☆37本目『メフィストの誘い』
2020/02/06
【あらすじ】
シェイクスピアの研究のため、古い修道院へ調査にやってきた教授のマイケル(ジョン・マルコヴィッチ)と妻のヘレン(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
管理人のバルタール(ルイス・ミゲル・シントラ)に迎え入れられ、修道院内を案内されますが、かなりあやしい雰囲気…。
路子
ドヌーヴはそんなに出てこないのよね。
ですね。メインは教授とピエダーテ(レオノール・シルヴェイラ)とバルタール。
りきマルソー
路子
ジョン・マルコヴィッチはどんな映画で有名なの?
『マルコヴィッチの穴』は有名ですよね。
りきマルソー
路子
知らない…。
綺麗な目をしていますよね。少女漫画みたいな。
りきマルソー
路子
つぶらな?
うん。ドヌーヴとはちょこちょこ共演しているみたいですね。
りきマルソー
路子
思い出した。私は『クリムト』で観たことがあったわ。
ピエダーテ役の若い女優は、オリヴェイラ監督が好きな女優で、監督の作品を観ていくと、結構出演しているのよね。『永遠の語らい』の学者役の人なのよ。
ピエダーテ役の若い女優は、オリヴェイラ監督が好きな女優で、監督の作品を観ていくと、結構出演しているのよね。『永遠の語らい』の学者役の人なのよ。
ああ、そうなんですか? 気付かなかった。
りきマルソー
路子
そうそう。すごく美しいから好き。
そもそも題材とされているゲーテの『ファウスト』を読んだことがないので、何となくこういうことなのかしら?ぐらいの感覚で観てました。私にはちょっとレベルが高すぎたかもしれない!(笑)。
りきマルソー
路子
難しいわよ。観る人を選ぶ作品ね。題材としているもの自体がすごく深いの。だから分からなくて当然だと思う。
ドヌーヴも出演している『永遠の語らい』の監督なんですね。
りきマルソー
路子
そうそう、オリヴェイラ監督。もう亡くなっているけれど、100歳を過ぎても監督業を続けてたみたい。オリヴェイラ監督の作品だから絶対に難しいなと思って、観る前にちょっとおさらいしたの。
路子
『ファウスト』はゲーテが生涯かけて書いた大作。『若きウェルテルの悩み』も有名だけれども、そういう作品とも違う。仕事の合間などを使いながら何十年もかけて書いたものだから、小説というものを超えて、ライフワーク的な、ゲーテの思想が全て詰まった作品なのよね。
メフィストフェレスという悪魔がファウストを誘惑するのだけれど、その誘惑に対して、どういう風に抗うかという話だったのを思い出したら、ゲーテってやっぱりすごいなという気持ちが大きくなっちゃって、色々とゲーテをリサーチし始めたの。そうしたら映画を観るのが次の日になってしまったくらい。
メフィストフェレスという悪魔がファウストを誘惑するのだけれど、その誘惑に対して、どういう風に抗うかという話だったのを思い出したら、ゲーテってやっぱりすごいなという気持ちが大きくなっちゃって、色々とゲーテをリサーチし始めたの。そうしたら映画を観るのが次の日になってしまったくらい。
『ファウスト』が題材になっているという情報はあったので、私も少しネットで調べてから観たんです。だから、この人はこの役割なんだな、というのは分かりました。
『ファウスト』というと、ドイツの劇作家 フランク・ヴェーデキント原作の劇団四季のミュージカル『春のめざめ』を思い出します。登場人物の中に、『ファウスト』を読んでいる少年たちが出てきて、母親に「やっぱり『ファウスト』を読むなんてまだ早いんじゃないかしら」と、たしなめられるシーンがあるんです。当時としてはセンセーショナルな内容で、禁書まではいかないけれど、ちょっと危うい感じの本として扱われていたのかな、と思って。
『ファウスト』というと、ドイツの劇作家 フランク・ヴェーデキント原作の劇団四季のミュージカル『春のめざめ』を思い出します。登場人物の中に、『ファウスト』を読んでいる少年たちが出てきて、母親に「やっぱり『ファウスト』を読むなんてまだ早いんじゃないかしら」と、たしなめられるシーンがあるんです。当時としてはセンセーショナルな内容で、禁書まではいかないけれど、ちょっと危うい感じの本として扱われていたのかな、と思って。
りきマルソー
路子
そうね。
学生のような若い子が読むものではないと。
りきマルソー
路子
人生を斜めから見てしまうとか、そういう意味もあると思う。そんなの読んでるから、そうなるのよ、みたいな感じの本ね。
路子
DVDだし、昔の作品だから、基本的に映像が暗いのよね。デジタルリマスターとかされれば、きっともっと違う風に見えたんだろうな。
