ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎18本目 『愛されるために、ここにいる』

2026/03/02

【あらすじ】
50歳を迎え、仕事や人生に疲れてしまった初老の男 ジャン=クロード(パトリック・シェネ)。
タンゴのレッスンをきっかけに、フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)と偶然の再会を果たし、タンゴを通じて、次第に惹かれあっていくふたりだが…。




♥M
今までに何回か観ていて、改めて観たけれど、今回が一番感動した。

♣R
前回観た時は、タンゴを始めていましたか?

♥M
前回観た時はタンゴを始めてすぐか、始めようと思ったかくらいの時だと思う。
その頃、タンゴシーンがあるものをほとんど観ようと思って、タンゴ映画をずっと観ていたから。
前回観た時も、この映画には私の好きなタンゴの世界がよく描かれていると思った。
いまは自分が1年タンゴをやってきて、よりタンゴへの愛が深まっているし、曲も分かるようになってきていて、そしてあらためて本当に素晴らしい映画だったと思ったし、私の名作の一本に入れようと思った。
自分が名作だと思う『ピアノ・レッスン』や『めぐりあう時間たち』、『ハンナ・アーレント』とかと並ぶ一本に入れようって思うくらいにすごくよかったの。
やっぱりふたりがタンゴを踊るシーンが秀逸。
タンゴは「相性」がとてもたいせつでね。

♣R
前に路子さんが話していたことを映像で観た感じがしました。
路子さんが言っていた話、あれだ!というのがすごく分かりました。
違う人と踊っていてもあんな風にはならないのに、肌と肌で分かるみたいな。

■タンゴは「男と女の3分間のドラマ」


♣R
アンヌ・コンシニは昔からちょこちょこ映画で観ていて知っていましたが、見ると本当に普通の人。
でも踊っている時やちょっとした仕草、あとは目線とか横顔がすごく愛らしいし、光って見える人ですね。

♥M
あの映画はタンゴを踊っている時のふたりがいいというのもあるけれど、フランソワーズ役のアンヌ・コンシニの表情と、身体から滲み出るこの人と踊っていて本当に気持ちがいい、という表現が全てだと思う。
パトリック・シェネ演じるジャン=クロードって50歳っていう設定なの知ってる?

♣R
もう少し上だと思っていました。

♥M
私もそのことをブログ(「愛されるために、ここにいる」)に書いているのだけれど、アンヌは実年齢と役柄の年齢が相応。でもジャン=クロードは実年齢の方が上なのよ。私は今51歳だし、50歳と言われてしまうと、こんななのか…と感じがしちゃう。年齢をもうちょっと上に設定すればいいと思った。
見た目も50歳には見えないもの…。
彼は全然冴えない男だし、自分の小さい頃を知っている人だから、恋愛の対象外のはずなのに、そしてまだ上手に踊れないのに、すでに何かを感じている。

♣R
全然踊れないのに、そう感じてる。
色々な人が彼との踊りを嫌がる中、なぜか…。

♥M
そうそう。はじめからふたりは何かを感じている。
ラストの最高のタンゴシーンの時には、ふたりとも上達しているからというのもあるけれど、本当にふたりの気持ちとタンゴを通してのコミュニケーションがすごく描かれている。

タンゴは「男と女の3分間のドラマ」と言われていて、アクロバットみたいなことをする「ステージタンゴ」と、映画の中で出てきたみたいな、即興で派手な動きはなく踊る「サロンタンゴ」というのがあるの。
私はステージタンゴにはあまり興味がなくて、サロンタンゴの方が好き。

■タンゴの相性がいい人とは実人生も共にしたいのか


♥M
この作品を作った人は、そういう世界をすごく知ってる人だと思っていたんだけど、DVDの特典映像を観たら、監督の口から特に「タンゴ」という言葉が出てこなかったのよね。これを表すにはタンゴがいいと思ったっていうくらいにしか。
タンゴというものに何かを託しているのであれば、もっとそこで語ると思っていたからそこが腑に落ちない…。
アンヌのインタビューにもちょっと意外なことがあった。
アンヌ演じるフランソワーズは婚約者がいる身で、年上のおじさまとのタンゴに傾倒していくけれど、フランソワーズはジャン=クロードと踊るタンゴが好きなのであって、タンゴに夢中になっている中でタンゴの世界で相性のいい人がいて、それをすごく心地よいと思ってる。
でもそれはそれ、現実世界は現実世界だから、それが恋愛に発展することはないってアンヌ自身は思ってるみたいなの。そこが意外だった。
あのふたりのことはどう思った?

♣R
自分は、タンゴの中の世界だけで収まる感じではないと思いました。

♥M
そうだよね。この先彼らは、恋人として付き合っていくのかな…その先を考えるとすれば、結婚をやめてジャン=クロードと付き合うのかなくらい思ってた。
フランソワーズの母親が結婚式の席順を決めているシーンで泣き出すでしょう?
あの場面はよく分かる。自分のいるべき場所が違うということに気付いた瞬間の涙かなって。
他に想うものがあり、そちらの方が大切だと思ったからこその涙。
だからこのふたりは恋人になると思ったのだけれど、なんだか違うみたい。
演じるアンヌがそう言っているということは、監督もそう思っているということでしょう? だからちょっとがっかりしたの。

でもその後、タンゴの世界を自分で考えた時に、ああでもそれも分かるとも思った。
要するにタンゴが好きで、相性のいい人がいるけれど、その人と実人生を共にしたいかというと、それとこれとはまた別という感覚ね。その視線で見れば、理解できるようにも思う。

♣R
ジャン=クロードはフランソワーズに婚約者がいると分かり、自分が恋愛の対象にならないと分かった時にものすごく怒る。 その後に聞き耳を立てていた事務所のおばさんに…。

♥M
あのおばさんは、彼女はジャン=クロードのことを実人生で好きなのよって言ってるのよね?

