☆39本目『イースト/ウエスト 遥かなる祖国』
2020/02/06
【あらすじ】
1964年、特赦を与えると発表したスターリン。
亡命していたアレクセイ(オレグ・メンシコフ)とフランス人の妻マリー(サンドリーヌ・ボネール)は、息子を連れてソ連へ戻ってきますが…。
『インドシナ』の監督なんですね。
りきマルソー
路子
歴史大作を作るのが得意な人なのね。
昔、世界史を教えていたことがあったから、スターリン独裁下のソビエトについては、うんざりするほど資料を見ているの。だから本当にうんざりしてしまった。ドヌーヴが出演していなければ、絶対に観ない作品だったと思う。
スターリンの特赦が出て、亡命者が帰国するところから始まって、独裁政権と密告の世界、という展開が分かりきっているし、観ることで嫌な気持ちになりたくないのだけれど、ドンピシャにそこにはまってくる映画だったから、始めのシーンから、あぁ…って思ってしまったの。
昔、世界史を教えていたことがあったから、スターリン独裁下のソビエトについては、うんざりするほど資料を見ているの。だから本当にうんざりしてしまった。ドヌーヴが出演していなければ、絶対に観ない作品だったと思う。
スターリンの特赦が出て、亡命者が帰国するところから始まって、独裁政権と密告の世界、という展開が分かりきっているし、観ることで嫌な気持ちになりたくないのだけれど、ドンピシャにそこにはまってくる映画だったから、始めのシーンから、あぁ…って思ってしまったの。
誰が敵で味方か、全く分からない世界なんですね。
りきマルソー
路子
本当にそうなの。
路子
人間とか、生命力というものを考えさせる作品だった。
ああいう環境に陥って、生きる人と、死ぬ人がいる。最初のシーンで、船を降りてすぐに逆らって殺されてしまう男の子がいたけれど、これは危ないな、何かおかしいな、と、直感的に危機感を感じ取れるか、取れないかの違いが大きく関係していると思う。自分にはそれがあるかしら…。
ああいう環境に陥って、生きる人と、死ぬ人がいる。最初のシーンで、船を降りてすぐに逆らって殺されてしまう男の子がいたけれど、これは危ないな、何かおかしいな、と、直感的に危機感を感じ取れるか、取れないかの違いが大きく関係していると思う。自分にはそれがあるかしら…。
実際にそういった状況にならないと分からないですね。
りきマルソー
路子
でもああいう悲惨な生活の中にも、日々のちょっとした喜びはあったりするでしょう?
隣人と仲良くなったり、水泳で賞を獲得したり。
りきマルソー
路子
そうそう。どんな状況でも、そういった日々のちょっとした喜びが、明日への命に繋がっていくのだと、すごく感じた。不毛の大地から何を取捨選択するかというのも、生き残るエネルギーになるのね。それが総じて生命力に繋がる。
生きるか死ぬか。
りきマルソー
路子
私だったら、とっくに自殺してしまいそう…。殴られたりしたら、すぐに人の名前を吐いちゃいそう。でも人の名前を吐くのが嫌だから、自殺しそう。でも、そこに子どもがいたりすると、そうはいかなくなる。
だから自殺しなかった、というのはあるかもしれませんね。
りきマルソー
ドヌーヴは主演ではないですが、重要人物でしたね。
りきマルソー
路子
フランス女優という、そのままの役ではあったけれど、すごい存在感だった。
脇役的なドヌーヴを観られたわね。女優役だから、ドヌーヴ自身の人生と重ねてしまう。ああいう信念や頑固さも持っているしね。
脇役的なドヌーヴを観られたわね。女優役だから、ドヌーヴ自身の人生と重ねてしまう。ああいう信念や頑固さも持っているしね。
自分の命も危ないかもしれないのに、なぜガブリエル(カトリーヌ・ドヌーヴ)はアレクセイを手助けして、マリーを助けたんですかね。
りきマルソー
路子
約束したから?
