◎9本目 『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
2026/01/07
【あらすじ】
事故で怪我をしてしまい、リハビリ中の弁護士 トニー(エマニュエル・ベルコ)は、夫だったジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)との関係に想いを馳せる。彼は自分にとってどんな存在だったのか、ふたりの間にあった愛はどんな形をしていたのか。運命的な出会いから結婚、そして妊娠……。過去を振り返るなかで見えてきたものとは。

♥M
タイトルの『MON ROI(モン・ロワ)』の意味はなーに?
♣R
『私の王』ですって。
♥M
王様!
ああ、なるほどね…分かるわかる。
♣R
でも、『私の王』みたいな変な邦題じゃなくてよかったですね。
♥M
そのタイトルでは観に行かないわ(笑)。
♣R
全然惹かれないですよね(笑)。
ちゃんと原題を使ったタイトルだったのはよかった。
♥M
多分、つけようがなかったのだと思う。
♣R
でも日本なら 『私のなんとかの男』みたいなタイトルをつけそうですよね。
■『MON ROI(モン・ロワ)』が表すもの
♥M
この作品について、パンフレットにはこう書いてある。
「愛につけられた傷は、やがて輝く生きた証に変わる
―すべての女性の胸を焦がす10年間の物語。」
♣R
ちょっと違いますよね。
♥M
全然違う…ちょっとじゃない、まるっきり違う。
♣R
今も続いているし、いったりきたりしている。
同じことを繰り返すふたりでしたよね。
♥M ♣R
永遠に!
♣R
別れた時は嫌だと思っていても、振り返るとそこがよかったんだよな、と思ったりしてしまうのは分かります。
本当に相手が嫌な時は、笑い話も全然笑えないし、キスもしたくなくなる。
自分と同じだと思って、すごく共感できました。
♥M
ひたすら共感たっぷりな感じだった?
♣R
そうですね…何となく分かるなって感じでした。
でも、同じ立場だったとして、昔の自分だったら関係を続けていたかもしれないけれど、今だったら簡単に断ち切れるかな、という部分はあります。
だからトニーのようにはならない…かな…どうだろう(笑)。
トニーが、暴力だけが痛みじゃないみたいに言っているシーンがありましたね。
♥M
最後の方の弁護士事務所でのシーンね。
♣R
もうだって、ジョルジオの態度はDVじゃないですか。
精神的にも痛みを与えつつ、コロコロコロコロ態度が変わる感じ。
飴と鞭じゃないですけど。
♥M
支配者よね。
♥M ♣R
王だから!
♣R
自分たちの息子の面談をする最後の場面でも。
♥M
ジョルジオを映す舐めるようなカメラワークは…。
♣R
トニーがジョルジオを見るまなざしが、出会った頃のまなざしと全く同じということを表しているんですよね。
永遠にループですよ、何年経っても。
♥M
今更そういう映画を撮る理由というのは、監督の中にすごくそういうのに対する想いがあるということよね。
♣R
男目線ではなかったですね。
♥M
本当にふたりの関係は典型的でしょう?
りきちゃんが言ったように、飴と鞭で、言うことをコロコロ変える。
DVを旦那さんから受けているのに、中々離れられない奥さんの典型。
何かした後は必ず「許してくれ、君がいないと生きていけないんだ」と、言ってきて、また戻るみたいな。
それをあれだけ永遠と見せつけられて、私はもう、おえーって感じだった(笑)。
♣R
(笑)。
♥M
自分にもない訳ではないけれど、ふたりはすごくクレイジーでしょう?
男と男もそうだと思うけれど、恋愛や男女の関係は映し合いなんだなと思った。
トニーのクレイジーさ、やたら馬鹿笑いするところ、すぐにはじけちゃう、キレやすい、感情の起伏が激しい…そういう部分がジョルジオにピタッと合っているから、本当にどっちの責任という訳ではなくて、この人とこの人だからという。
♣R
このふたりは合ってるっちゃ合ってるんですよね。
♥M
そうなのよ…だからやっぱり組み合わせ。
ジョルジオも、きっと他の女の人とはこういう風にはならないし、トニーも他の男の人だとこういう風にはならないと思う。
男と女には組み合わせがあると思っているから、それが本当によく出てる。
♣R
「愛してるからこそ会わない」と、いう台詞がありましたが、そういう意味ではすごくよく分かりました。会ったらお互い爆発しちゃいますもんね。
♥M
きっとそう!
