日々のこと

◾️新刊『愛をめぐる言葉たち』のこと

2025/11/06

 

 一冊の本を手がけているとき、二種類の感覚がある。一つは「すごく大変だしつらいし無理かもって今は思っていても、きっと仕上げることができる」、もう一つは「ほんとにこれ、いつか完成するのかな、無理そうだけど」。

 今回の本は後者の感覚のなかで書いていた。シリーズ前作となる『私を救った言葉たち』もそうなんだけど。

「おわりに」にも書いたことと重なることはここに書かないけれど、いまもまだ半信半疑……ほんとに書ききったの? みたいな不思議なかんじのなか、新刊の予約開始の告知スタート(出版社の公式サイト)の今夜、いま想うこと、本には書いていていないことを書こうと思う。

「愛をテーマにした本を…」と娘から言われたとき、これは本にも書いたけれど、壮大すぎるテーマではないか? と思ったし、ちゃんと考えてから覚悟をもって書かないとだめだな、とも思った。

 同時に、ぱっと一冊の本が浮かんだ。本といってもそこにあるのは一編の詩。

 谷川俊太郎の「あなたはそこに」というタイトルの詩に田中渉の絵、という組み合わせの美しい本だ。

 この詩の最終連にある「ほんとうに出会った者に別れはこない」を想った。

 そして、この美しい言葉について書きたい、書けるかもしれない、と思った。

 あのときの感覚が、いま思い返してみれば、私の背を押したのかもしれなかった。

 長い長い構想の期間、そして書き始めてからもしばらくの間、この一冊の本を机に飾っておいた。

 もう7年くらい前のこと、ある人からこの本を贈られた。その人と「ほんとうに出会った者に別れはこない」について話した。本には記していないけれど、その人のことをいま想ったとき、彼ともまた、ほんとうに出会ったのだな、と思う。感謝の念とともに。

 この言葉についての章はずっと最後にとっておこうと考えていた。

 タンゴを踊るためにタンゴバー「シンルンボ」に向かう途中のある夕刻、四ツ谷の交差点で信号待ちしていたときに襲われた強烈な感覚に、ああ、いま書きたい、と思った。33本目くらいに書いたはずだ。

 本にある順番は、書いた順番ではない。編集者である娘が読者目線、編集者目線で決めたものだ。

 だから「順番、考えてみたけど、どうかな」と、その順番が送られてきたときは驚いた。この章が一番目にきていたからだ。

「いきなり重すぎるかな、とも思ったんだけど、好きな言葉だし、この本のテイストを伝えてくれるかんじもして」と彼女は言った。私はほんとうに嬉しかった。

 この言葉は帯にも採用された。まんなかにね。

 今回の本も「これが絶筆になったとしても悔いのないものを」という気概で臨んだ。もちろん気概にすぎないから、悔いはないかと問われれば、「永遠に手を入れていたいです」といまは答える。けれど、締め切りというものがあるなかで、私生活もあるなかで、いまの私の精一杯がここにあります、とも言える。

 自分のことを書いた本だ。しかもテーマは「愛」。不安でいっぱいで、批判や非難を想像すれば眠れぬ夜が続く。

 けれど別のところで、この本を欲している人がどこかにきっといる、という小さな確信もあって、その人たちに届きますように、と心から願っている。

予約はこちらから(公開は7/11金曜日20時から)

 

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