ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎72本目『ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリー』

2026/03/09

【あらすじ】
援助交際をするパリの女子大生たちへの取材をはじめた女性記者アン(ジュリエット・ビノシュ)。
自由に生きる彼女たちと接するうちに、自らの人生を見直し始める。
これまで何のために家庭生活に縛られてきたのか、夫の関係、息子との関係は……。
そしてなぜ自分の欲望をおさえつけて生きてきたのか。
いままで見なかったことを、いやでも見ることになった女性記者がどんなふうに目覚めてゆくのか、そしてこれから先はどうなるのか……。




♥M
原題は『ELLES』。
きっと雑誌名『ELLE』ともかけているよね。

♣R
そうですね。
意味合いは『彼女たち』みたいな感じですかね。
フランスの女性は、娼婦と出会うと何か感化される傾向があるんですかね。
娼婦に出会って人生が変わるみたいな映画、多いような気がします。

♥M
例えばどんな作品がある?

♣R
カトリーヌ・フロ主演の『女はみんな生きている』とか。
子どもとも旦那とも上手くいっていない主婦が、出会った娼婦を助けることで、人生が開けていくという話でしたね。

♥M
あれはいい映画だった!
社会の枠組みにきっちりはまっている人と娼婦の話という組み合わせね。
娼婦の人は、社会の枠組みからは外れているという意識があるだろうから、だからかな。
包容力や寛容さがある人が多くて、枠組みにはまっている人は、そういうところに感化されるのかも。酔っ払って醜態を晒しても許されるし、何を言っても軽蔑されない、みたいなね。

あとは、娼婦は性を売り物にしているから、そこに対してはとてもオープン。
でも、枠組みにはまっている人は性に対してオープンではない人が多いから、すごく惹かれるのだと思う。

♣R
だからなのか、ローラたち娼婦にインタビューしている時のアンは表情が豊かですよね。
笑顔も多い。

♥M
そうそうそう。
友達になれるかは別として、少なくとも取材している間は彼女たちのことが大好きだったと思う。
どの作品とは言えないけれど、映画に出てくる娼婦の人は、表面上は乱暴な口を叩いたりはするけれど、優しい人が多い気がする…人情。

♣R
『吉原炎上』とか『赤線地帯』とかですね。

♥M
あぁ…そっち系行くと分からない(笑)。

■スッピンとメイクアップ


♥M
他の作品を観ても思うけれど、ビノシュは本当にスッピンとメイクアップの変化が素晴らしい。
化粧映えする顔なのだろうね。ドレスアップした時は本当に美しい。
スッピンで演技をしている時も多いよね。

♣R
その変化があるからこそ、説得力が出ますよね。

♥M
ドヌーヴは素顔をあまり見せないよね。
ドヌーヴの映画をずっと観てきた後で、ビノシュの映画を観ると、ビノシュはスッピンでの出演が多いと思った。ドヌーヴはないもの。

♣R
ドヌーヴは、していないようなナチュラルメイクですもんね。

♥M
ナチュラルメイク…最大限減らして『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でしょう?

♣R
その時はスッピンだと言っていましたね。

♥M
ドヌーヴの演技も好きだけれど…。

♣R
次元が違いますよね。

♥M
次元と言っていいの?(笑)。

♣R
ドヌーヴは全体的に「THE ドヌーヴ」だけれども、ビノシュは役柄でコロコロと表情を変えますよね。作品ごとに自分の役を作り込んでいる感じがします。

■物悲しさ


♣R
ELLEの雑誌記者である主人公のアンが、娼婦をしている女子大生ふたりにインタビューをしていましたが、自分の好きな人が身体を売っていた話を聞いたことがあるので、その話と重なってしまい、なんだか複雑な気分でした。

インタビュー相手の女の子たちは、決して悲観的ではなかったですね。
大変だけれども、短時間で大金を稼げるし、時間も手に入るというのは彼(好きな人)からも聞いていたのですが…。
言っていることは分かるんだけどさっ! うーん…みたいな。

♥M
そういう映画かい(笑)。
彼から話を聞いている感じ?