絵を見ているかのような映像で、修道院の彫像のシーンをはじめ、絵画作品が連続しているみたいな印象だった。
絵を見ているかのような映像で、修道院の彫像のシーンをはじめ、絵画作品が連続しているみたいな印象だった。
路子
ピエダーテが教授のマイケルと図書館で話している時、半分が影になって、顔が半分しか見えないシーンがあるの。それを見て、光と影の画家と言われているカラヴァッジョの絵のようなシーンだと思った。彼の作品は、表情が半分くらい闇の中に消えているけれど、ちゃんと表情が描かれてる。だからこそ光が当たっているところが際立つ。レンブラントもそう言われているけれど、レンブラントの方がよこしまな感じがない。
それにしても。音楽の使われ方は笑っちゃった。
それにしても。音楽の使われ方は笑っちゃった。
うーーーーーーん(上昇するかのような音楽)みたいなやつですよね(笑)。
りきマルソー
路子
そうそう(笑)。
私は『赤線地帯』という映画の音楽を思い出しちゃいました。
りきマルソー
路子
それ知らないなあ。残念。
あの音楽に結構うけてしまったの。だから、私は芸術が分からなくなってしまったのかしら。と心配になってしまったわ。これをぷっ、と笑ってはいけないとは思うのだけれども、私たちが冗談でやるような、それこそベートーベンの『運命』がジャジャジャジャーンと流れるみたいな大げささを感じてしまった。だから、それで笑ってしまった自分が残念だった。陶酔しきれなかったの。
あの音楽に結構うけてしまったの。だから、私は芸術が分からなくなってしまったのかしら。と心配になってしまったわ。これをぷっ、と笑ってはいけないとは思うのだけれども、私たちが冗談でやるような、それこそベートーベンの『運命』がジャジャジャジャーンと流れるみたいな大げささを感じてしまった。だから、それで笑ってしまった自分が残念だった。陶酔しきれなかったの。
路子
この映画は何を描きたかったんだろうと、思ってはいけない作品だと思う。ただ、メフィストが出てくるから、「誘惑」はひとつのキーワードになってるわね。原題は『修道院』ですって。
そうなんですか?
りきマルソー
路子
うん。一体誰が誰を誘惑しているんだろう、というところが面白いポイントね。役割を『ファウスト』にあてはめると、誘惑者は、黒魔術とかをやっている修道院の管理人バルタール。修道院にやってくる教授マイケルが誘惑される人。悪魔の使いとして誘惑させる役割をするのが、図書館にいる若い女の子ピエダーテ。ドヌーヴ演じるヘレンは…。
悪魔を誘惑する人。
りきマルソー
路子
そんな役を存在感で出来る人は。
並大抵の女優じゃ出来ないですよね(笑)。
りきマルソー
路子
この役はドヌーヴ以外、無理だったんじゃないかしら。ファニー・アルダンやジャンヌ・モローあたりもいけるかな。 でも、ジャンヌ・モローは見た目の美しさというもので売っている人ではないから、そう思うとやっぱりドヌーヴしかいなかったと思う。最初からバルタールを圧倒している感じだったもの。ピエダーテもバルタールを誘惑するのよね?
ラストに。ヘレンがバルタールにお願いするんですよね。ピエダーテが夫を誘惑しないように森の中で迷わせてって。でも実はピエダーテは、ヘレンの夫よりもバルタールに惹かれてたという。
りきマルソー
路子
うん。バルタールはピエダーテの無邪気で奔放な姿に誘惑されているのよね。誘惑とはなんだろうとちょっと考えてしまったわ。
『ファウスト』の中には、ヘレンのような人物は出てくるんですか?
りきマルソー
路子
分からない…。あまり出てこなかったような気がする。
ヘレンって、結構寂しい思いをしている女性だと思ったんです。
りきマルソー
路子
夫が研究ばっかりだからね。
夜に夫を誘ってみても、無視されてしまう。
りきマルソー
路子
ドアの…。
バタン!
りきマルソー
路子
そうそう。その音は本当に耳障りな音だけれども、夫婦喧嘩をやるのと同じくらいの効果があって印象的だった。そういう表現のひとつとして、ドアの隙間の明かりが消えたり付いたりするのが見えるのも面白かった。
私、扉のバタンバタンシーンは笑っちゃいましたよ!
りきマルソー
路子
笑っちゃうわよ。
そういうのを表現してるというのは分かるんですけど、現実であれをしてたら笑います。しかも1回ではなく、何回もバタンバタンしているから。
りきマルソー
路子
わっはっはっはーって笑うシーンは、舞台みたいに大きな声を出す感じだったわよね。
そうそう。この作品は映画よりも、舞台の方が合っているような気がしません?
