■「あなたは誰? 私はここにいる」 姜尚中■
2016/06/11
「惨い現実を受け入れる決断。失意と絶望の闇の中にそれでも希望のかすかな光を垣間見ることができるのは、わたしたちの中に感動する力が決して萎えることはないからではないでしょうか」
久しぶりに書店で長い時間を過ごす機会があった。
最近は書店で本に「出会う」ということをしていないな、と思った。
こういう本を購入しようという目的をもってアマゾンから購入してばかり。
おびただしい数の本の中に目を泳がせて、「それ」をキャッチする、ということをずいぶんしていない。
……だって、あなた、ここ何年か、意味不明の書店恐怖症で、書店に足を踏み入れられなかったんだから当たり前でしょ、と自分でつっこんで、それがこうしてこんなに長く書店にいられるようになるだなんてねえ、なんだか感慨深いわねえ、とおばあさんっぽくしみじみしてから、3冊、選ぼうと決めて書棚をめぐった。
「あなたは誰? 私はここにいる」はそのなかの一冊。
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本書は「美術本」的な装いの「自己内対話」の記録であり、現代の祈りと再生への道筋を標した人生哲学の書でもある。
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ここに惹かれた手にとった。だって、「ミューズの恋」と似た匂いがあるでしょう。
そしてとても興味深く読んだ。3.11の経験の上にたち、絶望や死を身近にちりばめて、それでも冒頭でひいた文章が全編を覆っているようなかんじ。読後は明るい。著者が出会った絵と、それぞれとの物語も、とてもおもしろい。
また、
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大地震と津波と原発事故が起こった直後、わたしも、無力感に襲われました。いま、美術の話などしている場合なのか、絵画の感動について語ることにいったい何の意味があるのか、懐疑の念が次から次へとわき起こってこの本を書く気力も失いかけていました。
でもやはり、意味はあるに違いないと思い直したのです。美に、絵に感動することもまた、微力ではあっても、必ず人びとの生きる力になると思ったからです。
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この部分、共鳴してうなずいた。
それから自分の体験をふりかえって、感動が減ることイコール生命力が弱まることなのだと強く感じた。