軽井沢ハウス

■16話■ シンプルすぎる書斎物語

2017/05/17

これで一階のご案内は終わりました。次はどうぞこちらへ。階段を上がって、二階へまいりましょう。

■「仕事に行く」ためのスペース■

ベッドルームのところで「一階を生活の場に、二階は仕事の場に区切りたかった」ことにふれましたが、ここでご説明しましょう。
私の日常は、ほとんどの時間を家で過ごします。朝食、洗濯掃除、料理、夕食といった、日常の行為をしつつ、仕事をすることになるので、だらだらだらー、と変化がないのは嫌だったのです。
「さあ、仕事に行きましょう!」という雰囲気が、家の中に欲しかった、と言えるかもしれません。ですから二階に生活の匂いはほとんどありません。
「生活」から「仕事」へ、その切り替えの役割を果たすこの階段も、好きなスペースの一つです。娘などはここに坐って本を読んだりしています。

そして二階。階段上がってすぐのところが私の書斎、そして、奥が夫と娘のスペースです。
もう、あなたの顔も見たくないわっ。ぷん。
という場合には、中央にある引き戸によって完全に隔絶されます。

ところで、雑誌などに掲載する写真にこのスペースが使われることが多いのはなぜでしょう。私が力を入れた一階部分ではなく、二階部分が使われるのは……。
仕事しているところを撮りたい、ということもあるのでしょうけれど、複雑です。書斎なのでシンプルでいいわと、それほど考えなかったところなので。

■手形のカビは、もう見たくない■

一階の収納についてのお話のときにふれたかと思いますが、二階には、私からすれば「広い」収納があります。屋根の傾斜を利用したスペースなのですが、ちょっと広すぎたようです。
さて、私はこの収納スペースに湿気がこもることが、とても心配でした。
なにしろ、ここは軽井沢。「湿気→カビ」への工夫は不可欠です。
あれは移住一年目の梅雨の頃でした。リビングに数日放置していたバッグに、なんど手形のカビが発生していたのです。驚いてクローゼット、押入れを点検したところ、ほとんどカビ。いくつバッグを駄目にしたかわかりません。
このような涙の体験があったので、「ぜったいカビに出会わない収納」に私が情熱を燃やすのは、当然のことと言えましょう。
しかし、周囲の人たち(夫とか丸山さんとか色々)は、「まあ、湿気がこもりにくい二階だし、大丈夫でしょう!」といった雰囲気。
なんて楽天的なのでしょう。私は愕然としつつも具体案がないため、唇をかみしめるほかありませんでした。とは過剰表現ですが、なんとかならないかと、ずっと考え続けていたのです。

■「カビ知らずドア」の発明■

「それ」を思いついたのは、家創りも終盤となったある日のこと、あとはドア関係をつけるだけ、といった段階です。
天気のよい午後でした。私は二階に上がり、気になる収納スペースをじっと眺めていました。
……ここに、ドアがつくわけね。きっと「湿気がこもる」ことが心配で、私はドアを開けっ放しにしちゃうでしょうね。それで、中はいつも丸見え、ってわけ。……嫌だ。避けたい。なんとかならないものか。「ドアは閉じているのに、ドア開けっ放しと同じ状態!」みたいにしたい。不可能だろうか……
考えました。そこに目を見据えて、考えました。じーっと。
そしてひらめいたのです。
私はすぐ近くで何やらごそごそとしておいでの(もちろんお仕事でしょう)酒井さんに声をかけました。
「酒井さん、酒井さん、いいこと思いついちゃいました!」
ここで酒井さんの頬がひきつったように見えたのは、ええ、思い過ごしというものでしょう(ただ、私にとっての「いいこと」は、酒井さんや丸山さんにとって、「めんどうなこと」につながることがほとんどです。自覚してます)。
私は酒井さんにアイデアを話しました。
つまり、ドアの枠はそのままに、内側を格子状にして裏側にレースの布を貼れば「ドアは閉じたままで、ドア開けっ放しと同じ状態」にできるでしょう、という考えです。
「いかがでしょう?」と私は酒井さんを見つめました。
すると酒井さん、おもむろに胸ポケットから紙とペンと取り出して、デッサンを始めたのです。そしてちょっと得意そうに、「こんな感じですよね?」
「そうです! できるんですね?」
「やってみましょう」
酒井さんはそれは爽やかにおっしゃいました。ありがとう!
こうして、部屋と同じ状態を保つことができる快適な収納スペースができあがったのです。