ちょっと会った時にした口約束的なものじゃないですか。鬼気迫るものを感じたんですかね。そういえば、「一般市民の声が聞きたい」と、話していましたね。
りきマルソー
路子
同じフランス人の女性が、直接懇願してきたことに対して、自分の力でなんとかできると思ったのではないかしら。なによりガブリエルは、これを見捨てたら自分を許せない、と思ったのかもしれないわね。
後悔すると?
りきマルソー
路子
うん。周りの人に「どんなに危険か分かってない。 君が考えているほど甘くはない」と言われたりしているから、もっと軽く考えていた節もあるかもしれない。でも、自分なりの正義感と、何年にも渡るアレクセイとのやり取りに心打たれた部分はあると思う。
一般的に、手助けをしないような人でも、直接嘆願されたりすると、嘆願してきた相手と何かしらの関わりが生まれて、行動に移してしまう、というのはよくある話だし、私も少し分かる。
一般的に、手助けをしないような人でも、直接嘆願されたりすると、嘆願してきた相手と何かしらの関わりが生まれて、行動に移してしまう、というのはよくある話だし、私も少し分かる。
大使館前での毅然とした態度は見事でしたよね。
りきマルソー
路子
あれは女優ならではの態度よね。ああいう時でも、演じている。
大使館って、入ると違う国になるんですか?
りきマルソー
路子
そう。治外法権なのよね。あのシーンは、すごくドキドキしたわ。
路子
『仕立て屋の恋』や、『親密すぎるうちあけ話』で有名な主演のサンドリーヌ・ボネール、すごく美しくて綺麗な女優さんよね。割と好きな人なの。
『灯台守の恋』も有名ですよね。クロード・シャブロルの『沈黙の女』では、イザベル・ユペールとも共演しているんですね。
りきマルソー
路子
でもやっぱり、ドヌーヴが食っちゃってるような気がしたの。ドヌーヴの演技は、それくらいの勢いがあった。
生活から考えて、あのくらい控えめでないと、真実味はなくなってしまいますよね。あれで美しく、きらびやかだったら、見方が変わっちゃいますよね。
りきマルソー
路子
うん、もちろん。でもそれが霞むくらい。ラストシーンでガブリエルが神様みたいに思えるぐらいの活躍をするから、美味しいところを全て持っていってしまった感じ。
ケーキのトッピングにはなりたくない(誰でも演じられるような出演はしたくないという意味)と言ってるドヌーヴ。端役だけれども、彼女がこの作品に出たいと思った気持ちがよくわかる。
ケーキのトッピングにはなりたくない(誰でも演じられるような出演はしたくないという意味)と言ってるドヌーヴ。端役だけれども、彼女がこの作品に出たいと思った気持ちがよくわかる。
マリーとフランス語で喋っていたことを密告され、おばあさんを殺されたサーシャ(セルゲイ・ボドロフ・Jr)。
りきマルソー
路子
サーシャを演じているセルゲイ・ボドロフ・Jrは、この映画の脚本を担当し、監督としても活動をしているセルゲイ・ボドロフの息子みたい。後年、映画の撮影中に、氷河崩落に巻き込まれて、若くして亡くなっているんですって。
私も何かで読みました。良い雰囲気の俳優さんだったので、残念です。
サーシャは、マリーに対する憎しみがあったけれど、助けられたことで、少しずつ愛へと変化していきましたね。
サーシャは、マリーに対する憎しみがあったけれど、助けられたことで、少しずつ愛へと変化していきましたね。
りきマルソー
路子
サーシャは6時間くらい泳いで亡命するでしょう? 体温を下げないよう、全身にワセリンを塗り、川で特訓しているけれど、自由を求める気持ちと、愛する人を救いたいという気持ちだけど、人間はそこまでできるものなのかしら。
自由を求める時の一筋の光へすがりつく想いって、相当なものですよね。自分の命もかかっている時に求める「自由」は、私たちが日々生活をしている時に不自由を感じ、あぁ自由になりたい、と思う時の「自由」とは全然違うものですよね。
りきマルソー
路子
自由が叶わなかったら、死と同じくらいの苦しみが待っている。だからこそ、命を懸け、それぐらいのことをしても良いと思えるのかもしれないわね。
でもその後に、サーシャは手首を切っちゃうでしょう? 自分のやってきたことは無駄だったと、思ってしまってたからかしら。ガブリエルを信じきれない部分も、きっとあったと思う。
でもその後に、サーシャは手首を切っちゃうでしょう? 自分のやってきたことは無駄だったと、思ってしまってたからかしら。ガブリエルを信じきれない部分も、きっとあったと思う。
せっかく6時間かけて泳いできたのに、フランスを離れてカナダに行かなければならないという現実を突きつけられてしまい、絶望を感じてしまったんでしょうね。
りきマルソー
路子
しかし重たい映画だったわね。
純愛の物語なんですね。
りきマルソー
路子
純愛よ! 10年もの純愛!!
