軽井沢ハウス

■3話■ オリジナル「面格子」と「漆喰の塗り壁」物語

2017/05/17

家の中に入る前に、もうちょっとおつきあいください。もう一度北側に回って。
いいえ、基礎石貼りではなく、目線を上に……。「面格子」という単語が似合わない窓の装飾をご覧ください。

■目指せ! バックシャン■

我が家は北側が公道に面しているので、家の「後ろ姿」をお見せすることになります。これは私が「外から中が見えない家がいい」と希望した結果です。道を通る人の視線が気になって、いつもカーテンを閉めておくような暮らしは嫌だったのです(「中で何をしているのか、外からぜんぜん見えない家」は、本当に快適です)。
さて、そのような理由で、我が家は公道に背をさらすことになりました。見苦しい姿は公害に等しいので、バックシャン、つまり後ろ姿美人にならなければいけません。
ですから窓の面格子は、「できれば、アイアンの装飾的なものがいいわ」と夢いっぱいに、しかもお気楽に考えていました。が、甘かった。「アイアンの装飾的なもの」は高額な上に、デザインが今一つ私の好みではない。雑誌やらネットやらで、何ヶ月も探したのですが、どうしても見つからない。
……これはもうダメか、普通の味気ないので我慢するしかないのか、いいえ! だったらいらない! 美しくないもんっ。
と、最後にはふてくされるところまでいったところで、私の頭に、ある人のお顔が浮かびました。

■彫金作家による、美しいアイアン面格子■

それは、軽井沢在住の彫金作家、野本博史氏! ぴかぴかーっ、と後光つきでの登場です(注:私の頭の中のイメージ)。
「彼に相談してみましょう」

私は早速電話をかけました。そして、私の思っていることを伝えました。
①家の雰囲気に合った面格子が欲しい。
②そして予算はかなり低い。
③わがままでごめんなさい。
この三点です。
野本氏は、一瞬、絶句なさったようですが、次のようにおっしゃってくださいました。
「それはすごく低い予算ですね。でも、おもしろそうだ。デザインしてみましょう!」

そして、こんなに素敵なのをつくってくださったのです。
「軽井沢ならではの家をつくろうというなら、軽井沢色を出したいな、軽井沢在住の作家の人たちに声をかけてみたら?」との夫からのアドヴァイスはあったものの、具体的にイメージできず、行動に移せないでいたのです。それが、このような形で実現できて本当によかった。
軽井沢にかぎらず、世の中には、個性的なデザインのモノづくりをしている作家さんが多くいらっしゃいます。私は、家創りのさまざまな場面で彼らにもっともっと活躍して欲しいと思っています。
彼らが活躍するためには、何が必要か。それは「オーダー」です。家を建てる人が彼らにさまざまなモノをオーダーすればいいのです。そう、個性的な家をつくるために。どこにでもある家ではなくて、自分だけの家をつくるために。
性能とか構造とか、それらはもちろん大切だけれど、それと同じくらい、「自分(なり)の美意識」にはこだわるべきです。毎日ふれるもの、毎日目にするものなのですから。
ポストも野本さんにデザインをお願いしました。実際に制作してくださったのは、野本さんのご友人の鍛造作家、坂本武人氏です。アイアンで、傘かけもあって、とっても便利。

■屋根はメルヘンにならないように■

屋根の三州瓦は、メルヘンチックにならないよう(三角屋根なので気をつけなければなりません)、黒のグラデーションが入っているタイプにしました。天候によって時間帯によって、くすんだ赤になったり、オレンジになったり、茶色になったりします。
宅配の方やタクシーの運転手の方に説明するときなどに、何色の屋根と言うべきか、ときどき迷います。いつだったか、「赤い三角屋根の……」と説明したら迷ってしまわれて、後で「こりゃあ、赤じゃないですよ、茶でしょう」と言われたこともあります。

■「ゴテッと、もっとゴテッと…」漆喰物語■

「外壁には漆喰を使いましょう」とおっしゃったのは丸山さんです。
 塗り壁を希望していたけれど、「漆喰」と聞いたときには、そのレトロなイメージに酔い痴れました。昔の「蔵」が頭に浮かんで、うっとり。
「ぜったい、漆喰がいい。似た素材はたくさんありますけど、ホンモノを使いましょう」と丸山さん。「はい」と生徒のように頷く私。こういうときはとっても素直なのです。
ところが、この漆喰ときたら!
後に現場監督の酒井さんをして「あの漆喰が一番大変だった!」と言わしめるほどに、手間のかかる素材だったのです。ホンモノとはなんて手間がかかるのでしょう。
いえ、もしかしたら私のせいかもしれません(間違いない)。
私が「真っ白でお願いしまーす」と言ったなら酒井さんはラクだったのかもしれません。 以下、酒井さんとの会話です。
「酒井さん、私、外壁はくすんだ白がいいです」
「くすんだ白、って、どういう白ですか? アイボリーってことですか?」
「いいえ、アイボリーじゃだめなんです。それだとたぶん、お菓子の家みたいになっちゃうから」
「じゃあ、グレーっぽくすればいいんですかね?」
「グレーでもないんです。それだと無機質なかんじになっちゃうから」
「すみません、イメージできません」
「そうですよね、私もよくわからないんです。白とアイボリーとグレーを混ぜてみたかんじ、でしょうか」
「……」
これをそのまま左官の羽毛田さんに伝え、色見本をつくっていただくことに。ところがこの色見本が、曲者。乾燥する前、乾燥する途中、乾燥してから。色が変わってゆくのです! そして乾燥するのに時間がかかるのです! 
「今、色見本つくりましたが、乾燥した色を見ていただくのは、明日ですね」
なんてことになるのです。
そして、本人(私です)もはっきりと明示できない「くすんだ白」が、なかなかでなくて、なんと四度にわたる色合わせを経て、ようやく決定したのです。

さて、壁塗り当日。
「とにかくゴテッと、ボテッと、乱暴に塗ってください。鱗模様みたいに規則正しい模様にならないように、自由奔放にいっちゃってください」
と私はお願いしました。
けれどやはり、このような依頼は珍しいらしく、みなさん戸惑った表情です。
「なるべく平坦で均一になるように塗る仕事ばかりだから、慣れていないんですよ」と丸山さん。
そこで私はみなさんに、「とにかくめちゃくちゃやってみてくださーい」と言いました。
そして、どきどきしながら丸山さんと作業を見守ったのです。

「もっと、思いっ切り、いいですよ! その調子! もっと厚くしてみてください! そうです! そのくらい!」
と丸山さんが声をかけます。
私は隣で、ぶつぶつとつぶやき続けます。
「もっと、もっとゴテッと、もっと……」
結果、充分に納得のゆく仕上がりになりました。ありがとう、みなさん!

 

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