☆30本目『哀しみのトリスターナ』
2020/02/06
【あらすじ】
母親を亡くし、ドン・ロペ(フェルナンド・レイ)の養女となったトリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
次第に彼はトリスターナを娘ではなく、ひとりの女性として見るようになる。
しかし、トリスターナは、画家のオラシオ(フランコ・ネロ)と出会い、ロペの元を離れる決意をする。
色恋ジジイの物語。
りきマルソー
路子
端的に言えばそうね(笑)。
はじめはトリスターナも、養ってもらっているという気持ちが強かったから、恩返し的な気持ちでロペと関係を持ったのかもしれない。でもそれがどんどん嫌になっていく。
りきマルソー
路子
そして立場が逆転。好きと思っている方が、立場が弱くなっていくという、よくあるパターンね。
そんな時に、トリスターナは画家のオラシオと駆け落ちしちゃう。幸せな暮らしをしていたふたりだけれど、何故か彼からの求婚を断り続ける。しまいには足の病気になり、彼女の希望でロペの元へ戻ってくる。手術で足を切断した後に、オラシオはお見舞いに来るけれど、トリスターナは…。
りきマルソー
路子
もうオラシオへの気持ちが離れている。
それなのにトリスターナは「次はいつ来るの?」「私を愛してないから ここに連れて来た」とか言ったりしてる。
りきマルソー
路子
でも、そこで言い争っているのを見ると、ふたりがもう上手くいってないということが分かるわね。
初夜の日に、ロペがルンルン気分で香水つけて準備をしているのに、トリスターナは「何抜かすの? いい年して 思い違いもいいとこ!」って馬鹿にするような笑いで、部屋に閉じこもっちゃうんですよね。
りきマルソー
路子
一緒に寝てあげないのよね。初夜の晩に、ヒゲを整えたり、香水をつけたりしているのって、「ヴェニスに死す」を思い出す。美少年のタジオに振り向いてもらうために、作曲家がお化粧をしたりしているのに似ていて、哀愁を感じたの。老いていく人が精一杯のオシャレをして、ルルン、ルルンって待っているのに、あの時のトリスターナの態度! あれはちょっとサディズムが入っているわよね? いじめることで、喜びを感じてる。
復讐もありますよね?
りきマルソー
路子
でも何に対しての復讐? 若い時に身体の関係を持たされ、生活を縛られていたことに対しての? 私、よくよく考えてみたのだけれど、ロペって、そんなにひどいことしてないわよね?
してたんじゃないんですか?? そうじゃなきゃ、そんなに嫌がります?
りきマルソー
路子
私はそんなにしてないと思うけどなあ。
この男、気持ち悪い!とか。
りきマルソー
路子
それはしょうがないじゃないの(笑)。
中年の人が相手だったら、そこまで嫌だとは思わなかったのかも。
りきマルソー
路子
年齢なのかしら? ロペは何歳ぐらいの設定なのかしらね。トリスターナは10代の設定だけれども。
結構ヨボヨボでしたよね。映画の中でも老人扱いされているし。
りきマルソー
路子
あの時代は、早くヨボヨボになるわよ。何となく、トリスターナと関係を持った時は、まだ40代ぐらいだった気がする。
そんなに若いんですか?
りきマルソー
路子
うん。あの時代って、寿命も短いし、今より10歳以上下に見ていかないと、分からなくなるのよね。だから、初夜の時は、せいぜい60代ぐらいよ。
しつこさがすごくないですか? 事あるごとに、すぐ触ろうとしたり。
りきマルソー
路子
だって好きなんだからしょうがないじゃないの!(笑)。 何てイジワルなの。トリスターナみたい!
あっはっは!!!(笑)。
りきマルソー
路子
ロペは非常にかわいそうだと思いながら、わたくしは観ていましたのよ!
