軽井沢ハウス

■13話■ つつましき「キッチン」物語

2017/05/17

こちらがキッチンです。小さいでしょう?

でも私には充分なんです。テーマは「大切なものを見失わないキッチン」です。

■私はどんなキッチンが欲しいのか■

家をつくるときキッチンをゴージャスにする人というのは、家事が好きなのだろうなあ、とは、ずっと思っていたことでした。
他の人たちはどうなのか、私は家事(いわゆる掃除・炊事・洗濯)に燃えるときと、死ぬほどそれを疎ましく思うときの落差が激しく、一言で言えば「家事が好き」とは言えない女です。
それでも、神経質なところも多分にあるので、部屋が散らかっていると気持ちが悪く、ゆえに掃除は毎日行います。洗濯も「逃れられないこと」という理由から毎日行います(威張ることではありません)。
そして、料理。けっして嫌いではないけれど、「義務」となったとたんに、うんざりしてしまうのです(ああ、主婦がそんなことを言っていてはいけません)。
そのくせ、どうせいただくなら「身体に良いもの美味しいもの」がよいと思うから、インスタントを拒否して手をかけたりするので、一人で疲れたりしています。
さて、義務だろうとなんだろうと、キッチンには毎日立たねばならぬ宿命のようです。
それならば、快適なものをつくろうというのが人情というもの。
というわけで、エナジーを注入してしまいました。
細かいところまですべて一人で決めたので、家創りの中でもっとも発狂しそうになったのが、ずばり、キッチンプランなのです。
さまざまな雑誌を見て研究しました。

なになに?
「子どもやお客さまと一緒にお料理を楽しめるアイランド・キッチン!」
「コンパクトで作業しやすい、I字型!」
「やはりオーソドックスなL字型!」
「いやいや、なんといってもコの字型でしょう!」
迷います。
いったいどれにするべきなのでしょうか。
雑誌に載っているキッチンはどれも素晴らしく、「こんなキッチンだったら、すごい料理がつくれそうだ」「娘と二人で、あるいは、お客さまと一緒に料理、というのも、なんだか素敵そうだ。憧れの軽井沢ライフ、ってかんじ」とか、いわゆる夢がふくらむわけです。
しかしながら、ここで立ち止まって確認しなければいけません。

 

■「日常」を忘れないで■

そうです。「日常」を忘れてはいけないのです。
そこで日常をイメージします。
お客さまなど年に何度も来ない。ゆえに「お客様と一緒に料理」の夢想は省こう。次に娘。五人の子持ちならいざ知れず、一人くらいならどんなキッチンだって、一緒に料理できる。しかも日常を考えると、そんな場面は週に一度くらい。この夢想も省こう。
となると、「キッチンにはいつも私一人」のイメージが残るのでした。
そうです、それが「日常」。
というわけで、私は「自分一人のキッチン」として、どんな空間をつくるか考えることにしました。
最初からシステム・キッチンという考えはありませんでした。なぜなら、「これなら素敵」と思えるものは目が飛び出ちゃうほど高額だし、予算に見合ったものは「絶対嫌だ」と眉間に皺が寄ってしまうほどに悲しい姿だったからです。
さんざん考えた末に、頭に浮かんだのはこれでした。「大切なものを見失わないキッチン」。説明が必要ですね。

■機能的でシンプルなのがいい■

家の中でもっともモノが雑然としがちなのが、キッチンではないでしょうか。食器、調味料、食材、調理用具などなど。
ところで、収納についてのところでお話したように、私は必要のないものを家の中に置いておくのが好きではありません。なのでキッチンも、「あれはどこにしまったっけ?」と、一度なりとも言わないで済む、機能的かつシンプルなものにしようとしたのです。
しかし、これこそ言うは易し、行うは難しです。
丸山さんはおっしゃったものでした。
「どーぞ、山口さんのお好きなようにデザインしてください。簡単にスケッチしてくだされば、図面をおこしますから。いやー、楽しみだなあ。どんなのができてくるかなあ」
ほとんど他人事のようでは? なんて思うのは私の気のせいでしょう。
しかも、「一週間以内にプランをくださいね」なんて、酷なことをおっしゃる。
というわけで、「頭の中キッチンだらけで、はちきれそう」な一週間が始まりました。
 
