ゆかいな仲間たち よいこの映画時間

☆43本目『輝ける女たち』

2020/02/06


【あらすじ】
キャバレー「青いオウム」のオーナーであるガブリエル(クロード・ブラッスール)が亡くなったことをきっかけに、彼を父親のように慕っていたニッキー(ジェラール・ランヴァン)を始め、すれ違いになっていた家族が集まりましたが、彼の遺言は驚くべきもので…。

路子
路子
どうだった?
前に観たことがあったし、自分でDVDも持っているのに、全然内容を覚えていませんでした。ただ、ニッキーとアリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)のゲイの息子・ニノ(ミカエル・コーエン)が全裸になるシーンだけは覚えてました(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
んふっ(笑)。
そこしか覚えていなかったんですよ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
しょうがないわねぇ。
前はきっとこの映画の良さが分からなかったんだと思います。歌の使われ方が良かったですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うんうん!
『8人の女たち』の時も話した、日本の歌だったら失敗するパターンだけれど、登場人物の心情も表現しているし、映像にも合っている。しかも映画の舞台がフランスのキャバレーなので、違和感がないんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
パリでいう「ムーランルージュ」のような場所よね。

ですね。だから歌が入っていても、とても自然。
りきマルソー
りきマルソー

演者が割と有名人ばかりでしたが、個性の出し過ぎ感は全然なくて…。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
誰かにフォーカスしている感じではなかったわよね。
そうですね。まばら過ぎてもテーマの薄さを感じてしまいますが、そういう風にも感じなかった。適度な人物の描かれ方でした。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうなの! 複雑な人間関係だから、最初は登場人物の関係性について少し混乱するけれど…。途中から、りきちゃんが裸しか覚えていなかったニノの人生が輝きだすのよね。
そうなんですよね。ニノだけでなく、ニッキーとシモーヌの子どもマリアンヌ(ジェラルディーヌ・ペラス)の人生も輝き出しますよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そういう雰囲気ではなかったのにね。

亡くなったキャバレーのオーナー・ガブリエルは、今まで血の繋がりもないダメ男のニッキー、ニッキーのかつてのパートナーであったアリスやシモーヌの人生を支えてきた。だから今度は、家族とうまくいっていないその子どもたち、ニノとマリアンヌに劇場を与えることで、今度はそのふたりの人生を支えているんじゃないですかね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
じゃあガブリエルは、割とその人たちの人生全てを支えた、ということになるわね。
そうですね。そういえば、原題がそんな感じでした。『Le Heros De La Famille』…『家族のヒーロー』という意味ですかね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
じゃあまさに原題通りの人物ね。

路子
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ドヌーヴは、やっぱりああいう役柄になるのよね。

『昼顔』に出演していたというのもあると思いますし。
りきマルソー
りきマルソー
路子
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愛を独占しない感じが、ドヌーヴのはまり役なのね。それこそ「私の武器はセックス」というセリフもあるくらいだし。
アリスが、ガブリエルからもらった青いオウムのペンダントをニッキーにプレゼントをするでしょう? でも空港でレアが付けているのを見て、ふたりの関係を察する。その時、寂しさは感じただろうけれど、それよりもニッキーが今、愛している人、という目でレアを見ている。それってなかなかできることじゃないわよね。

子どもっぽさもあるけれど、ひとつ上をいっている感じがしますよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
ニッキーが一番幼いのよね。息子と娘よりも。

でもそこが彼の良いところでもある。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ゲンズブールみたいな感じの魅力なのかしらね。
路子
路子
アリスみたいな人を見ていると、周りをエネルギッシュにするような生き方も良いと思えるわね。
最初は嫌われていたのに、結局みんな、彼女に勇気付けられていますよね。頼れる姉御的な存在。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
これ見よがしな優しさではないのよね。
言う時はしっかりと言ってます。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
自分も好きなようにしているんだから、あんた達も好きにすれば?という感じでしょう? 多分、好きなようにしてる人を見て、ああ、あれでもいいんだ、と思うような勇気づけ方ね。

子どもたちが「青いオウム」の中で売春窟を発見し、アリスがかつて「翡翠のハート」という名の娼婦だったことを知った時、ニノはすごい怒るじゃないですか。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そんなに怒らなくても良いのに、というくらい。
それに対して、アリスは「私の人生は私のもの」と、言って開き直るのよね。彼女はそういう人生を生きて何が悪いの?という感覚でしょう? そんなにあっけらかんとされると、逆によくなっちゃうのかしら。
最初からきっと、そういう生き方なんですよね。ずっと変わらず。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
多数派、マジョリティの人生を歩んでいる人がすごく怒るのは分かるのだけれど…母親に対してはそういうのは関係ないのかもしれないわね。

