【5月のミューズサロン】香道の世界へのいざない
茶道、華道など数ある和の「道」のなかでも、とくに雅なかほり漂う「香道」。
茶道や着付けを習い始めてから興味はあったものの敷居は高いままでした。だって香道の世界にどうアプローチしていいかわからないもの……。なので路子先生から「ミューズサロン・香道の世界へのいざない」の案内がきたとき、すぐさま「参加します!」と返信。募集開始数日ですぐ満席になっていたから、それだけ皆興味はありつつ足を踏み入れられなかったに違いありません。
今回のナビゲート役は、香道界のホープ木下薫先生。ふんわりとした白いブラウスにフレアスカート。足もとは白い薔薇があしらわれた黒エナメルのヒール。美しくエレガントないでたちでご登場されましたが、なんと路子先生の著書『ココ・シャネルという生き方』に感銘をうけシャネルデビューされたそう。シャネルのロゴが大きく入ったピアスなどは、着ける人を間違うとブランド好きのように見えてしまう難しいアイテムだと思うのですが、薫先生は品良くさりげなくお召しになっておられました。
サロンでは3種類の香木と樹脂の乳香(フランキンセンス)を比較しながら楽しませていただきました。
香りを聞く(×嗅ぐ)時にも作法があり、香炉を右、左、右と鼻に近づけ「三息」で香りを聞きます。
香りにも格があることに驚きました。金より高価で取引されるという上物の「きゃら(伽羅)」は高貴でやさしい香り。昔の書物では「宮人」にも例えられるそう。
次の「まなか(真那賀)」は香炉で焚いた瞬間からあたりにエキゾチックな香りがふわり。「まがりありて、女のうらみたるがごとし」と"女のうらみ"に例えられるような蠱惑的な香り。
「さそら(佐曽羅)」は白檀といったほうがなじみ深いかも。"女のうらみ"とはうってかわり柔和な香り……これは「僧のごとし」だそう。昔のひとの香りのたとえに感心しつつ、奥深い世界にほうっとため息。香道って、とても文学的なことを知りました。
ぶどうからできたワインが無数の香りを生むように、香道に使われるのは香木のみ。東南アジアの一地域からしかとれない限りある香木はたいへんな貴重品。
(おもたせには香りがわかりやすい日本ワインを選んでみました。もぎたて苺の香りがする都農ワインの「スパークリングワイン キャンベルアーリー」)
会の最後の挨拶は「香満ちました」。香りを共有した皆さんで一緒に挨拶をして終わります。
この作法には思わず感動。なんて優美な文化なのでしょう。
それと同時に、香りに対する自分の姿勢にはっとしました。
私が仕事でワインをテイスティングするときは、ワインの香りを細かく分析します。どんな果実を感じるか、樽の香りはあるか、品種や造り方などもだいたい推測できるほど、香りはたくさんのことを教えてくれます。
その延長で、香木の香りも自然と分析しようとしている自分がいました(無理でしたが)。
だけど、香道の真の目的は香りを探り当てることよりも、輪になって香りを手渡し共有すること。
そもそもワインだって、本来の目的は分析ではなく楽しむものだったはず……さいきんは仕事じゃなくてもワインを頭で飲んでいるような感じでしたが、「香道へのいざない」が、大切なことを思いださせてくれたのでした。
◆本日の薫先生の名言
「傷つき、朽ちてこそ至高の香りを発する香木は、人と似たところがある」
いい香りを発する人になりたいものです。