りきマルソー
路子
わざとそういう風に作っているのかもしれないわね。大げさな感じに。
路子
いくつか書き留めた言葉があるの。
路子
ピエダーテが朗読するシーンの言葉
「闇は傲慢な光を生んだが 今や光は 生みの母の夜と戦ってる」
どうして、ここを朗読したのかな。長い文章の、ここをあえてピックアップ、朗読させたということは、ここに何かあるのかなって。
「闇は傲慢な光を生んだが 今や光は 生みの母の夜と戦ってる」
どうして、ここを朗読したのかな。長い文章の、ここをあえてピックアップ、朗読させたということは、ここに何かあるのかなって。
路子
あとはバルタールが、教授との会話を森の中でピエダーテに話すシーン。
「無意味への挑戦だ 40秒で世界一周する矢を放つのだ」
「矢の行方は?」
「花に刺さったミルクのように白い花が真っ赤に染まる。 若い女性はその花を思想(パンセ)と呼ぶ」
「ポルトガル人の思想は?」
「思想は怒涛の大海を渡り切れないと」
それに対し、バルタールはピエダーテにこう言うの。
「思想は無力だ。言葉遊びに過ぎない」と。
その後のシーンでは、ピエダーテは教授にこう言われたと話すの。
「心のない才能は無だ」と。
すべてのセリフに立ち止まって考えちゃう。
ピエダーテがバルタールに言う「あなたに惹かれるけど、同時にあなたが憎い」っていう言葉はどうでしたか?
りきマルソー
路子
「それが愛だよ」というところね。
覚えてはいるんだけれど、本当にそうかなー?と、思ってスルーしちゃった(笑)。
映画の中でも、バルタールが「思想は無力だ。言葉遊びに過ぎない」って言っているけれど、監督は全部そういうのを承知の上でやっているのかなって思ったの。
愛と憎しみについては、色々な人が扱っているテーマだけれど、それを敢えてここでセリフとして使っているのが、「狙い通りなこと」としてやっているような気がした。
だから、この映画を観た後は、虚しくなる。もちろん、愛と憎しみについてのセリフは覚えているぐらいだから、引っかかった部分ではあるのだけれど、私がそこを書き留めなかったのは、そういうことについて考えたりすることが、バカバカしくなるような感じだったから。なんなのかしら、この感覚。
覚えてはいるんだけれど、本当にそうかなー?と、思ってスルーしちゃった(笑)。
映画の中でも、バルタールが「思想は無力だ。言葉遊びに過ぎない」って言っているけれど、監督は全部そういうのを承知の上でやっているのかなって思ったの。
愛と憎しみについては、色々な人が扱っているテーマだけれど、それを敢えてここでセリフとして使っているのが、「狙い通りなこと」としてやっているような気がした。
だから、この映画を観た後は、虚しくなる。もちろん、愛と憎しみについてのセリフは覚えているぐらいだから、引っかかった部分ではあるのだけれど、私がそこを書き留めなかったのは、そういうことについて考えたりすることが、バカバカしくなるような感じだったから。なんなのかしら、この感覚。
例えば、フランソワ・トリュフォーの映画のセリフ「愛は苦しい」では、私たちすごく盛り上がったじゃないですか?
りきマルソー
路子
そうよ、そうなのよ!
その違いは何ですか?
りきマルソー
路子
トリュフォーの場合、生身の人間の苦しみがあるからかな。トリュフォー本人の体験がそこにあるように思うから素通りできない。
『メフィストの誘い』に関しては、物語過ぎて、遠い世界…おとぎ話的な感じがし過ぎているから、共感できないんですかね。
りきマルソー
路子
でも、おとぎ話でも、共感したり、響くセリフがあったりするじゃない?
私も『ファウスト』が土台になっているからそういう風に思ってしまうのかな、とは思ったのだけれど…。
「言葉遊びに過ぎない」というのも、神や天上人のような、ものの目線を感じるのよね。しょせん人間がジタバタしても、どうしようもない。
私も『ファウスト』が土台になっているからそういう風に思ってしまうのかな、とは思ったのだけれど…。
「言葉遊びに過ぎない」というのも、神や天上人のような、ものの目線を感じるのよね。しょせん人間がジタバタしても、どうしようもない。
神にしてみれば、小さなこと、ということですかね。
りきマルソー
路子
そうそう。
路子
本当におとぎ話みたいなつくりだった。
最後もチャンチャン的な終わり方。
りきマルソー
路子
「その日漁師は次のように語った…」みたいなね。
ラストにドヌーヴが海から登場するシーンもかっこよかったですよね(笑)。
りきマルソー
路子
そうそう! 海から生まれたヴィーナス、アフロディーテみたいだった。
結構キラキラした映像でしたもんね。
りきマルソー
路子
まさにおとぎ話みたいなシーン。ヌードではなかったわね。
路子
やっぱり、この映画はすごい映画なんだと思う。でも多分、私、内容を半分も理解していないと思う…。
私なんか3分の1も理解してないと思いますよ(笑)。
りきマルソー
路子
やっぱりあの音楽で笑ってしまった時点で、絶望を禁じ得なかったし、寝不足もあったけれど、途中で寝てしまって、巻き戻してもう一回観たのを告白しておくわ。
~今回の映画~
『メフィストの誘い』 1995年9月 フランス・ポルトガル
監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジョン・マルコヴィッチ/ルイス・ミゲル・シントラ/レオノール・シルヴェイラ/デュアルテ・ダルメイディア