♣R
そうそうそう。
そうじゃなきゃジャン=クロードも彼女の元に戻ったりしないような気がするんですよね。

♥M
そのあたりがもしかしたらフランス映画的で、実人生でもジャン=クロードを好きだけど、だからといって婚約者との結婚をやめるということではないのよ…という感じなのかな。それはそれ、これはこれ。
結婚相手のこともそれなりに愛しているし、ジャン=クロードのことも愛している。好きな人がふたりいる状況。だけど結婚をやめるという選択肢はなくて、ふたつを楽しもうということ。

♣R
そちら側は何となく分かりますが、ジャン=クロード側がいまいち。

♥M
それを理解したのかもしれない。

♣R
納得した上で?

♥M
納得というか、それでもいっかーみたいな。
自分のお父さんが亡くなったり、聞き耳のおばさんの言葉もあってか、人生は短い…ではないけれど、好きなように生きたり、自分に素直になるという感情が出てくる。
だからその時にジャン=クロードが感じたことは、いいじゃん別に! ということ。
彼女は自分のことを好きだし、自分も彼女のことが好き。彼女とタンゴを踊るのもいいから、いいじゃん、というところへいったのだと私は思う。

これは私がタンゴをやっていて思うのだけれど、タンゴはそういう風な思考回路に持って行く力がある。自分の欲望とかをもっと出して生きていこうとか、そんな風にさせる力があるような気がする。というのも、私はタンゴを始めて色々なものが開いていったから。
だからあれがタンゴだったから、ああいう風になったんだろうな、というのもちょっとある。
ああだこうだって、きちっきちっと決めなくてもいいと思ったんじゃないかな。

♣R
そう思ったからこそ、息子に自分と同じ人生を歩まないで欲しいと言って、事務所を辞めさせたりしたのかもしれないですね。

♥M
そうなのよ。タンゴ教室に戻った最後のシーンで、他を見ていたフランソワーズが彼の存在に気付いた時に、いつも仏頂面しているジャン=クロードが微笑んでいるの。
あの微笑みが私はすごく好き。その微笑みでフランソワーズを見ると、彼女も気付いてちょっと上目遣いでかわいい顔をするのよね。さすが映画。
その瞬間に周りの人々がぱんっと消えて、タンゴシーンになるけれど、あそこは本当に美しい。タンゴ映画を色々観てきたけれど、『ラスト・タンゴ』は別格として、タンゴが出てくる映画の中では一番好き。

■タンゴは「ふたりの世界」


♣R
肉欲的に描けばものすごく分かりやすいものを、そこをなるべく省いて描いていますよね。

♥M
一切出てこないね。

♣R
キスくらい。それであそこまでの情熱であったり、相手との相性を描いてる。
しかも分かりやすいですよね。路子さんから相性の話を聞いていたからそう思った部分もあります。聞いていなかったら何となくで観ていたかもしれない。

♥M
そこまで反応はしなかったかもしれないね。

♣R
初歩的な感想を述べるとすれば、タンゴってもっと激しく動くものだと思ってました。イメージだと、『アダムスファミリー』のお母さんとお父さんのタンゴシーンとか。

♥M
分からない(笑)。

♣R
その映画のタンゴシーンはたしか激しめだったので、そういうイメージがありました。
実はものすごくスローリーですね。

♥M
あれは特にタンゴの中でもあまり高度なステップもなく、ただ移動してるくらいの感じなんだけど、あれで私は十分。
ちょっとタンゴに対する認識が変わったでしょう?

♣R
だいぶ変わりましたね。

♥M
身体を左右に揺らしてるだけでも何か分かるような。

♣R
時間が止まるような感じなんですかね。
ただでさえスローなダンスなのに、その世界に入ると周りがスローに見えるくらい入り込んでいる感じ。

♥M
そうそう。本当にふたりの世界。周りはどうでもいい。
よっぽど苦手な人ではない限りは、相手に集中して1曲をどんな風にリードしてもらい、私はリードに合わせて自分なりの表現をして、どんな想いで踊るのかということに集中する感じ。
激しいタンゴのダンスでは味わえないようなものがある。
これからタンゴ映画を何本か観ていくと思うけれど、この映画が際立つと思う。
だってりきちゃんが女の人が好きだったら絶対に薦めてるもの。でも女の人と踊ってもつまらないでしょう?

♣R
そうですね(笑)。
でもゲイのタンゴスクールもあると思いますよ!



~今回の映画~
『愛されるために、ここにいる』
2005年 フランス
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:パトリック・シェネ/アンヌ・コンシニ/ジョルジュ・ウィルソン/
リオネル・アベランスキ

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