分かって覚悟を決めてからは、自分の生まれ育った故郷を見たくなるという気持ちで来たのかしらね。
最後に会いたい人だったり、やり残したこと、心残りのあることを整理したいみたいな感じですかね。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

路子
路子
サンオクがギターを弾くシーン、結構長かったね。しかも2回もあった。

1回目と2回目では、ソン監督の態度が変わりますよね。
はじめはちょっと飽きている感じだったのに、サンオクが自分の余命の話をした後に弾いている時は感傷的になってちょっと泣いちゃったりして。
りきマルソー
りきマルソー
初めて会った人から、もう長く生きられないと聞かされた時って泣けるものなんですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
最初は戸惑っていたけれど、途中から泣いてたものね。
お酒の勢いもあるとは思うけれど…ソン監督にとっては憧れの女優だったからかもしれない。
告白の後、ソン監督は、次の日に短編映画を一緒に撮ろうと提案をしていましたが、翌日の朝、やっぱり無理だと断りの留守電を入れていますよね。
あれはサンオクの告白がショックだったからですか?
それともお酒の勢いで言ってしまったものの、やっぱり予定的に無理だった!という断りだと思いますか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
お酒の勢いで約束はしたものの、酔いがさめた後によくよく考えてみたら重たいな、と思ったのかもしれない。酔っているときは、これが大事だ、彼女との仕事が大事なんだ、ほかのスケジュールなんて大したことない、って思ったけれど、冷静になってみると…。
無理。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。その先も無いし、死ぬとわかっている人と何かを作るのは重いもの。
路子
路子
サンオクは、短編映画の撮影が実現すると思っていたと思う?
だいぶ本気にしていたと思いますよ。
本気というか…信じたい気持ち。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ソン監督からの断りの留守電を聞いている時に、サンオクが大笑いしているシーンがとても印象的だったけれど、彼女はなぜ笑っていたと思う?
色々な意味合いが含まれているような笑いでしたよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私って馬鹿みたい…。
そういった意味合いもきっとありますし、男の身勝手さに振り回されたと思っているだろうし。ひとつの理由だけで笑っている感じではなかったですよね。
路子さんはどう思いましたか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あの笑いの中に、彼女のそれまでの人生が表れていると思った。
私は、サンオクが恋愛で決していい思いをしてきたとは思えなかった。
だから、「ほらね、やっぱりいつもと同じ」みたいに思っていたような気がする。
あの笑いの中には悲しみも含まれていたと思います。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
笑った後に泣くかなって思ってた。
あまりにも最悪な展開に笑うしかない、みたいな心境だったのかもしれませんね。
りきマルソー
りきマルソー
ソン監督とお店を出て、ひとつの傘をさしながら雨の中、狭い路地を歩くシーンがありましたよね。
ふたりが何を話しているかは聞こえませんでしたが、サンオクがソン監督を慰めているようにも見えるあのシーン、とても綺麗でした。
その美しいシーンのすぐ後だからこそ、留守電を聞いて笑っているサンオクの行動にとても驚かされ、印象に残りましたよね。
えっ? どうして? という気持ちと、あぁ、よくありそうなことだと思う気持ちが混ざって、複雑な気持ちでした。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
あのシーンは、オードリー・ヘップバーンの『ティファニーで朝食を』のオマージュかと思った。
ふたりでタバコを吸ってはいないけれど、土砂降りでトレンチコート着ているし、空気感も似てた。
路子
路子
…まあ、どうなのかわからないけど。
路子
路子
でもねえ、その時は盛り上がるけれど、翌日になってみれば…みたいなのってよくあるよね。
ホン・サンス監督はそういうのを掘り出すのが上手いし、ああいう男いるよな、というのをよく描いている。
そこが面白い。
客観的なものなのか、ホン・サンス監督自身がそういう人なのか…気になりますね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
役柄も「監督」だから、どれくらい役に自分を重ねているのかは気になる。
自虐的なところもあるのかしらね。

 

 

路子
路子
「わたしと寝たいのね?」というサンオクからの言葉に、ソン監督は「はい」と答えていたけれど、ソン監督は最初からそう思っていたのかしらね。
助監督を帰して二人きりになったということは、そこで可能性があれば襲ってしまおうと思ったのか、口説こうと思って帰したのか、どちらだと思う?

