☆26本目『カトリーヌ・ドヌーヴ × ジャック・ドゥミ × ミシェル・ルグラン の世界』
2020/02/06
カトリーヌ・ドヌーヴ 、監督のジャック・ドゥミ 、音楽家のミシェル・ルグラン。この3人で作られた作品には、『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『ロバと王女』『モン・パリ』があります。どの作品も色あいが違いましたね。
りきマルソー
路子
そうそう。違うテイスト。 りきちゃんはどれが好き?
私はミュージカルが好きなので、『ロシュフォールの恋人たち』ですね。前にも観たことがありましたし、音楽も好きです。同じミュージカルでも、『シェルブールの雨傘』は全編歌で構成されているので、慣れないとちょっとクセを感じてしまうかもしれませんね。そういった意味では、『ロシュフォールの恋人たち』は、ミュージカル初心者でも観やすいかも。
りきマルソー
路子
セリフが全て歌になっているのは、画期的な部分でもある。もちろん最初は慣れないと、ん?って思ってしまうけれど、慣れてくるとそれが当たり前に思えてくる。私は、突然歌い出すような「THE ミュージカル」が少し苦手で、『ロシュフォールの恋人たち』は、そういった部分を感じてしまうの。私は『シェルブールの雨傘』が大好き。この作品は台詞も全部歌だから、突然歌い出す!みたいなことは無いし、なによりも物語性があるから好きなの。
【『シェルブールの雨傘』 あらすじ】
フランスの街・シェルブールで母親と雨傘屋を営むジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と、自動車修理工場で働くギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)。
戦争で離れ離れになってしまう2人の悲恋を描いたミュージカル作品。
路子
鬼武みゆきさんと2019年5月に開催した「語りとピアノのコンサート vol.1 生きた、愛した、愛された。 情熱恋愛5つの物語」や、黒川泰子さんと2016年12月に開催した「語りと歌のコンサート 映画音楽と物語」でも取り上げた『シェルブールの雨傘』。改めて、この作品の完成度を感じたの。 名作・代表作と言われているのも納得。ドヌーヴにとっても特別な作品みたいで、「自分の映画女優としてのキャリアをスタートさせた映画としても重要だ」と、話してる。監督・音楽・衣装・出演者が上手いタイミングで集結したら、こんなのができちゃった!っていう奇跡的な映画ね。鮮やかな衣装、部屋の装飾、色彩豊かな傘も印象的で、見る人を圧倒するような美しい組み合わせなの。
あの時代で、さらにミュージカルなのに、演技がとても自然なんですよね。
りきマルソー
路子
そうなのよ。唄わせる事によって、登場人物の心情が、より際立って見える。ギイの旅立ちを描いたシーンでは、ドヌーヴの頬が本当に紅潮していて、離れたら生きていけない、という気持ちが痛いほど伝わってくる。
路子
ギイが兵役の為に旅立った後、ジュヌヴィエーヴは妊娠が発覚し、宝石商のローラン(マルク・ミシェル)と結婚する。その間、ギイとは手紙でやりとりをしていたけれど、 母親との暮らしを助ける為、そして生まれてくる子どもの為に、仕方なく結婚した。その状況の中で、妊娠している彼女を、そのまま受け入れるほどの包容力を持つローラン。凄いわよね。そんな彼が、私はとても好き。もっと評価されても良い人物なのに…。
路子
6年後にガソリンスタンドで再会する場面は本当に名シーン。テーマ曲がこれでもか、というくらいに流れ、衒いなく場面を盛り上げるから、何度観ても泣いてしまうし、胸にグッとくる。お互いに一番好きな人と結婚した訳ではないけれど、「あなた幸せ?」というジュヌヴィエーヴの問いに対して、「とても幸せだよ」と答えるギイ。あれだけ愛し合い、「あなたなしでは私は生きていけない、あなたが行ったら死んでしまうわ」とまで言っていた間柄だったのに、環境の変化で最愛の人と結ばれなくても、ギイみたいに「とても幸せだよ」と言える人生。本当に愛した人とは結ばれず、時には違った道を選択しても、人は生きることができると思うと、とても切ない。