すごーい!
りきマルソー
路子
結婚したくなるくらいの純愛。
衝撃のラスト。裏切りではない裏切りだったんですね!
りきマルソー
路子
そう、びっくり。事実に基づいた話ではあるけれど、疑ってしまいたくなるくらいの純愛だったわ。
アパートの管理人と寝たのも、組織に順応しているように見えたのも…。
りきマルソー
路子
全部奥さんをフランスへ逃がすためにやったこと。
路子
はぁーーーーん!
はぁーーーーん!
りきマルソー
しかもラストは、自分を犠牲にする。
りきマルソー
路子
アレクセイがうつむきながら笑顔を見せるシーンね。名シーンだったわ。
他の人のレビューを見ると、彼は、彼女が戻ってくるのではないかと心のどこかで思っているのではないか、と、書いてあるものがあったの。でも私は、10年以上も工作をしてまで彼女を逃がそうと思っている人が、そんな風には思わないと思うの。とにかく自由の国に戻してあげたいという気持ちと、少なくとも彼女がフランスへ行けたんだ、という喜びの笑みだったと思うのよね。
他の人のレビューを見ると、彼は、彼女が戻ってくるのではないかと心のどこかで思っているのではないか、と、書いてあるものがあったの。でも私は、10年以上も工作をしてまで彼女を逃がそうと思っている人が、そんな風には思わないと思うの。とにかく自由の国に戻してあげたいという気持ちと、少なくとも彼女がフランスへ行けたんだ、という喜びの笑みだったと思うのよね。
マリーは脱出の際、アレクセイの元へ戻ると駄々をこねるじゃないですか。もし、彼がそんなに真剣に考えていなかったら、周りの人もあんなに必死で止めていなかったと思います。でも、息子も、ガブリエルも、彼が何年も苦労して工作を行ってきたのを知っているから、彼女を止める。そこに愛というものがあるような気がしました。
りきマルソー
路子
見返りを求めない愛ね。一生会えないだろう、という気持ちで送り出しているのよね。最後のクレジットでは、アレクセイの渡仏が許可されたと書いてあったけれど、ふたりが再会したかまでは分からない。
私は歴史にとても疎いですが、歴史的事実を知った上で観たら、彼女の苦しみや、生活をしていた時の考え方を、もっと違う見方で受け止められたのではないかな、と、思いました。
りきマルソー
路子
独裁政治だから、とにかく反体制派っぽい動きをしただけで殺されてしまう時代。ナチスがユダヤ人を殺した数に劣らないくらい、スターリンの独裁政治の下では犠牲になっている。フルシチョフの時代からゴルバチョフの時代かけて、どんどん自由になっていき、スターリン時代の悪さが明らかになっていく。
この映画で描かれている通りに、密告する側は体制派に見られるから、自分の身を守るためにも誰かを犠牲にする。身内や夫婦間でも起きたことだから、誰も信用できない状況だったみたい。
この映画で描かれている通りに、密告する側は体制派に見られるから、自分の身を守るためにも誰かを犠牲にする。身内や夫婦間でも起きたことだから、誰も信用できない状況だったみたい。
そんな状況だと、地上に安らぎがないですね。
りきマルソー
路子
うん。体制派になり、一切異論を唱えずに幹部になってしまえば、安心なのかもしれないけれど。
アレクセイはそれをやってのけたんですもんね。
りきマルソー
路子
そうそう。そういう風にして安心させて。
ナチスドイツを潰すために、ソ連と連合国が手を結んだのに、もっとひどいのが出てきちゃったというのが、あの時代のソビエト。
