ブログ「言葉美術館」

■56歳の誕生日と引っ越しと

 

 

 先日、5月2日は56歳の誕生日だった。と、書いてびっくり。56歳だなんて。こんなに生きるとは。ねえ。
 当日の夜は娘と娘の父親と私、「ドリームチーム」での誕生日会が予定されていた。自宅缶詰状態で原稿を書く日々のなか、この夜くらいはいいよね、と楽しみにしていた。ところがドリームチームのひとりがぎっくり腰になったため、前日にこの予定は延期された。すぐさまタンゴのお友だちにラインを送って、誕生日当日のタンゴを確保。
 その日の午前中、大きな花束が届いた。ぎっくり腰になってしまった彼からだった。「テーマはタンゴ」、そのイメージで花束を依頼したとのことだった。深紅の薔薇と深紅のダリアと濃いグリーンだけの花束は、まさに私の好みそのもの。うっとりと見惚れた。

 

 数時間後、また花束が届いた。いつも私をびっくりさせ、飽きさせることがないユニークであたたかなお友だちからで、真紅の薔薇メインの美しい花束だった。カードの言葉、「いつでも応援しています」にうるっとした。

 

 

 別のお友だちからのラインのメッセージ。「私は路子さんの人生をそんなに知らないけれど、路子さんのシワにキスしたい人のひとりです」。『大人の美学』を読んでくださっていることが伝わってきて、胸に沁みた。

 娘からもプレゼントをもらった。

 その夜は幸運にも踊りたい人たちが集まってくれた。それだけではない、ずっと欲しくて、でも自分で買うのをなぜか延期していた、カトリーヌ・ドヌーヴが「最初の美的洗礼」と言った、ゲランの「ルール・ブルー」、この香水をお友だちのひとりがプレゼントしてくれた。

 繊細で甘やかで神秘的な香り。私はいまこの香水がいちばん。

 

 

 もうひとりのお友だちは、これまた私が大好きでインスタグラムもフォローしている「ニコライ・バーグマン」のフラワーボックスをプレゼントしてくれた。

 

 

 そしてタンゴを踊った。

 こんなにも私の人生を重く、きりっと彩ってくれるものに出逢えただなんて。あれは50歳のときだった。踊っているときの、周囲の夾雑物がすべてなくなるあの感覚がある限り私は踊り続けるのだろう。

 ほんとうに原稿だけの毎日で、零時になったときにも、あ、今日誕生日か、と思った程度の1日の始まり(というか、深夜に眠ったのだが)だったが、花束といい、タンゴといい、香水といい、身に余る、とはこういうこと。

 56歳って、数字だけ見るとすごいんだけど、私は別のところにいるというか、実感がなくて、鏡を見ればすぐに実感できるとはいえ(涙)、『大人の美学』で書いたように、40代の一時期、暗黒時代の方がよほど老いていたと思う。

 原稿のことで8割は占領されていたけれど、満たされた1日だった。

 これを幸せと言う。

 ありがとう。

 今週末は引っ越し。「引越しが多いね」とお友達が言う。多いね。

 2011年に軽井沢から東京に戻ってきて最初に住んだのが恵比寿、そのあと学芸大学の五本木、そしていまの中目黒、今度は初の新宿区。

 引っ越しが好きでしているのではない。いまのところに引っ越すときにはまさか娘がひとり出版社「ブルーモーメント」を始めるなんて思いもしなくて、コンパクトなマンションに決めたのだった。ところが、出版社に加えてセカンドラインのネイルブランドなんかも始めたものだから、さすがに手狭すぎて、引っ越しをしなくちゃいけなくなったわけ。

 原稿の締め切りとかぶって、よろよろだけど、今度のところは新宿の夜景がとっても綺麗に見られるところだからがんばれ、と段ボールの山のなかでこれを書いている。人生はなにが起こるかわからないわね。

 放浪する人生も悪くはないわ。明日、我が身がどうなっているのかわからないかんじで生きることしか私にはできないみたい。

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