路子先生との時間

【4月のミューズサロン】谷崎潤一郎とエロス

このごろ「知人」と打とうとすると真っ先に「痴人」と変換されるようになってしまいました。4月の「山口路子のミューズサロン」のテーマが、谷崎潤一郎とエロスだったのです。

「わたし、谷崎潤一郎が好きなんです」といえばそれだけで教養ある方なら「はっはーん」と思うであろう危険な香り漂ふ文学には、熱狂的なファンも多いことでしょう。
今回のサロンは、どなたかがナビゲートという形式ではなく、谷崎好きのナオコさんとヒロコさんを中心に読書会のような形で進めるときいていたので、私も珍しく猫のひたいほどの予習をしていきました。

「卍」「蓼食ふ虫」「細雪」「痴人の愛」など代表作は2年前にひととおり読んでいたので、それらはぱらぱらと……(きちんと購入した路子先生とはちがい図書館で借りました)。

   新装カバーの「痴人の愛」。

 斜めよみのつもりがうっかり全部読んでしまいました。時代を越えて読ませる作品だなぁ、とあらためて感心。
悪女ナオミの金遣いのあらさ、まったく家事をせずに着物が垢染みていくところの描写など、きれいなところだけでなくみにくい部分の部分の描写が細かくリアルです。


 

あとは路子先生におすすめしてもらった映画を事前に視聴。

細雪[東宝DVD名作セレクション]

まずは市川崑監督の「細雪」。 
「日本の四季と、映像がとにかく美しいの」と先生がいうとおり、ストーリーうんぬんというより映像の美しさが圧倒的な魅力でした。
とくに衣装の着物といったら……日本に生まれて良かったとしみじみ。 

衣紋の抜き方ひとつをとっても勉強になります。岸恵子演じる長女の鶴子は、衣紋をかなりたっぷり抜くだけでなく、衿をのど元のかなり下のほうで合わせ、その抜け感により大人の女の艶めかしさが一層アップしています。かたや末娘のこいさんは衣紋の抜き方も控えめに、衿もきっちり合わせることにより清楚な印象に。三女の雪子は、この映画では毒婦のような描かれ方をしているせいか、きっちり合わせ気味の着物姿からさえも色気が匂い立っているように感じましたが……。

あとは、サロンのなかでも話に出たのですが、姉妹のじゃれあいが妙に色っぽいのです。
ドレッサーの前で化粧中の幸子(次女)の、お白粉をぬった陶器のような肩をみて、思わず頬をよせるこいさんだったり、こいさんが雪子の爪をきるシーン(そのあと、床に散らばった爪を拾うところまで丹念に描かれるところにフェティシズムを感じます)。

こいさん以外は基本的に皆いつも着物ですが、家のなかでも袋帯(格の高い帯)を結んでいたり、紅葉狩りにいくのに五つ紋の羽織を身につけていたり、やたらと気合入ってるのも見てて楽しいのです。映画だからか家柄がいいのか昔(昭和初期)がそうだったのかはわかりませんが……。

「細雪」がよかったので、続けて「春琴抄」も見ました。

春琴抄 [DVD]

こちらは時代も明治初期に遡り着物の着方も今とはだいぶ異なります。


半襟をたっぷり見せたり重ね衿をしたり、総絞りの帯揚げを幅広に締めたり……華やかな衣装に身にまとった山口百恵はまぶしいほどの輝きを放っています。あどけなさと色気が入り交じってなんとまぁ……!ため息ものです。 

「春琴抄」にも谷崎大先生の怪しい視線がたっぷり。目のみえない春琴が「足が冷たい」と言うと、奉公人の佐助(三浦友和!)が春琴の足袋を脱がせ自らの懐であたためるところなどは、完全に足フェチの妄想シーンのようです……。

驚いたのが、母親役の女性がお歯黒をしていたこと。谷崎自身『陰影礼讃』のなかで、明治20年頃はまだ年配の女達はおはぐろをしていたと言っていますし、「顔以外の空隙へ悉く闇を詰めてしまおうとして、口腔へまで暗黒を啣ませたのではないであろうか」と、暗い家屋敷のなかで白い顔との陰翳を際立たせ幽鬼的な美を生みだすおはぐろの効果について語っています。ただ光を愛する西洋人がおはぐろを醜悪だと感じたように、日本が昼も夜も明るくなり現代化するにつれおはぐろ文化が廃れていったのも理解できます。それにしても100年で美の基準はこんなにかわるのか、とまたしてもしみじみ。

(至福のカフェタイム……)

 

サロンのなかでは数々のトピックスのうち文豪の私生活に興味が湧きました。佐藤春夫との妻とりかえっこ事件など数々のスキャンダラスな話題を世間に提供していた谷崎ですが、あえて私生活をスキャンダラスにすることで書けていたのでは、という話が印象に残りました。やはり完璧に満たされた日常から名作は生まれないのでしょうか。

この日のお花は、「細雪」の4姉妹をイメージして選んだと路子先生。そのセンスが好き。


谷崎といえば着物でしょ、と今日は(も)着物で。


今日のおもたせは大正ロマン感たっぷりの日本ワイン、塩山洋酒の「ベーリーアリカント」です。ラベルの女性が「ナオミ」に見えて購入したもの。


 

谷崎の世界にたっぷり浸った充実の午後。
そして「ナオミ」になれない平凡な女は、帰宅後大人しく家事をして眠りについたのでした。

-路子先生との時間