■もう嫌なんです
♥M
結婚式のシーン、全然フレッシュじゃなかったね。
♣R
一度結婚してると言っていましたよね?
だから結婚式のシーンでフレッシュさを感じなかったのかもしれませんね。
♥M
なるほど…トニーって弁護士よね? でもそんなふうに見えない。
♣R
でも弁護士なんですよね。
♥M
うん、途中で何気なくそれが明かされたから、驚いちゃった。
どこかのウェイトレスのようだったのに。
社会的に立場のある人には見えなかったし、描き方に無理があると思った。
♣R
お堅い職業に就いてるから…。
♥M
ああいうのに惹かれる、というのを出したかったのは分かるけれど、だったらもう少しそういう職業の人らしくしないと。
♣R
普段の生活からは全く感じられなかったですね。
♥M
そうなの…叫ぶシーンや怒鳴り合うシーンが多かったでしょう?
そういうの、私自身がやってきたことだから分かるけれど、だからこそ、そういうのは嫌だと思っているのに、抜け出したい世界をもう一度見せつけられている気がして、ごめんなさい、という感じ。
もう分かりましたから、見せないでください…私もあんな風なことをずっとしてきたけれど、もう嫌なんです…という感じ。
本当にもうドロドロの醜いもの、内臓を見てしまった、という感じよ。
♣R
そういうのを繰り返させないための映画なんですかね?
♥M
実は教訓映画ということ??
♣R
監督自身がこうだったからとか?
♥M
実は学校が薦める映画みたいにね(笑)。
■エマニュエル・ベルコの評価
♥M
エマニュエル・ベルコはどうだった?
結構好きじゃない? いわゆる美人ではないし(笑)。
♣R
好みとはちょっと違いますね…あまりきれいではないけれど、私が好きな感じではないです(笑)。
干からびさが足りない…そうだ、干からびが足りない!
♥M
干からびさ「も」足りない。
なぜエマニュエル・ベルコを使ったのかしらね?
ちょっと苦しいと思ってしまった。
ーフランス映画祭2016でのマイウェン監督の記事によるとエマニュエル・ベルコの出演理由として「美しく若い女性とばかりつきあっていたジョルジオの人生における変化を描くため、目を見張るような美人ではない人がよかった」とありましたー
♣R
フランス映画界では、エマニュエル・ベルコの名前をちょいちょい聞きますよね。
監督業もやっていますよね。
カトリーヌ・ドヌーヴが出演している『太陽のめざめ』の監督みたいです。
『太陽のめざめ』で2015年のカンヌ映画祭のオープニングを、女性監督としては史上2度目、28年ぶりに飾るという快挙を成し遂げる、とパンフレットにはあります。
マイウェン監督の妹があのミイラ女なんですって。
オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』に出演…全然覚えてないです。
♥M
すごく才能のある人なのね。
♣R
フランスではエマニュエル・ベルコの評価はどういうものなんですかね。
♥M
日本と違って業績や知性で評価するし、監督もしていて、体当たり的な演技もできるから、高く評価されているような感じはするね。
♣R
昔、彼女が監督で主演もしている『なぜ彼女は愛しすぎたのか』という作品を観たいと思ったことがあるんですよね。
未成年の男の子を愛してしまうみたいな話だったかな…。
♥M
私の本のタイトルみたい(笑)。
そんな作品があったの?
♣R
フランス映画祭で上映されていました。
一般公開もされたみたいなのですが、見逃してしまって、DVD化もされていないんです。
それをずっと観たいと思っていて、何回か調べたりしてるんですよね。
♥M
それは何で観たいと思ったの?
何がきっかけだったの?
♣R
未成年と熟女の関係みたいなのが気になって。
検索しても情報も出てこなくて。
♥M
じゃあ話題にもならなかったのかな。
主演した映画と、自分が監督した映画は違うだろうから、今回の映画のテイストが似てるんじゃない? とは言えないけれど…。
♣R
その映画の写真を見る限りでは、どう見ても普通のおばさんでした。
♥M
だってエマニュエル・ベルコは普通の人だもの!