♣R
と、いうよりは、彼と同じことを言っているとか、彼はこう思っていたのかなとかですね。
アンは、彼女たちにインタビューすることで、自分の殻を破り、解放されていく感じがしましたが、自分はアンのように自分を解放することは出来なかったと思います。

♥M
私は、娼婦の女の子たちに物悲しさを感じた。
家が裕福で、親がどんどん支援してくれるような家だったら、そういう仕事はしていないし、きっと貧しかったから始めたのだと思う。
でも、ここでいう貧しさは、社会の底辺的な意味ではなく、自分が理想とする生活水準に現実が達していないという意味。
アンが娼婦のローラに「あなたみたいな人とはちがう」と言われるシーンがあったけれど、ハイソサエティのあなたには分からないでしょう? という意味だよね。

もうひとつ、ローラが「団地のにおいが消えない」という言い方をしていた、あのシーンが自分の中で残っている。
彼女の人間性や知性、感受性といったものと、育ってきた環境が、あまりにも違いすぎる、ということ。安っぽい家具、中身のない会話、テレビを観ながらの食事、ああいうのがすごく嫌なんだろうな…それはよくわかる気がする。住む世界が違うという感覚。
だから自分は違う世界を生きたいということで、娼婦の仕事をし始めるの。

彼女は娼婦の仕事を楽しんでいると思う?
ワインのボトルを突っ込まれてしまった時は泣いていたけれど、それ以外の時はそんなに悪い思いはしていないと思う?

♣R
プライベートとは違い、「仕事ではリードできる」し、「イヤなことは断れる」と、言っていましたよね。

♥M
うーん…でも娼婦のふたりには、決定的な尊厳みたいなものがない感じ…そうでもないのかなぁ…自分はいわゆる社会のメインストリートからは外れているという、開き直りとも諦めともなんともいえない感覚がつねに漂っていたような気がする。

私も人生の暗黒シーズン、あの最悪の時期、メインストリートから外れたと感じていた。
勝ち組、負け組というものがあるとしたら、完全に負け組なんだと思っていたの。
そういう時のまなざしや口ぶりは、いつだって自分を卑下している感じがあるものなのだけれど、実感として、そういうものをふたりの娼婦に感じたの。
あのふたりは、どれくらいまで娼婦を続けるのかな。

♣R
やめ時みたいなものがわからないですよね。
他の仕事に就いたとしても、戻ってしまったりすることもあると思いますか?

♥M
あると思う。
だって、ひと月のお給料が、何回分かで稼げてしまうからね。
「タバコと同じで断ち切るのは難しい」とか、「悪習を断ち切るのは困難だ」という表現をしていたけれど、短時間で大金を稼げることを知ってしまうと、やめられなくなるし、きっと、安い時給の仕事に戻れなくなるよね。

■毎日訪れる「とりあえずの朝」


♥M
アンはインタビューをすることで、自分も娼婦の女性寄りになっていくよね。
お酒は飲まないと言っていたのに、がぁーって飲んだり、スパゲッティを口から吐き出しながら大笑いしたり。若い娼婦という取材対象にのめり込んで、同化して、自分も若く自由になった感覚になっている。

♣R
ビノシュ特有の品のないガッハッハ笑いですね。

♥M
そうそう。
彼女は元々、息子にも見抜かれるくらい、自由に生きていない人物。
招待客のために料理をしたり、洗濯や買い物をしたり、指切ったーって慌てたり…私もそうだったから、この忙しさや苛立ちがすごく分かる。
一流雑誌の『ELLE』のライターとして活躍はしているけれど、夫とはセックスレスで、ポルノサイトを観ている夫を責めたりする女性ね。

♣R
でも、ドレスアップをしたアンを見て、夫は欲情しましたね。

♥M
そう。でもそのときはなにもしない。
それからアンが急に外に飛び出すという突飛な行動をとって、戻ってきた時に夫を襲うけれど、拒絶されてしまう。そして翌日、何事もなかったかのように平穏な朝が訪れる。そんな様子がとてもリアル。

アンは自由ではないし、自分の中で満たされないものがある。
夫からは興味を持たれていないし、息子からはほとんど軽蔑されている状態。
その中で「とりあえずの朝」が毎日訪れている。
代償行為というか…取材をすることで、自分の中で何かが発散されるのかな?
アンはこれからどう生きていくのかな。彼女はこの先どうなるのかな。
夫との関係が修復されるとは思えない。
お互いに愛人をもちながら結婚生活を続けるか、離婚するかかもしれないね。
それか、娼婦の女の子たちに刺激された欲望や感情にぴたって蓋をして、封印してしまうか。

♣R
とりあえず記事を書き終えたら?

