軽井沢ハウス

■8話■ 生きている「床」と「珪藻土の塗り壁」物語

2017/05/17

床は無垢のパイン。裸足で歩くのが快感です。とっても気持がよいのです。

■床塗り初体験■

家の設計であれこれ頭を悩ましている頃から、「最後の床塗りは、みんなで一緒にやりましょうね。お施主さんも家創りに加わって欲しいと、常日頃から思っているんですよ」とにこにこしておいでの丸山さんでしたが、ときが経つにつれ、「このひと(私のこと)、参加しすぎ……」と思ったに違いありません。
それなのに、家創り最終段階で、「さあ! 床を塗るときが、いよいよやってまいりました!」と明るく言えた丸山さんは、とっても大人だと思います。いいえ。とんでもない。いくら私でも「もしかして、人件費を抑えるためでは」なんて思っていません。
さて。塗料はもちろん自然素材。色は「ウォルナット」。これを刷毛で塗っていきました。
現場監督酒井さんと、丸山さんと私たち夫婦。四人でせっせと塗ったのであっという間に終わりました。もちろん後日、塗装の大西さんが二度目を綺麗に塗ってくれました。その上に、ワックスを塗って完成です。

■床をどうするか、それが問題■

この無垢のパインに決めるまでには、迷いがありました。私は本来は、絨毯が好きなので、できればすべての床に絨毯を敷き詰めたかったのです。けれどやはり汚れ等を考えるとダイニングなどは躊躇してしまいます。
なので、総絨毯の夢はかなり早い段階で消えました。となると、やはりフローリングが浮上してきます。
「フローリング」=木質床材という意味の和製英語。なんだか嫌いだわ。
……なんて言葉に反応している場合ではありません。
私は丸山さんに言いました。
「ぴかぴかにならなくて、しかも気持ちが良くて、しぶい感じの床材はないですか?」
丸山さんは、う~ん、とうなった後、「予算も考え合わせると無垢のパインしかないでしょう!」と得意そうにおっしゃったのです。
「それ、何色ですか?」
「木の色ですよ。はっはっは」
「木の色って?」
「ナチュラル、ですよ、山口さんの嫌いな、ナチュラル!」
丸山さんは楽しそうです。
そうです。「古くて暗くて狭い」のところでもお話しましたが、私は「ナチュラル」に、どうも馴染めない体質。なちゅらる。というこの響き、どうも胡散臭く感じてしまうのです。
「ナチュラル、ですか」
と、思い切り不満そうな私に丸山さんはおっしゃいました。
「塗ればいいんですよ。山口さんの好きな、古くて暗~い色に」
丸山さんを見上げると、どうも口もとが「いっひっひ」と言っているような気がしますが気のせいでしょう。
古くて暗い色に塗る……。
「すばらしい! そうしましょう!」
と私は言いました。こうして床が決定したのでした。

■問題点も■

それで、無垢のパインですが、これがとっても気持ちがよいのです。頬ずりしたいくらい。しないけど。
ただ、一つだけ問題点がありました。我が家は一階部分だけ、床暖房をいれているのですが、「乾燥」で木が縮むのです。できたての頃は、ぴったりくっついていた木が、冬になると隙間が目立つようになり、春から夏にかけて再び隙間が閉じるのです。まさに、「い……、生きている」ってかんじです。
私は、ええ、「古くて暗くて狭い」家を好むような女ですから、気になりません。
けれど、隙間なんてイヤイヤ、ぜったいイヤっ、と気になさる方には、床暖房用の床材をおすすめします。

■絨毯の部屋■

絨毯、というと普通、高級なものを意味するので、やはりカーペットと言い直します。
寝室は麻の混じったアイボリーのカーペットを敷きました。寝室だけは絶対にカーペットと決めていたのです。ホテルの雰囲気が好きなので、それに少しでも近づけたかったのです。
階段と二階の書斎にもカーペットを敷き詰めました。汚れが目立たなくて、予算に見合っていて、それでいて一階の床と馴染む色調のもの。
これもかなり迷いました。数日かけて迷って、最後、丸山さんと意見が一致して、レンガ色のカーペットとなりました。

■生きている壁物語■

「吸放湿性」、この言葉だけで珪藻土を選んだ、と言っても過言ではありません。湿気を吸う……。床とおんなじ、「い……生きている」ってかんじです。それに、湿気に過度に怯える私にしてみればこの上なく魅力的です。
「外壁ほどではないにしても、やはり乱暴なかんじで。でも規則性が生まれないように粗くお願いします」
と私はその朝、左官の方々に言いました。
「もう、お任せしちゃいますから、お好きなようにばんばん塗っちゃってください」
場の雰囲気的には、どすをきかせた声で、「やろうども、かかれっ」と言いたいところでしたが、抑えて、いったん現場を離れました。
そして壁塗りが終わった頃を見計らって、現場を訪れました。イメージ通りの仕上がりに感激している私に、一人の職人さんが、
「ここんとこ」
と、ダイニングとリビングの境目のアーチ部分を指しておっしゃいました。
「勝手ながら、ここんとこだけ、ボテボテの塗りにしてみました。このほうが雰囲気でるんじゃないかと思って」
私、あやうく抱きつくところでした。
なんて素敵なんでしょう。私には思いつきもしなかったことです。感動に打ち震えながら私は言いました。
「もう、倒れそうなほどに、素敵です! 嬉しいです! ありがとうございます!」
私自身の想いが職人さんに伝わった、と思えた極上のひとときでした。

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