もう本当に普通!
■厄介な感情
♣R
ヴァンサン・カッセルはどうでしたか?
♥M
私は昔からヴァンサン・カッセルが好みではないの。
今回も好きではなかったけれど、ああいう男っているよね、というのをすごく演じられていたと思う。
♣R
変な男とか、わぁーっと喋る男とか、こういった役柄を演じるのが上手いですよね。
それが素なのかもしれないけれど、すごく上手い。
野獣さとか、みなぎっている感じとか。
♥M
りきちゃんは、ヴァンサン・カッセルは好き?
♣R
まあ、普通ですかね…。
♥M
でもタイプ的には好きでしょう?
♣R
嫌いではないと思います。
鼻の形とかも好きだし。
♥M
ヴァンサン・カッセルは私と同じ歳だわ…1966年生まれ。
こんなふたりみたいな親の元に生まれたくないな。
♣R
ところどころで、ジョルジオが涙を流しますよね?
あれは本当の感情だと思いますか?
♥M
うん、本当の感情だと思う。
彼自身も全然バランスが取れていないから、その時々に今度こそ立ち直ろう、今度こそ頑張ろうと思ったり、子どもに対して感動したりするのも全部本当なの…だからこそ厄介。
それを嘘という風にコントロール出来るようなものを持っていれば、こういう風にはならない。だからトニーも離れられないんだと思う。
♣R
その場の感情に従って生きているということですよね?
♥M
そうそう。
だから厄介なのだけれど、ある意味正直。
パンフレットでは『ベティ・ブルー』と『ポンヌフの恋人』と比べてるけど、それは違うと思う。
♣R
私はどちらも観ていないのですが、『ベティ・ブルー』って、すきっ歯の人が出演している作品ですよね?
ベアトリス…。
♥M
ベアトリス・ダル。ぜひ観て。
『ベティ・ブルー』は狂気の愛のおはなし。
でも、もし、今『ベティ・ブルー』を観たら、おえって思うかもしれない。
♣R
本でも映画でも、自分自身のシーズンによって、受け入れ方が変わることってありますよね。
♥M
あるある、絶対にある!
♣R
昔は苦手だったけれど、時が経ったらすごくよくなったとか。
その逆もありますね。
♥M
あの時は分からなかったけれど、今なら分かる、というのもあるし。
特にこういう恋愛のドロドロは、今はもう分りすぎるからもういいです、という感じ。
■癒しのルイ・ガレル
♥M
そのような中で、ルイ・ガレルが救われる存在としていてくれている。
この映画のルイ・ガレル最高にいいわよね。
♣R
子どもをあやしてるところもよかったですね。
♥M
ねっ、かわいい!
私も分かった。この人、今回、本当に素晴らしいと思った。
醜い川の流れの中に、ぽっと咲いている小さな草みたいな存在。
ルイ・ガレルがいなければ、この映画は耐えられないものになっていたと思う。
♣R
ずっと安らぎのないシーンばかりでしたからね。
♥M
そうなの。
ルイ・ガレルが、本当に平凡でお姉ちゃんを心配する普通の男の子の役として出演しているけれど、それが普段の役柄とのギャップもあって、とてもよかったの。抑えた感じの役柄だった。
♣R
ミイラの子と付き合っているんですよね。
(映画中にそういう風に言ってるシーンがあるのです。ちなみに、イジルド・ル・ベスコという方。)
♥M ♣R
ははは(笑)。
♥M
ルイ・ガレルは本当にかわいいわね。
♣R
実は私生活ではああいう感じなのかなって思ってしまいますよね。
♥M
そう思っちゃう…この映画でさらにファンが増えたと思う。
♣R
彼ったら子煩悩なのねって。
♥M
そうそう。
あと、素朴な3枚目っぽいところがあったりね。
今日はルイ・ガレルを思い出しながら寝よう。
本当にルイ・ガレルよかった。
♣R
路子さん、どんどんルイ・ガレルにはまっていきますねぇ
♥M
この映画の彼は本当にいいなーって思ったの。
♣R
この間もそう言っていましたよ(笑)。
♥M
『愛のあしあと』のルイ・ガレルもよかったからね。
好きかも、胸がきゅんってしたもの。
♣R
最近色々なルイ・ガレルを観ていますよね。
♥M
ルイ・ガレルばっかり。
気付けば出演してる。
♣R
そうそう。今回は本当に出演をすっかり忘れていました。
♥M
りきちゃん、ルイ・ガレルが出演するって騒いでなかったものね(笑)。
♣R
たしかに(笑)。
でも日本でそんなに人気が出る感じではないですよね。
日本でこんなに騒いでるのは自分たちくらいだと思います。
♥M
えー? そうかな?