路子
邪気が無いまま死に至らしめるとか聞くけれど、トリスターナはそういうのとは違うのよね。
確信犯。
りきマルソー
路子
そうそう。
確実に成熟していますもんね。
りきマルソー
路子
彼女は何が欲しかったのかしら。自由?
お金では無いような気はします。
りきマルソー
路子
そうなのよね。でも、自由なら、他のところにいれば自由だものね。
だから自由でもない。
りきマルソー
(特別ゲストの谷さんが登場!)話を聞いていると、支配している感じが欲しいのかな、と思ったんですけど。
ひさし
路子
それもあると思う。病気で戻ったというのも、もちろんあるけれど、サディズム的な傾向があって、その喜びが忘れられなくて、戻ってきたのかもしれない。
路子
柱が沢山立っている回廊で、「どの柱がお好き?」と、ロペに尋ねるシーンがあるでしょう? 彼は「どれも全て同じだ」と、言うけれど、彼女は「同じ物なんてない 必ず違いがある。葡萄でも雪片でも皆違うから、私はいつも好きな方を選ぶ。」と、答えてる。これは、彼女の特性を表していると思ったの。ラストのシーンでは雪が降っていたけれど、死にかけている人を横目にしても、そんなことを思っていたのかな、と私はイメージした。この場面での彼女の表情はすごく怖かった。冷酷というのとも少し違う。本当に性格が悪い、残酷さを感じた。
直接攻撃をする訳でもないんですよね。年老いていく人を、精神的にじわじわ追い詰めていく。
りきマルソー
路子
無邪気にやっている訳でも無いのよね。だから余計にトリスターナが怖い。彼女には、あからさまな悪意と、憎しみがある。ロペを見る軽蔑のまなざしや、ラストの、彼の死を何とも思っていないような感じが、ゾクッとする。
暗い廊下でずっと歩行の練習をしているシーンも、異様な光景でしたね。
りきマルソー
私、2階の窓から、庭師として働くお手伝いさんの息子に対して、ガウンを開いて裸を見せる時の蔑むような表情が好きなんです。たまらないですよね。
りきマルソー
路子
蔑みの笑みよね。口角は上がっているもの。
目が全然笑ってない。オゾン監督の『スイミング・プール』で、下にいる庭師のおじいさんに対して、2階からシャーロット・ランプリングが服を脱いで挑発するシーンがありますけど、それに似ていましたね。オマージュですかね。
りきマルソー
路子
あったわね! きっとオマージュね!
どちらも目線に特徴がありますが、あのシーンだけで言えば、ドヌーヴの方が良かった。
りきマルソー
路子
ランプリングのまなざしの方が、まだ優しさを感じるわね。
ラストのシーンだけ、トリスターナの化粧がすごく濃いなって思ったんですよね。映画全体を通して見ると、他のシーンとは違う化粧の仕方。
りきマルソー
路子
だからあんなに怖かったのかしら。凄みのような…。
それもあるかもしれませんね。
りきマルソー
路子
性悪ってよく言うけれど、トリスターナは、根本の部分に「悪」というものがある女性だと思う。色々な境遇があり、積極的に何かをしているわけではないけれど、彼女の中心にあるものは、「善」では無く、絶対に「悪」よ。
お母さんが亡くなる前からですか?
りきマルソー
路子
多分、生まれた時から。もちろん環境も影響しているとは思うけれど、人間のそういう部分は、生まれつきだと思う。私にとって、トリスターナは本当に恐ろしい人間だった。ドヌーヴは、トリスターナが一番自分に近いって言ってるの。クールビューティーと言われたり、目だけは笑ってない、冷たいとか言われてきているけれど、男に対してこんな風だったのかなって思うと、本当に怖い。ある種の人にとっては、たまらない魅力かもしれないわね。
~今回の映画~
『哀しみのトリスターナ』 1970年3月 イタリア・フランス・スペイン
監督:ルイス・ブニュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/フランコ・ネロ/フェルナンド・レイ