路子
そして、生まれてくる子どもにつける予定だった「フランソワ」・「フランソワーズ」という名前を、お互い自分の子どもに名付けているの。それぞれの結婚相手に対してはたしかに裏切りに見えるけれど、同時に、どれだけ互いへの想いが強いものか、という事を考えさせる。
ジュヌヴィエーヴの表情からは、幸せな雰囲気を感じなかったのですが、ギイからは、なんとなく、幸せさを感じました。その対比が、とても哀しい。
りきマルソー
路子
自分の生活に満足して、本当に自分が幸せだと思っているならば、「あなた幸せ?」とは聞かないような気がする。だから、りきちゃんが言うように、彼女は幸せとは感じていないのではないかしら。彼は現実に適応しているし、「とても幸せだよ」という答えに嘘は無いと思う。ただ、幸せの種類は違うけどね…っていうのが、カッコ付きであるのかもしれない。だから余計に切ない。
ギイの「もう行った方がいいよ」という言葉は、これ以上一緒にいると、今の幸せが揺らいでしまう可能性があったからかもしれませんね。
りきマルソー
【『ロシュフォールの恋人たち』あらすじ】
バレリーナのデルフィーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と音楽家のソランジュ(フランソワーズ・ドルレアック)は、海辺の街・ロシュフォールに住む双子の姉妹。
数日後に開催されるお祭りの準備をする一方、将来はパリで成功し、素敵な人と巡り合いたいと夢を抱いている。作曲家ミシェル・ルグランの軽快なサウンドが印象的なミュージカル。
『ロシュフォールの恋人たち』は、作中の音楽に繰り返しのフレーズもあるので、中毒性を感じます。すぐに覚えちゃうし、それがずっと耳に残りますね。だから今でもCMで楽曲が使われたりするんだと思います。私は踊るのも好きなので、覚えて一緒に踊ったりもしました。
りきマルソー
路子
そうなの?? 「双子姉妹の歌」とか?
そうですね。あと、お祭りシーンでの姉妹の歌のとか。
りきマルソー
路子
ピンク・レディーの振り付けを覚えちゃう感覚かしら?
その通りです(笑)。そういえば、ダニエル・ダリューも共演者だったんですね。
りきマルソー
路子
えっ? どの人??
姉妹のお母さん。
りきマルソー
路子
ダニエル・ダリューだったの?? 姉妹と同じくらいフォーカスされていたから、この人は誰だろう?って思っていたの。全然気付かなかった!
だからオゾン監督の『8人の女たち』では、久々の共演って事だったんですね。よく見てみると…。
りきマルソー
路子
ああ、たしかに!
ああ、たしかに!
りきマルソー
ってなりますよね。
りきマルソー
内容の深さというよりは、「娯楽」として純粋に楽しめる作品ですね。この作品はドヌーヴにとって、フランソワーズ・ドルレアックとの思い出として、心に残っているみたいですね。ドヌーヴのインタビューなどを読むと、フランソワーズが亡くなってからの方が、映画に対しての思い入れが強くなってるような気がします。
りきマルソー
路子
お姉さんとの思い出の作品ということね。個人的に、フランソワーズは綺麗というよりは…。
味のある感じですね。
りきマルソー
路子
そうそう。好みもあるけれど、私は断然ドヌーヴの方が綺麗に見える。その当時、フランスで最も美しい姉妹として讃えられていたから、姉妹で演技や美しさを比べられていたと思うと、酷な状況よね。
私は、フランソワーズの顔、好きですけどね(笑)。
りきマルソー
路子
そうだと思った(笑)。
歳を取った時、きっと良い女優になったんだろうな、って思いました。これからを期待されていたと思うので、25歳という若さで事故死してしまったのは、とても残念です。
りきマルソー
路子
2人が少女時代だった頃、フランソワーズばかり周りから綺麗だって言われていて、父親もフランソワーズばかりを大事にしていたんですって。ティーンエイジャーぐらいの時から、ドヌーヴが段々と綺麗だって言われるようになってきて、人気も上がった。先に女優として活動を始めたフランソワーズは、妹の人気が自分を追い越していくのを目の当たりにして、嫉妬心もあったと思う。そういう中で作られた作品だから…。
ぎこちなさ?