両方あると思いますが、そもそもお店に誰もいないというのはおかしいですよね。店員さえもいない貸切なんて。
だから理由を付けて、助監督を先に帰したのだと思っていました。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
完全にふたりっきり。
下心が最初??
うーん…本当に純粋に仕事がしたいと思っていたのなら、次の日にふたりの撮影を決行していたと思うんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
じゃあ最初から下心があったということね。ダメじゃん(笑)。
この人の最期を俺が撮ってみせるくらいのものが欲しかったわよね!
そうですよ!
それが全く感じられなかったし、留守電から察するに、もうサンオクとは会わないと思っていたような気がします。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
監督として売れ始め、自分の憧れの女優とも会えて、上手くいけば一緒に仕事ができると思っていた。そして、サンオクの命が短いことや、彼女の美しい話を聞いたことで、明日ふたりで旅行に行って、(サンオクの)最期を撮りたいと思った。
あのね、彼のね、「その時にそう思った」って気持ちも本当なのよ、分かってあげて(笑)。
そうなんですよね。その気持ちも嘘ではない(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう、嘘ではないの。
嘘で言う人の方がわかりやすいですよね。嘘ではなく本気で思っている人の方が、悪意がないから厄介。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私、自分の人生のもっと前のシーズンだったら、約束をしているのに断るみたいな監督の行為は、すごく嫌だったと思う。でも、今は分かるような気がする。そういう風に言ってしまう気持ちも本当なんだ、って。ただ彼には、彼女との最後の映画を撮るために必要なだけの度量がなかっただけなんだと思う。とても現実的な話。よくあること。
面白いですよね…自分のシーズンによって感じ方が変わるって。
私もシーズンによっては、あの監督の態度を許せないと思ってしまっていたかもしれません。もちろん、色々な映画を観たり、路子さんと話したことで、引き出しが増えたというのもあると思いますが、自分のシーズンの影響はかなり大きいですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
サンオクが韓国に帰ってきたのは、ソン監督からのオファーがあったから?
一度断っているみたいな話でしたから、オファーからは時間が経っているかもしれないですが、最後のやることリストのひとつというところですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
「会えてよかった」と何度も言ってた。
繰り返し同じことを言ったり、同じ場所が出てくるのも、ホン・サンスの特徴ですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
『逃げた女』もそうだった。
後々、店員がいないということは分かりましたが、それまでは何で居酒屋なのにテイクアウトのコーヒーを用意しているんだろうとか、居酒屋なのに出前を頼もうとしているんだろうって思っていました。変に細かい設定がありますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
お腹空いてませんからといいつつも、出前を頼んでいるし。
助監督はご飯が食べたいのだから、注文させてあげればいいのにってずっと思ってた(笑)。
(笑)。
儒教の国だからというのが関係しているんですかね。結構、上下関係が厳しいイメージがあります。
例えば、ホン・サンスの他の作品だったり、韓国映画やドラマでよく見るシーンですが、お酒の飲み方で上下関係や関わり方がわかるんですよね。目上の人と飲む時は、下の人は横を向いて口元を隠しながら飲むんです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
飲んでいるところを見せてはいけないのね。
ソン監督とサンオクがお酒を飲んでいるシーンではそういう飲み方をしていなかったから、ふたりは対等だったということね。
もしそのシーンに助監督がいたのであれば、助監督はひとりだけ横を向いて飲んでいたかもしれませんし、前を向いて飲んでいたのであれば、監督と対等な関係を築いているのだと思います。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
韓国の方と仕事をする時に、それを知らないと失礼になるのかしらね。
日本人だからオッケー?
オッケーにはなるかもしれませんが、もし韓国関連の仕事をするとかなのであれば、知っていて損はないですよね。相手もマナーを知ってくれているということで、心の開き方が変わるかもしれませんし…と、いうのが「美味しんぼ」のエピソードでありました(笑)。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