■一週間みっちり、キッチンと向き合う■
 
私がまずしたことは、キッチンにメジャーとノートを用意することでした。
そうです。 キッチンに立ち、料理をしたり片付けをしながら「ここに調味料の棚があると便利」とか「ここにコップなんかを置ける簡単な乾燥棚があるといいな」などと、「こうだったらいいな」を思いついたときに、かたっぱしからメモしたのです。
また、私はビン・フェチでもありますから、さまざまな食材をビンに入れています。そのお気に入りのビンの高さなどもはかり、オープン棚の仕切りのサイズなどをメモに書き込んでいったのでした。
食器も同様です。我が家は食器も数が少ないのですが、それらの大きさを全てはかり、食器棚のサイズを決めました。
ですから一週間後、丸山さんにお見せした涙と汗でぐちゅぐちゅの(嘘)スケッチにはセンチ単位で、食器棚、オープンラック、水切りラック等の幅、高さ、奥ゆきが書き込まれていたのでした。
丸山さんはおっしゃいました。
「いや~、ここまでしてくださると助かるなあ」
「大変だったんですっ。もうへろへろですっ」
と、私が涙ながらに(嘘)うったえると、丸山さんは、「よーし、それでは細かく確認していきましょう」と、とたんに真剣な眼差しで私のスケッチを覗き込んだのでした。

■やはり、見た目も美しいのがいい■

視覚的な観点から考えてみます。
キッチンはとかく機能重視で、それはそれでいいのですが、やはり、機能が追求される場所だからこそ、美しさを求めたい。
最初から、白いタイルはイメージとしてあり、これは「ヨーロッパの田舎家」ともつながっていました。
けれどやはり迷いはありました。
白いタイルといっても、私が欲しいのは二センチくらいの小さなタイル。当然、目地が汚れるのでは? という不安があったのです。
そこで、いくつかのメーカーを調べてみました。すると「汚れのつきにくい目地」があるのを発見、タイル採用に踏み切りました。
丸山さんにご相談すると、「そうは言ってもですね、汚れることは汚れますよ」だって。
それでも私がタイルにしたのは、どう考えても、この家に、このキッチンに、ステンレスは似合わないと思ったからでした。
そして、白いタイル、とくれば、シンクは当然、白いホーローでしょう。ホーローは思ったより汚れがつきにくく、使いやすいです。
白いタイルは、丸山さんがおっしゃったようにやはりお手入れは大変です。おしょうゆなどこぼしたときには、号泣したくなります。なので、もっとも使うところには、透明のシートを置きました。見た目は変わらず、使い勝手がぐんとよくなりました(撮影のときなどには、ズルしてこれを外しています)。


そして木部分の色。これは床やドアと同じ焦げ茶色に塗りました。白と焦げ茶という組み合わせが私の好みでもあったのです。
木部分も白く塗り、真っ白なキッチンにする! という案も周囲から聞こえてきましたが、あまりにもすがすがしく、使い手の性格と合わないのでやめました。
シンク下はオープン。棚もありません。これは「大切なものを見失わない」テーマに通じています。カフェカーテンで目隠しをして、ここにダストボックスや洗剤などを収納しています。
オープンにした理由はもう一つあります。湿気対策です。湿度の高い軽井沢。シンク下といえば、じめじめしがちなところ。オープンにすればその心配はありません。


■キッチンは個室、ただし、抜け道あり■

オープンキッチンをお好みの方が多いようです。私はキッチンは独立しているのが好きで、それは、ときどき、すべての生活臭をシャットアウトしたくなるからかもしれません。
というわけで、我が家のキッチンは独立型。
引き戸をつけて、小さな個室となるようにしました。ただし、圧迫感は避けたいので、リビングとつながる小窓をつけました。娘の存在も大きかったかな。この窓を開いておくと、リビングにいる娘を監視、いえ、娘と話をしながら料理などができるのです。それに、ちょうどこの窓からは、外の緑が見えるので、目にもいいかんじ。
また、勝手口は丸山さんにご提案いただいたドアを採用しました。これは上下真ん中で分かれる画期的なもの。窓として使いたいときは、上だけを開くことができるので、夏などはとても便利です。
 

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