りきマルソー
路子
そう、ぎこちなさを感じる。もちろん、練習が足りないとか、そういった部分はあるかもしれないけれど、少なからず、彼女たちの関係性は反映されていると思う。
【『ロバと王女』あらすじ】
宝石を生みだすロバによって、裕福な暮らしをしている王様(ジャン・マレー)。妻亡き後、遺言に従い見つけた再婚相手は、自分の娘である王女様(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
王女様はリラの妖精(デルフィーヌ・セイリグ)に助けを求め、「ロバの皮」になりすまし、森の奥にある小屋で隠れて生活を始めるのでした。
『シンデレラ』や『眠れる森の美女』で有名なシャルル・ペロー作の童話『ロバの皮』が原作。
『ロバと王女』はドヌーヴがとても綺麗だからと、昔、母が勧めてくれた作品でしたが、初めて観ました。ドヌーヴはこの作品について、「老若男女に愛されている作品だ」と話していますね。
りきマルソー
路子
おとぎ話だから、話に入り込むというよりは、衣装を楽しんだりする映画ね!
ジャン・マレーのキャスティング、実際の俳優が城の石像を演じている場面、スローモーションやリバースモーションといった撮影技法の使用などは、ジャン・コクトーの映画『美女と野獣』にちなんだ要素で、コクトーへのオマージュなんですって!
りきマルソー
路子
たしかに、コクトーの映画で、人間が演じてる石像って観たことがあるかも。
お妃様が「私より美しい女性と再婚してください」という遺言を残して亡くなった為、再婚相手に美しい女性を探す王様。でも自分の娘である王女が一番美しかったから、娘との結婚を望んだ、というのが冒頭のお話でしたが。王女はなんだかんだ「お父さんと結婚してもいいわ」なんて言ったりしてましたね。監督いわく、子どもが「私、パパと結婚する!」みたいに言う感覚なんですって。それにしては、ちょっと歳が離れすぎてはいないか?…って思ったのですが。幼少期ならありそうな話ですがね。
りきマルソー
路子
私は、近親相姦の話だと思った。 童話なのに最初からそういうものを扱っていたから、毒々しいものがもっと出てくるのかな?って思っていたの。
でも、そうでもなく、よくあるおとぎ話な感じで進んでいきましたね。この王女って、なんてしたたかなんだろうって、思いました。それが特に表れているのは、城を出た後に住み始めた小屋のシーンで、国の王子が小屋の中を覗く場面です。覗かれているのに気付いている王女が、鏡越しに王子を捉えている時のドヌーヴの顔が凄い。あんたの事を狙っていますよ、みたいな目つきが全面に出ていて、凄く良かったです。
りきマルソー
【『モン・パリ』あらすじ】
体調不良のマルコ(マルチェロ・マストロヤンニ)に病院へ行くようにと、泣きつくイレーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
そして発覚したマルコの妊娠に、フランス中が大騒ぎ。
「男性の妊娠」をテーマに繰り広げられるコメディ作品。
『モン・パリ』は当時パートナーだったマルチェロ・マストロヤンニと共演している作品。これ以前にも、『哀しみの終わるとき』(1971年)や『ひきしお』(1972年)で共演しているんですね。マストロヤンニって、ソフィア・ローレン主演の『ひまわり』に出演していましたよね?
りきマルソー
路子
そうそう。
『ひまわり』のコメディタッチ部分を思い出しました。
りきマルソー
路子
私は、マストロヤンニが好きで、いくつか出演している作品を観ているけれど、コメディ映画の出演が多いのよね!
ミュージカルでも無いんですね! 大々的にミシェル・ルグランの名前が出ているので、てっきりミュージカルだと思っていました。原題を訳すと「人類が月面を歩いて以来の最も重大な出来事」というタイトルみたいですが。
りきマルソー
路子
それってどういう事?
男が妊娠する、という事が、それほどびっくりするよな出来事だ、ということですかね。
りきマルソー
路子
うーん。内容は…もう少しひねりのある話だったら良かった、というのが正直な意見。
~今回の映画~
『シェルブールの雨傘』 1964年2月 フランス
監督:ジャック・ドゥミ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーヴォ/マルク・ミシェル/エレン・ファルナー/アンヌ・ヴェルノン
『ロシュフォールの恋人たち』 1967年3月 フランス
監督:ジャック・ドゥミ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/フランソワーズ・ドルレアック/ジーン・ケリー/ジョージ・チャキリス/ダニエル・ダリュー
『ロバと王女』 1970年12月 フランス
監督:ジャック・ドゥミ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジャン・マレー/ジャック・ペラン/デルフィーヌ・セイリグ/ミシュリーヌ・プレール
『モン・パリ』 1973年9月 フランス
監督:ジャック・ドゥミ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/マルチェロ・マストロヤンニ/ミシュリーヌ・プレール/マリサ・パヴァン/クロード・メルキ