あんなにホン・サンスが苦手だったのに、すっかり好きになりました。
男女の恋愛を会話形式で描く独創的なスタイルから「韓国のゴダール」と言われているようですが…ゴダールですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ゴダールとは違うと思う。私もゴダールをいっぱい観ているわけではないし、彼の後半の作品は全然知らないけれど…。
人間らしく、ダメな男も出てきて、会話を重ねるみたいなのって、どちらかと言えばトリュフォーっぽくないですか?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
撮り方としては、トリュフォーは物語も撮影もすごく作り込むから、そういう意味でのゴダールなのかな。
ゴダールは敢えて物語を切ってしまったりしているかも。
たしかに、ホン・サンスの脚本は、作り込まれて複雑というよりも、割とサラッと日常を描いていますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
セリフは決まっているけれど、アドリブも多いのかな?というイメージ。
ズームアップとかがあまりないシーンは、カフェにいるふたりが外の景色を見てぼんやりしているみたいなのが多い。だからずっと観察している感じ。
路子さんの今の動きがホン・サンスのシーンっぽかったです(笑)。
日常のちょっとしたことなんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
しかもそこを省かない。
路子
路子
例えば、居酒屋から出る時にそのまま帰ればいいものを、ちゃんと完璧に片付けていきましょう、みたいなやりとりが省かれずに描かれている。
面白いのよね…「死」という大きな問題が告白されて泣いたりしているけれど、片付ける話が出てきたりするのがとても現実的。
映画的ではないですよね。
傘はいりますか?みたいなやりとりの時にある、誰も何も反応しないみたいな「間」だって映画的にはいらないのに…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
現実で考えれば、ああいう「間」ってあるものね。

 

 

路子
路子
サンオクが何かに感謝をするようなお祈りをしている時があるけれど、あれは何教なのかしらね?
韓国は儒教の国ですが、最近はキリスト教の人も多いみたいなんですよね。でも、サンオクの祈りは特定の宗教のものというよりは、自分の目の前の天国に対して、日々の感謝をしているという感じですかね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
自分が近々死んでしまうから、そう思っているのかしらね。
コートを取り出して、抱き締めながら感謝のお祈りをしているのも気になっていたのよね。
ロマン・デュリスが主人公の『PARIS(パリ)』みたいなものですかね。
今まで当たり前だと思っていたものへの感謝。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
目の前のものが綺麗に見えてくるというのも、そっくり。
あぁ、たしかにそうですね。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

路子
路子
どのシーンが一番印象に残った?
やっぱり、雨の中の路地シーンからの、留守電を聞いている時のサンオクの笑いのシーンですかね。その落差がとても面白いと思いました。
シーンとしても面白かったですが、私自身の気持ちの変化も面白かったです。
昔だったら、監督のあの態度に怒っていたと思います。
ほほえみでも大笑いでも、「笑い」ってどんな状況でも強いですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ファーストシーンとラストシーンが同じで、サンオクが妹の寝ている姿を見ているシーンだったけれど、サンオクにとって、妹はきっと唯一自分に一番近い肉親。自分が死ぬと分かった時、最後に見ていたいものってあれなんだね。
ラストシーンで、妹が寝返りを打った方向に移動しても見続けていたけれど、サンオクにとって、私の顔の前にある天国の中で一番美しいと思う景色なのかなって思ったら、グッときてしまった。
最後、波の音?風の音?みたいな感じでさぁーっと終わったのも印象的でした。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ほとんど音楽がないから、ちょっと音が入ると、すごく効果を持つ。
やっぱり自分が強調したいテーマ、強調したいシーンを際立たせるためには、出し惜しみが必要なのね!(笑)。
シーンの重さがあっても、少しコミカルな音楽で繋げていることが多いですが、それが妙に合っていて、次のシーンへ自然に移り変わっていくんですよね。
もちろんグザヴィエ・ドランみたいに音楽をメインみたいに使うのはいいと思いますけど、そういうさりげない感じも好きです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ホン・サンスの映画を観たあとにはドランが観たくなる(笑)。
それぞれ、違う部分でtoo much な感じがそう思わせるのかな。交互に観たくなる。
この雰囲気が好きになれないと、退屈に思ってしまうかもしれない映画ですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうだと思う。
私もホン・サンスの作品を観るという覚悟を持って来たし、途中で席を立ったり、何かをしながら観ることを許さない映画鑑賞をしたいと思っていたからよかったけれど、エンターテイメントだと思って観にきていたら腹が立つかもしれない。
今日はきちんと考える映画を観たかった。何も提示してくれない映画だから、思いっきり考えることができた。
単に、自分の寿命が半年だと分かった時に何をしますか、という話でもなかったしね。
宣伝によっては、それを全面に押し出す時もありますからね。
それだとそれが完全にテーマになってしまう。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
テーマは何だったのかと考えてみたけれど、そんなに大きなテーマはなかったのかもしれない。でも、何でその部分の日常を切り取ったのか、この物語を書き始めるのにどこから始まったのか、というのはとても気になる。
もしかしたら、監督が自分というものを見つめた時に、「自分がどれほどの人間なのか」という問いがあった上で、例えば「約束をしたけれど、しょせん無理な話でした」というのをやってしまうあのシーンを描きたかった。そのために、あるひとりの女優をどういう状況下に置くか、そんなことを考えた、って見方もできるね。
余命宣告半年をされた元女優が故郷の地を踏みました…から始まったとは思えないの。
自分もそう思います。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
余命半年の女優ありきではなかったと思う。
ホン・サンスは今までに監督という地位を利用して色々とやってきたと思うの。たぶん、自分のしたことを周囲から言われることも多いんじゃないかな。それに向かい合った時に、自分の「告白」とまではいかないけれど、自分へ問いかけるようなシーンを思いついた。そこからスタートして、ではそのシーンを成立させるためにはどのような物語が必要なんだろうか、というところで出来たものなのであれば、私は分かりやすい。