怒った後から、お店の経営を決めるまでのふたりの関係性については、少し物足りなさを感じました。でも、マリアンヌがお店で「The Rose」を歌っている時、このふたりが目線を送り合っているシーンがあるんですよね。そのアイコンタクトに全てが表現されているような気もするので、それで良かったのかな、とも思います。
りきマルソー
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路子
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シモーヌ役のミュウ=ミュウってどんな作品に出演している人? 名前が特徴的よね。何かの作品で見たような気はする。

『アガサ・クリスティー 華麗なるアリバイ』『タイピスト』『オーケストラ』。
りきマルソー
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路子
路子
結構観てるかも。
あとは『読書する女』。
りきマルソー
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路子
路子
それだ! その作品で覚えてる!
彼女はアリスに対して、憧れを持っているのよね。
アルジェリアから出てきたから、教養があり美しく神秘的なフランス女であるアリスに憧れていた、と言っていましたね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
ニッキーのことはどう思った? 生き方とか。
とても自由だけれども、シモーヌのことが何十年も自分の中で引っかかっていているような、不器用さもある人ですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
テレビに出たりして人気者だった時は、すごくモテたのよね。いろんな女性をものにしてきた人。そして、関係した女のことを覚えていないという。あれは結構笑ってしまったわ。

かつてニッキーの助手の代役をして、車の中でセックスをしたのは自分だった、とレア(エマニュエル・べアール)が告白するシーン。ニッキーが離れた時にするベッドの中でのレアの表情、すごく良かったですね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
うん。私、あの表情すごく分かる。あれは自分でしている時がよくあるの。相手に対して何かを言うわけでもないし、相手も気付いてない。そこで諍いが起こるわけでもない。すごく冷える瞬間。


アリスが魔女みたいに登場するシーンは、笑っちゃいました(笑)。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
雷と共にね(笑)。 そのあとちゃんとそれに対して言及するのよね。「あの芝居がかった登場は?」って。物理的に無理よ、映画なのよ?って思ってしまったけれど、その辺りのユーモアが良かった。
バーテンダーの男の人をマリアンヌに取られてしまった時に、ソファーにうずもれながら「アバズレ」って悪態をついているニノのシーンも好きです。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
マリアンヌに取られそうだというのを、10歳ぐらい歳の離れている恋人に電話で愚痴ってるのもおかしかった。自由すぎる! でもこのカップル、すごく良かったわよね。
年下で自由奔放な若い彼氏。誰かに取られちゃうって心配しているけれど、そういった自由さを含めて彼氏のことを好きなんだと思います。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
若い彼がニノを訪ねてきた時、お店のバーテンダーに目をつけるでしょう? その時にニノのする一種の寂しさや悲壮感を感じる視線がとても良かった。
恋愛や人間関係の「こういうのあるある」というのが、結構映画の中に散りばめられていたわね。
嘘くささがないんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうなのよ。それを嘘くささがない、と言っている私たちの生活って…(笑)。
同じ普遍的なものを描いていても、共感や面白いと思うものと、そんなの知ってるよ、面白く感じないものの差ってなんですかね。この作品内で起きることは、まあよくあることっちゃあ、よくあることじゃないですか。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
そうよね。小説も同じようなテーマを繰り返しみんなが描いてる。でもその中で好き嫌いがあるとすれば、普遍的なものに対するアプローチの仕方や描き方の違いによるものかも。この映画って、そんなにおしつけがましくないし、いろんな選択肢がある中で、余韻みたいなものがあるから、きっと良いのだと思う。
ガブリエルと母親のシモーヌが愛人関係だったことを初めて知った時に、マリアンヌが言う「優しいウソより真実がいい」と、いう言葉はどう思いましたか?
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
今だったら、優しい嘘が良い。
選ぶのなかなか難しいですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
この言葉に近い言葉は色々な人が言っているけれど、ジェーン・バーキンは「真実によって傷つけられるより、慰めになる嘘のほうがいいわ」と、言ってる。ドヌーヴは「優しい嘘も小さい嘘もない。嘘は嘘」って意見。
シチュエーションなどにもよるけれど、真実を言えば良いという訳ではないし、嘘をつくのであれば、最後までつき通し、嘘がバレないようにするのが礼儀だと思う。
りきちゃんはどっち?