私はりきちゃんの影響よ(笑)。
■繰り返すふたり
♥M
子どもが欲しいと思うのも嘘ではなく、好きだからあなたの全てが欲しい、だからふたりの子どもが欲しい、という気持ちは分かる。全然嘘がないのよね。
あなたの全部が欲しいとか、どんなに食べても食べ尽くした感じがしないとか、そういう言葉を相手に投げかけたときね、それを喜んで受け止めてくれる人と、怖いよって引く人、二種類のタイプがあるでしょう?
そういう意味では、このふたりは本当に一致しているのよね。
♣R
まさに今、そういう人が欲しいですよ!
トニーが平穏を求めている、というのもすごく分かります。
その流れは、自分と似ている部分があるなって思いました。
トニーと同じようなことをしましたもん。
♥M
このふたりの新しい恋人はきっと悲惨よね。
トニーは落ち着いた関係を築ける相手と一緒にいて、その人は息子とも仲良しなんでしょう? でも絶対その相手は「モン・ロワ」にはなれない。
♣R
絶対になれないですよ。
だからこそ、また再びジョルジオに逢った時に惹かれてしまうんですよね。
♥M
そうなの…あーあって感じだったものね、最後。
ダメなのよね。
♣R
昔、ジョルジオから貰った時計をつけているし。
♥M
その時計を見て、ジョルジオはにやりとするのよね。
王様は支配者だから。
♣R
シメシメみたいな感じですよね。
■ぶつかり合える相手
♥M
トニーが離婚したいと話す場面で、息子の親権を取られるぞ!って脅されて、車を降りて雨の中で叫ぶシーンがあったでしょう?
あれは痛くて見てられなかった。
自分の中から全部出すぐらいの叫び…ああいうどうにもならない気持ちは、叫ぶしかない。
叫ぶことでしかその場を解消出来ないというのは、そうなのよね、と、思うのだけれど、本当に見たくないものを一つひとつ取り出して、はいっ、次はこれ、はいっ、次はこれと、見せられてる、そういう映画でした。
本当にごめんなさい、二度としませんから許して下さいみたいな、そういう拷問のような2時間でした(笑)。
♣R
(笑)。
私は意外と嫌いじゃないかもしれないです。
そこまで感情を露わにして、お互い言い合うみたいな人はなかなかいないですよね。
出会ったとしても、ちょっと自分をよく見せようとか、自分が我慢したりする部分があるし、ここまで出して、というのはそうそうないですよね。
これぐらいになれるような人に出会いたいですよ。
♥M
相手も自分と似たものをもっていないと無理よね、感情出したら引かれておしまい、ってなっちゃう。
ああいう風に感情を出し合い、ぶつかり合って、そのことに互いに喜びを感じて、そこに何かの証を見出すカップルというのは、そういないように思う。
私もりきちゃんも、そういうものを持っているタイプだから、そういうのを持ってる人に出会いたいんだけど、そういう人はなかなかいなくて、だから出会いたいと思うのは私もよく分かる。
同じエネルギーで、自分にぶつかって来てくれる人はなかなかいないから、そういう人は貴重。
とはいえ、夢中になったり、エネルギーをぶつけ合ったりするのはいいのだけれど、罵り合いは少ない方がいいなぁ(笑)。
♣R
次回以降はそういう人にしましょう(笑)。

~今回の映画~
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
2015年 フランス
監督:マイウェン
出演:エマニュエル・ベルコ/ヴァンサン・カッセル/ルイ・ガレル/イジルド・ル・ベスコ