 

(数時間後…インタビューを読み終わり、監督をホンちゃんと呼び始めたふたりの会話)

 

路子
路子
インタビュー面白かった。
是枝監督を思った。是枝監督は、わかりやすく語るタイプだけれど、ホンちゃんはけむにまくわね。
私的なことを組み込んでいると話していましたね。
私も是枝監督との違いを考えていました。
是枝監督は『真実』のロケ地をフランスにして、フランスの俳優を起用して撮影をしましたが、邦画っぽさの中にまだフランスの雰囲気みたいなものを残していましたよね。
ホンちゃんの『アバンチュールはパリで』という作品は、フランスがロケ地でしたが、フランスらしさをあまり感じませんでした。
メインキャストが韓国の俳優だったからかもしれませんが…フランスの風景の中でも、映画自体はホンちゃんのあの独特な雰囲気そのままな感じなんですよね。本当に場所を移しただけみたいな感じ。
でも、無理に土地柄に合わせない感じがとても好きでした。きっと、他の国で撮影しても、韓国の俳優でなかったとしても、ホンちゃんらしさは損なわれないような気がします。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
是枝監督の『こんな雨の日にーー 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』を読んだり、『真実』のドキュメンタリーを観て思ったのは、監督らしさを出してはいるけれど、俳優へのリスペクトというか…俳優たちに圧倒されてしまっている感じがする。でも、ホンちゃんはきっとそうではないと思う。
是枝監督は、こうやって映画を作るぞ、というのが細かく設定されているから。説明もわかりやすいのよね。
何から何まで決まっているから、俳優にとっても親切な感じがしますよね。この通りにやってくださいみたいな。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。
路子
路子
サンオクが大笑いするシーンについてのインタビューを読んだけれど、細かく説明せずに、どこかはぐらかすような…答えを出していないような感じだった。
そう言う意味では、観る側に委ねる感じがフランス映画っぽいですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。
私たちはホンちゃんをゴダールとは似てないと話していたけれど、ゴダールに似ていると言われる感覚はわかる気がしてきた。

 

 