ナチスドイツを潰すために、ソ連と連合国が手を結んだのに、もっとひどいのが出てきちゃったというのが、あの時代のソビエト。
いたちごっこですね。
りきマルソー
路子
同じ国の中での争いはいたたまれないわね。
ああいう状況で、自分を保っていられる人はどれくらいいるのかしら。そう思うと、アレクセイはすごい人よ。妻をも騙せるほど体制派にどっぷり浸かりながら、根本的な思想を失わないでいたのだから、すごい精神力よね。
人間って割と環境に順応しやすいから、それで良いかと、なりがちだけれども。
ああいう状況で、自分を保っていられる人はどれくらいいるのかしら。そう思うと、アレクセイはすごい人よ。妻をも騙せるほど体制派にどっぷり浸かりながら、根本的な思想を失わないでいたのだから、すごい精神力よね。
人間って割と環境に順応しやすいから、それで良いかと、なりがちだけれども。
表向きは体制派。でも心まで体制派に傾くことはなかったんですね。
りきマルソー
マリーも複雑ですよね。夫が純愛を貫いている間に、サーシャと関係を持ってしまって。どういう気持ちなんですかね。
りきマルソー
路子
だって彼女はその時、純愛って知らないもん!! ムキになっちゃった(笑)。
(笑)。
サーシャがちゃんとフランスに渡れたことを新聞で読んだ時も、まだ純愛物語のことは知らないですもんね。
サーシャがちゃんとフランスに渡れたことを新聞で読んだ時も、まだ純愛物語のことは知らないですもんね。
りきマルソー
路子
うん、知らない。
そういうことも知った上で、最後の最後、どういう気持ちだったんだろうって思って。
りきマルソー
路子
純愛物語を知らされたのって、逃亡の直前でしょう? だからその時は、意識朦朧状態だと思う。でもそのあとにフランスへ渡り、自由な生活が始まってからは、ジワジワと夫が何をしてくれたかを理性的に考えたと思う。その時は、夫に対して、すごい想いを抱くと思うわ。でも、それを感じてくれれば、夫としては本望なのかもしれないわね。
サーシャとの関係も、悔やんだりはしていないような気もする。過酷な状況の中で起こったことだから、10年も経ってしまうと、自分の身に起こったこととは思えないくらいになっているんじゃないかしら。
サーシャとの関係も、悔やんだりはしていないような気もする。過酷な状況の中で起こったことだから、10年も経ってしまうと、自分の身に起こったこととは思えないくらいになっているんじゃないかしら。
路子
視点にもよるけれど、密告をしていた管理人の女の人もかわいそうだと思う。きっとアレクセイのことを本気で好きだったんだと思うけれど、マリーが逃げるための道具として使われていた、ということでしょう?
たしかに。
りきマルソー
路子
とはいえ、きっとアレクセイのちょっとした息抜きにもなっていたわよね。
彼女も彼女で、スパイ的な役割を秘密裏にしていた、というのもあるから…とんとん?
りきマルソー
路子
夫も純愛物語の作戦上とはいえ、毎晩その女性と寝ていたしね。それなりに楽しんだわよね。純愛、純愛とは言っているけれど。
とんとん(笑)。
りきマルソー
路子
うん、そう思う。崇高な目的はあったけれど、それに至る過程の中で、夫も妻も、自分のその時の欲望や快楽を満たしていた。私は、そういうところに真実味を見たわ。
~今回の映画~
『イースト/ウエスト 遥かなる祖国』 1999年9月
ブルガリア・フランス・ロシア・スペイン
監督:レジス・ヴァルニエ
出演:サンドリーヌ・ボネール/オレグ・メンシコフ/カトリーヌ・ドヌーヴ/セルゲイ・ボドロフ・Jr