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▪️『伝説のマエストロたち』で眠れなくなったこと

 

 『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』(2008)、お友達が貸してくれたDVDを夜おそくに観た。

 記憶では観るのは3度目。1度目はタンゴを始める前、DVDが発売されて少ししたころ。2012年ころ。2度目はタンゴを始めてすぐのころ、2016年だったと思う。そしておよそ8年後のいま、3度目を。

 目が冴えて眠れなくなってしまった。

 アルゼンチンタンゴのマエストロたちが一堂に会した伝説の、一夜限りのコンサート。ブエノスアイレスのコロン劇場。

 奇跡のコラボアルバム「CAFE DE LOS MAESTROS」(2006年のラテン・グラミー賞最優秀賞受賞)はブエノスアイレスの最も古いスタジオで録音された。

 呼びかけたのはアルゼンチン出身の音楽家グスターボ・サンタオラヤ。『ブロークバック・マウンテン』『バベル』で2年連続アカデミー賞作曲賞を受賞している。

 このドキュメンタリーのテーマ曲『マエストロに郷愁こめて(カルロス・ディ・サルリに捧ぐ)』を作曲したカルロス・ガルシーアが言う。

「『マエストロに郷愁こめて』は自然に溢れ出てきた曲だ。今聞くと自分が作ったとは思えない。作曲したというより降りてきたようだった。カルロス・ディ・サルリは偉大だ。余計なアレンジを一切しなかった。私はアレンジに満足したことがなく、だから今はシンプルになった」

 録音風景、リハーサルのようすと、マエストロたちの回想。

「タンゴは3分間のドラマだ。音楽と歌と踊りが3つ揃って完ぺきな大衆芸術になる」

 だから、踊る人たちのようすも流れる。それがステージタンゴではないところがよかった。あまりしゃれてないミロンガの風景とか、屋外とか。でもさりげなくチチョが真ん中で踊っていたりするけど。

 そして一夜限りのコンサート。

 もう、圧巻。

 …だめだ、ぜんぜん言葉が出てこない。でも言葉が出てこないことを記録しておこう。

 夜が明けて、ミュージシャンのお友だちに「映画、素晴らしかった」と話したら、「カルロス・ガルシーアは素晴らしいです」と動画のリンクを送ってくれた。

 

 

 オスバルド・モンテスとアニバル・アリアス、バンドネオンとギターもよかったな。別の年のコンサートのようすは動画にあった。私が大好きな『Los mareados 酔いどれたち』を。

 

 

『伝説のマエストロたち』は配信されていなくて、動画もなくて、CDはあるけど映画のサントラはなくて、いまはなんでも手に入りやすいからこういうのもじれったくていいな、と思っている。DVDはお友だちに返さなくてはいけないから、手に入らなくなる前に、と購入した。ポチ。

 カルロス・ガルシーアのセリフを最後に。

 

「タンゴのすばらしい演奏を聴いて、心が震えるのを感じなければ、他のことをしてくれ」

 穏やかに言ったあとで、一瞬厳しい表情をする、そこに私はふるえた。

 映画を観たあと、目が冴えてしまったのは、塵ほどであったとしても、自分もこの流れのなかにいるって、感じたからだろうか。アルゼンチン人じゃないし、ミュージシャンでもないけど、アルゼンチンタンゴを感じて踊ることが人生になくてはならなくなっている者のひとりなんだな、ってそんなことを感じて、重たい感慨が胸に広がったからかもしれない。

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