私は真実ですかね。モヤモヤしているよりは、はっきりしたい。もし捨てられるとしても、早く真実が知りたい。あとで嘘だと知った時に受けるダメージの方が大きそうですもん。まあ、知る前から勝手に自分でモヤモヤして傷ついているんですけどね(笑)。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
「泳ぎをやめたらサメは死ぬ」と、いうセリフがあったわよね。

3回くらい出てきましたね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
この言葉、残しておきたいと思っていたの。
現代舞踏家のピナ・バウシュのドキュメンタリー映画の中で「踊り続けなさい。自分を見失わないために」という言葉があったの。その言葉に感動して、自分は「書き続けなさい」という風に当てはめようと思ったの。
あとはピアソラのドキュメンタリー映画を観た時に「サメ釣り」を好んでいたことを知ったの。スペイン語では「エスクアロ」、「エスクアロ」という曲も作っているくらいだから、おそらくピアソラの人生にとって、サメはすごく重要なものなのだと思う。ピアソラは、タンゴの異端児としてずっと戦い続けてきた人生だった。
そういうのが全部浮かんできたの。

「生き続けるためには何かをし続けなさい」という教訓なんですよね。自分が生きるためにすべきことというか。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
マリアンヌはそれまで色気と無縁なところで、化粧っ気もなくいたのに、「The Rose」を唄うところでいきなり舞台女優みたいに…。

化けるんですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん。やっぱり女優ってすごいと思った。美しく、歌詞も良いし、なによりメロディが綺麗で、唄っている時の姿もとても良かったから、名シーンだと思う。
そのシーンで終わってもいい感じがしましたけどね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
私もあのまま終わるのかなって思っていたの。
小さい頃、売れなくなってきたニッキーが、子どもに歌わせれば人気が戻ると考え、レコーディングをした曲なんですよね?
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そう。
だからこそ、懐かしさを感じ、家族みんなの心に響いたんですかね。英語の歌詞とはちょっと違うんですよね。英語はもっと比喩っぽかったような気がします。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうなの? どれどれ…。
(英詞の翻訳と映画の翻訳を見比べる)
ああ、映画の歌詞の方がすごく直接的。ずいぶん変えてしまっているのね。
英語のほうが詩的ですよね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
うん、イメージ的には、フランスの歌詞の方が詩的なイメージなのにね。
私、この曲を小学校ぐらいの時から聞いているんです。というのも、この曲って、私が好きなジブリの映画『おもひでぽろぽろ』のエンディングテーマなんです。ちなみに都はるみが歌っています。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
日本語の歌詞?
そうです。その日本語の歌詞が、割と英語の歌詞に近いんですよね。
りきマルソー
りきマルソー

路子
路子
この曲を検索した時に都はるみが歌っていると出てきたから、私も知っていたの。でもジブリで都はるみという組み合わせだったから、歌詞変えられてしまっているだろうなと、思っていたの。


路子
路子
(都はるみバージョンを聴く)バラは出てこないのね。

たしかに。でも英語の歌詞も最後に1回バラっていう言葉が出てくるくらいなんですよね。だから結構近い。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
なるほど。
手嶌葵という歌手も「The Rose」をカバーで唄っていて、たまに聴いたりしてます。毬谷友子も何回かライブで唄っているんですが、毬谷さんのは本当にすごく良かったです。情景が浮かぶ。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
良いでしょうね。毬谷さんの唄は本当に良いもの。
ちょうどハーパースバザーの特集『薔薇物語 「清らかな矛盾ーー私が惹かれる理由」』を書く時に、ベット・ミドラー主演でジャニス・ジョプリンがモデルになっている映画『ローズ』の話も出てきたの。そんなのもあって、観るタイミングであったり、今自分がどういうものに触れていて、というのが…。
路子さんにとって、今結構引っかかる映画だったんですね。
りきマルソー
りきマルソー
路子
路子
そうそう! いろんな言葉にもポンポンポンポン引っかかっていたしね。
「希望とは苦しみのこと」とか「歳をとるが本質は変わらない」とか、結構短い言葉がたくさん出てきましたよね。
りきマルソー
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路子
路子
格言めいた言葉が多いのよね。名言の宝庫だったわね。

~今回の映画~
『輝ける女たち』 2006年12月 フランス
監督:ティエリー・クリファ
出演:ジェラール・ランヴァン/カトリーヌ・ドヌーヴ/エマニュエル・べアール/ミュウ=ミュウ/ジェラルディーヌ・ペラス/ミカエル・コーエン/クロード・ブラッスール

-ゆかいな仲間たち, よいこの映画時間