アイデアや台本に合わせて俳優を決めるのではなく、俳優たちと…。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう。場所がまず必要と言っていたね。
そして一番大事なのは撮影開始日をまず決めることだ、って。すごく面白いと思った。
誰でもいいという訳ではないだろうけど、そこに当てはまる人を選ぶって感じ。
俳優ありきではない。重要視はしていないですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。
だからサンオクは他の俳優でも成立するのかもしれない。
監督自身が今までに関わった人の中から選んでいるような気はしました。
だから会ったことのない俳優をキャスティングするとは思えないですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
サンオク役のイ・ヘヨンを選んだ理由も、撮影開始日を決めた時、自分の母親の葬式に列席した彼女と話したのがきっかけだったと言っていたでしょ。
やっぱり、自分の現実の中での関わりをすごく大事にしている人なのね。
その関わり合いの中で、映画という架空の話を撮るなんて、本当に面白い。
台本も事前に渡さず、その日撮る分だけを渡すみたいですね。
サンオク役のイ・ヘヨンは、「40年間の私のキャリアの中で、嘘っぽい演技を一度もしなかったと思えたのはそれが初めてだった。ホン監督と仕事をしながら「これまでのわたしの演技ってみんな嘘だったのだろうか?」と思った、と話していました。
作り込む時間を与えず、その空気感を感じさせながら演じることで、あの演技らしくない独特な空気感が生まれているんですね。
撮影が終わると台本は回収されるとイ・ヘヨンが言っていましたが、役を作り込まないようにするためですよね?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
多分そうだと思う。
ぽっと見せて、そこで何を感じた?というやり方かしら。
コメントや演出は最小限にしているらしいですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
俳優の解釈が明らかに違う時だけ指摘すると言ってた。
面白い撮影方法ですよね。
じっくりと準備をするわけではないから、そりゃあ撮影期間も短くなるわけですよね。
りきマルソー
りきマルソー

 

 

路子
路子
俳優のスケジュールに合わせてというよりも、この期間でこれを撮るというのを決めたら、そこに当てはまるものをピックアップしている感じ。だから早いし、どんどん作品を作ることができるのね。
物語は場所やその土地の空気感に合わせて作っているみたいでしたよね。
監督自身のことを練り込んだとしても、基本的には俳優に対しての当て書きはせず、その場所で感じ取った空気感を組み込んで書いている感じ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。祈りの言葉については、こんなことを言っていたね。

「彼女の振る舞いや言葉、独白は、あの建物にある他のすべてと同じようにあの場所で私が受けとめたものでした。私は、自ら探し求めて見つけたものではなく、与えられるものには敬意を払うことにしています。心を開こうとすると必ず何かがやってきますが、そうして授けられるものに対しては敬意を払います。それは私は、与えられたものを私が受け入れるプロセスと呼んでいます。彼女のあの独白や言葉や祈りは、同じプロセスを通して受け入れたものです。それは私の中で起こっていた何かを反映するものでもありますが、とてもとてもとても私的なことです」

路子
路子
天気の話も面白いと思った。
その日に雨が降ると知らされたから、それに従った、というところですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう。
偶然性という訳ではないけれど、自分の現実と映画がリンクしている部分がある。
自分で一から物語を作るのではなく、自分が生きている世界の中に身を置いて、そこで見えたものや起こったものをすごく大事にしている人なのだと思う。
自分の知っているものを描いているからこそ、そこには説得力がありますよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう。
あのシーンの撮影の時に晴れていたら…。
また違ったシーンになっていたかもしれないですよね。
それはそれで観てみたい!
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
「反復」もキーワードみたいね。
他の作品でも、同じ場所、同じシーン、同じセリフが繰り返し出てくることが多いです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
『逃げた女』もずっと同じ話を繰り返してたね。
インタビューの中に、アシスタントから「別の映画にあったセリフが、そのまま出てきた」と指摘されたけど、セリフは直さなかったというエピソードがあった。
確かに同じセリフでも、人や環境、空気感が違えば、「全く同じもの」にはならないですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私も確かに、と思った。
同じ会話や同じやりとりでも、時代やシーズンが違ったり、相手が違えば、まるで違ってくる。自分にとって大事なことやキーとなるものは、何度も出てくるのよ。だから同じセリフでもいいのよね。

  

~今回の映画~
『あなたの顔の前に』 2020年 韓国
監督:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン/チョ・ユニ/クォン・ヘヒョ/シン・ソクホ/キム・セビョク

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間