▽映画 ◎Tango ブログ「言葉美術館」

◾️「セント・オブ・ウーマン 」のタンゴにうっとり

 

 お友だちにそのシーンの話をしたからか、朝起きてすぐに「Por Una Cabeza(ポル・ウナ・カベサ)」が聴きたくなってリピートしている。

 タンゴを始めたばかりのころ、タンゴシーンのある映画を見続けた時期があり(10本以上は観たと思う)この映画もそのひとつだった。「セント・オブ・ウーマン 〜夢の香り」。

 アル・パチーノが盲目の退役軍人を演じている。その演技が絶賛されたことでも有名。

 私が好きなタンゴ・シーン。

 タンゴの生演奏が流れているレストランで、アル・パチーノ演じるフランクは良い香りにひかれて、その香りのする女性をタンゴに誘う。

 盲目ということもあり、フランクは女性がつけている香りがわかるという才能をもっていて、その女性との最初のやりとり。

「いい香りがするね、なんの香りかな、言わないで……(すこし考えて)オグルビーの石鹸!」

 女性は若くてとても美しく可憐な人で、ホルターネックのブラックドレスがすごく似合っていて、もう見ている方もうっとりなんだけど、彼女は自分の石鹸のブランドを言い当てられてびっくり。

  タンゴに誘われて、彼女はタンゴをならったことはあるものの、恋人に反対されてやめてしまって、たぶんうまく踊れないし間違えちゃうのがこわい、とフランクに言う。

 フランクは答える。


No mistakes in the tango, not like life.
It’s simple. That’s what makes the tango so great.
If you make a mistake, get all tangled up, just tango on.

 

 「タンゴに間違いなんてない。人生とは違うんだよ。とってもシンプル。それがタンゴというもののすごさなんだ。もし君が言うように間違ったって足がもつれたって、ただ踊り続ければいいんだよ。」

 この言葉でドナという名の彼女はフランクとフロアに出る。

 この会話のときに演奏されている音楽は「Vida mia(私の命)」

 そしてふたりがフロアに出たときに流れる音楽がカルロス・ガルデルの「Por Una Cabeza(ポル・ウナ・カベサ)」

 私は、このタンゴシーンがほんとうに好き。厳密に言えばアルゼンチンタンゴではないようだけれど、そんなことはどうでもよくて、ここには私の愛するタンゴの世界がある。

 タンゴを楽しむことを知っている男性にリードされて、そのリードがどこかユニークで、とにかく楽しさにあふれ、彼女は、おもいがけないリードに、わ、と驚きながらも心から楽しんでいる。

 一曲だけのあいだの、けれど、ふたりだけの刹那の関係性、人生の艶やかな一ページがそこにある。

 私はこういう空気感がほんとうに好き。

 ミステイク、なんて単語も、間違い、なんて言葉も、皆無。

 この曲は、 首の差で、という和訳でいいのかな。競馬なんかで首の差で勝つ負ける、みたいな。歌詞もあって、おしいところで恋に破れた男の哀愁が。

 一部、私の超訳。

 「情熱的に愛し合っていた日々……

 彼女は男好きのする女で、男をからかうのが好きな女で、微笑みながら愛を誓い、平気で裏切る。そう、彼女は俺の恋を炎のなかにほおりこみ灰にしてしまった。

 おしかった、あと一歩というところで、すべてを失った。

 それでも彼女のキスは俺の悲しみをやわらげるんだ。

 これきりで彼女が俺をすっかり忘れてしまうというのなら、そんな人生、何千回でも投げ出してやる。

…… しかし、だとしたら、いったい何のために生きているんだ。」

 おもいきり超訳です、念のため。

 

 このタンゴのあと、彼女の恋人、タンゴなんてくだらない、と彼女に言った男性があらわれて彼女を連れて行ってしまうのだけれど、このふたりはぜったいうまくはいかないだろう、と私は断言する。

 彼女にはタンゴを楽しむ才があり、それは彼女の本質をあらわしている。タンゴを踊っているときの表情でわかる。彼女には人生を楽しむ才がある。それを認めない、あるいは、それがわからない男性と、艶やかな人生が歩めるはずもない。

 それこそ間違っちゃだめだめ、ドナ! と私は言いたい。私に言われたくないだろうけど。

 香りのこと、気になって調べてみたら、ドナが使っていた石鹸はOgleby Sisters Soap(オグルビー・シスターズ・ソープ)社のもので「Tango」と名づけられた商品もあるらしく、使ってみたいけれど入手が難しいみたい。

 まあ、でも私には似合わないのがわかっているからいいか。「せっけんの香りのする女性」から程遠いところにいるのは自覚してるもん。

 

 

 

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