♥M
うん。それぞれの人物の「その後」が気になるね。

■  嘘の最悪なところは、孤独を作り出すこと


♥M
アンが娼婦のひとりローラに「一番つらいことは?」と、聞いた時、「いつもウソをつくこと」だと答えていたけれど、例えば、娼婦ではなくても、付き合っている人がたくさんいたら、それだけウソをつかなければいけない。
ローラには彼氏もいるけれど、自分が抱えている苦しみを、一番話したい人、一番頼りたい人に話せないでいる。

♣R
辻褄を合わせるために、私生活の全てのことにウソをつかなくてはいけないですからね。
一番印象的なシーンでした。
自分をさらけ出すことができないということは、結構辛いことですよね。

♥M
そうよ。本当のことが言えないからね。

♣R
ゲイの人でも、カミングアウトが出来ない人は、周りにウソをついていかなくてはならないという辛さがある、という話を聞いたことがあります。

♥M
ローラは娼婦という仕事を隠すために、ウエイトレスやベビーシッターの仕事もたまにやると言っていたね。

♣R
そういうことを考えると、色々と苦しくなってきますよね。

♥M
アナイス・ニンがこんなことを書いていたの。

「嘘の最悪なところは、孤独を作り出すこと」

♥M
嘘をつけばつくほど、孤独になっていく。

♣R
私が好きな人も、隠したり、ウソをついたりするのが辛いと言っていました

♥M
りきちゃんは、今回は映画の世界とは違うところに頭がいっているね(笑)。

♣R
内容が内容なだけに、ダブってしまいますからね!(笑)。

♥M
彼は長いことやっていた訳ではないでしょう?

♣R
本当に困った時にやっていたとは言っていましたが、どこまで本当かは分からないですね。
友達や親に知られたらどうしよう、というのはずっと気にしていました。

♥M
でも、だからこそ余計に、彼女たちの話を聞いた時に、悪く思えなかったでしょう?
私は全然悪いとは思えなかった。どちらかというと、憐れみみたいなものを感じた。
近くにいたら、なんとかしてあげたいと思った。

♣R
今までは、身体を売ることに対して、強く否定を抱いたことはありませんでした。
そういう仕事もあるよね、くらいにしか思っていなかったです。
でも、実際、自分の好きな人が身体を売っているとなると、こんなにも簡単に否定の気持ちが生まれるんだと思いました。
いくら話を聞いても、いくらこういう映画を観たとしても、全然受け入れられない。

♥M
何のために芸術にふれているんだ君は、というとこだよね(笑)。

♣R
今までいっぱい映画でも観てきた世界なのに。

♥M
寛容なことを言ったりね。

♣R
そうですよ。私はなんでも受け入れますみたいな感じだったのに!
実際に自分の人生に入り込んでくると、ダメですね。
今まで受け入れてたのは、疑似体験的なもので、映画の登場人物が代わりにやってくれた安心感みたいなものがあったのかもしれません。

♥M
好きな人がやっていたら、私もきっとそう思う。
あたりまえじゃないの。

♣R
でも、彼女たちはアンに話したことで、気が楽になったと思います。
ひとりでも本当のことを話せるような人がいるのは大きいですよね。

♥M
結構スッキリしたと思う。



~今回の映画~
『ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリー』
2011年 フランス/ドイツ/ポーランド
監督:マウゴジャタ・シュモフスカ
出演:ジュリエット・ビノシュ/ヨアンナ・クーリグ/アナイス・ドゥムースティエ/
ルイ=ド・ドゥ・ランクザン/クリスティナ・ヤンダ/アンジェイ・ヒラ

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間