裏側にはレースの布をつけました。これは自分で気に入った布を買って、ビョウで留めただけです。いつでも交換できるところもマルです。今、全くのカビ知らず。バッグも服も、安心してしまっておけるので、このドアを「カビ知らずドア」と命名することにしました。なんてシンプルな名なのでしょうか。


■畳は、落ち着きますか?■

一般的には、どんなに洋風なつくりの家であっても、「一部屋くらいは畳の部屋が欲しい」というのが人情のようです。
その理由は「落ち着くから」が、これまた一般的なようです。ところが私は、畳の部屋は「落ち着きません」。絨毯にソファ、あるいは絨毯にベッド、のほうがよっぽど落ち着きます。これはほとんど体質と好みによるものなので、理由を問われても困るたぐいのものです。
なのに、なぜ、なぜ、軽井沢ハウスに畳が出現したのか! ゲストルームが畳となったのか! これについては、深い理由があるのです。
というのは嘘で、以下のような、よろめきの流れがあったのでした。

■カーペットが畳に替わるまで■

ゲストルーム、当初は書斎と同じカーペットにしようと考えていました。ところが、ここをゲストルームとするとなると、そしてカーペットとなると、ベッドを買わなくてはいけません。やはり、カーペット&布団は抵抗がありますから。
けれどベッドを二つ購入し設置するとなると、ここは「ゲストルーム」以外に使い道がなくなります。
ところで。
ちょうどその頃、私は毎晩のストレッチを熱心に行っていました。それは「気功」ちっくなもので、雰囲気的には畳が似合うものでした。ある夜、いつものようにストレッチをしながらぼんやりと思いました。
「あの部屋を畳にすれば、ベッドを買わなくてもいいし、ストレッチも気持ちがいいかも」
夫に相談すると、「どっちでもいいんじゃない?」と予想通りの答え。
そこで丸山さんにご相談。
「えっ! 軽井沢ハウスに畳ですか?! 山口さんと畳って、合わないなあ! それに、洋室でつくっていますから、今から和室にするのは無理ですよ」
反対のご様子です。
私は一晩じっくりと考えました。
前にもお話したように、二階についてはほとんど考えていなかったので、初めてじっくりと考えたのです。そして結論を出しました。
「一部屋くらい、和っぽいのがあってもいいかも。おもしろいかも」
そして翌日、丸山さんに伝えたのでした。
「和室ではなく、カーペットを畳にするという感覚で、畳にしまーす」
ぜんぜん「深い理由」ではないことがお分かりいただけたかと思います。「一時の気の迷い」、あるいは「よろめき」です。私としたことが。
今私は、「何も畳にする必要はなかった。ストレッチは、書斎のカーペット上でやっているし」と思っていますが、ときおり、夫と娘が畳ルームで合気道の稽古などをやっているのを見ると、なんとなくほっとするのです。人は、自分の失敗を認めたくない生き物ですから。

■そもそも、ゲストルームは必要なのか■
 
大変言いにくいことですが、私は「ゲストルーム」はいらないと思っている人間です。我が家がどこかの山中にあるなら話は別ですが、ここは軽井沢。宿泊施設はあふれています。
もちろん、「おもてなし大好き」という体質の方は、ありがたくも存在しますから、そういう方々は「ゲストルーム」の必要性を疑いもしないでしょう。
けれど、そうでない方もおいでで、たとえば軽井沢の友人知人に聞いてみると「ウチには宿泊設備がないのです、ということで徹底している」という方々も存在します。彼らが言うには「それほど親しくない人でも、軽井沢にタダで泊まれる、というだけで遊びに来るのが困る」し、「ペンションのオーナー状態の日々が続いて、身体を壊してからばかばかしくなって一切やめたの」だそうです。
私の場合は、以上のような理由がないわけではありませんが(どうも、はっきりしません、臆病者なのです)、「家の中に無駄なスペースがあるのが嫌」なのです。一年を通して十回以内の利用回数ですから。しかしながら人の世というものは、一見無駄だと思うことにも意味があるのかもしれません。ということで、このゲストルーム、しばらくは現状のままでしょう。

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