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▪️「美しさ」と最高のタンゴ

 

 今週火曜日に開催されたミロンガ(タンゴのダンスパーディー)『Switch スイッチ』のこと。

 四ツ谷のアルゼンチンバー「シンルンボ」で月に2回、第2第4火曜日に開催されている。バーだからね、踊らなくてもいい、飲むだけでもいい。

 このところ、タンゴについて、タンゴという踊りそのもの、タンゴを踊る人たち、場を作る人たち、そこに足を運ぶ人たち、その理由、みたいなことについて考えることが多い日々を送っていたから、いろんな想いがぐるぐると体を駆け巡っていた。

 毎回、テーマを考えて、ふたりのDJに伝える。彼らはそのテーマを頭の片隅に置きながら、たまにスルーしながら、選曲をしてきてくれる。訪れる人も「今夜のテーマは⚪︎⚪︎ですね」といった話をしてくれる、ときもある。ないときもある。

 昨夜のテーマは『思いがけないことが起こる夜』。アレキサンダー・マックイーンの映画からインスパイアされたテーマだった。

 美しい一曲が流れた。

 Gabriela Bergalloの「Milonga del trovador」。吟遊詩人のミロンガ。女性の歌声で、とてもやさしくかなしい。

 そのとき私はフロアにいなくて、踊る人たちを眺めていたのだけど、せつないメロディと声に身を委ねていたら泣きたいほどにこの瞬間が好きだ、という想いがつきあげてきた。

 踊る人たちを眺めているのが好きだ。とくにミロンガ『Switch スイッチ』では、フロアを眺めて、曲を聴いている時間がとても好き。

 その夜、どんな時間が私を待っているのだろうと、心をざわめかせながらメイクをしてドレスを選んで、家を出て、会場までの道を歩いて会場に着いて、そして夜が更けてゆく。ちいさなかけひき、淡い欲望、驚き、寂しさ…そんな色彩で空間が彩られてゆく。

 踊っている人たちを見ていたら、ケヴィン・オークインの言葉が浮かんだ。

 90年代を中心に大活躍して、40歳で亡くなった伝説のメイクアップアーティストのドキュメンタリー『ケヴィン・オークイン:美の哲学』を観て、書きとめていた言葉だ。

 「美しさ」について問われて、彼はこんなことを言っていた。私訳。

ーー僕にとって、ある人と時間を共有するとき、最高の経験は、その人の美しさを見つけること。するとその人の美しさから自分の美しさが見えてくる。

 メイクアップアーティストじゃなくても、これは人と人との関係すべてに言えることなのではないか。
 そして、タンゴもまた。

 踊る相手のなかからその人の美しさを感じ取り、互いにそれを引き出すということ。それが最高のタンゴにつながるのかもしれない。

 フロアを眺めながら、そんなことを考えていた。

 なので、次回のミロンガ『Switch』のテーマは「美しさを見つけたくなる夜」にしようと思う。どんな人たちが集うのか、どんな曲が流れるのか、ずっと先なのに楽しみでならないなあ。

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