ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎11本目 『メットガラ ドレスをまとった美術館』

2025/11/09

【あらすじ】
ニューヨークのメトロポリタン美術館の服飾部門の活動資金を調達するために毎年5月に開催される「メットガラ」。
主催者は「VOGUE」の編集長 アナ・ウィンター。
「メットガラ」の舞台裏やアナ・ウィンターの仕事ぶりが観られるドキュメンタリー映画。

 

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[word_balloon id="1" position="L" size="S" balloon="bump" name_position="hide" radius="true" avatar_border="false" avatar_shadow="false" balloon_shadow="true" font_color="#ffffff" bg_color="#000000" border_color="#000000"]りきマルソー:♣R[/word_balloon]
♣R
ファッションに興味がない私がファッション映画について語りますよー。

♥M
珍しく観に行きたいと言っていたでしょう?
どうして?

♣R
フランス映画が好きになった頃、「エル・ジャポン」や「フィガロ・ジャポン」を買って情報を集めていたのですが…。

♥M
「エル・ジャポン」も「フィガロ・ジャポン」も、映画の情報が豊富だものね。

♣R
そうなんです。
どちらもファッション雑誌なので、デザイナーのファッション写真とか、パリコレの写真が載ってますよね。
どれを見ても、えっ? これ誰が着るの? すごく奇抜!っていうのが多くて驚いたんです。

♥M
実際に街では着られないようなのが多いよね。

♣R
そうなんです。
そういうデザインのものに実は興味があって、奇抜なものであればある程、食い付いていたし、切り抜きを集めていたり、それでコラージュを作ったりしていたんです。
全然ファッションには詳しくないし、興味はないけれど…。

♥M
きっと興味はあるのよ。

♣R
そうか…興味を持っているんですね。
その世界に入り込むこともしないと思うけれど。

♥M
興味はあるけれど、勉強していないから詳しくないだけよ。

冒頭でマックイーンが出ていたけれど、死んだ背景とか、また調べたくなっちゃった。

♣R
こういう始まり方だとは思わなかったですよね。

♥M
私もマックイーンのドレスとワンピースを持ってる。

♣R
まさに私の好きな感じです。

♥M
クレイジーな感じの洋服。
もうあそこまでいくと服じゃないね(笑)。

♣R
私の好きなアイスランドの歌手ビョークは、元々奇抜な衣装を着てライブをすることが多いのですが、最近はウニみたいなヘッドピースをかぶっているんです。
少しマックイーンに近い世界があるかも。

映画のラストでも語られていましたが、この作品はメットガラの映画ではなくて、裏方側の映画。逆にそこがとてもいいと思いました。
私自身、学芸員の資格を持っているので、そういう目線でも観ることが出来たし、あれがずっとファッション映画として進んでいって、アナ・ウィンターの話ばかりだったら、そこまで興味を持たなかったかもしれないです。

♥M
メットガラは美術館でやっているものね。
上の立場の人との交渉とかね。

♣R
アレキサンダー・マックイーンの展覧会を昔開催したことで、美術館が服飾に興味を持ち始めたと、映画では語られていましたが、あれは服飾に興味を持ち始めたというよりは、動員数も多かったみたいだし、金銭的な動きに興味があったんじゃないかと感じました。
服は着るものだし、見た目でわかりやすいというのもあるから、興味も持ちやすいし、人を集めやすいのだと思います。
マックイーンの服も、作品中に出てきた中国をイメージした服も、地味ではなく割と派手なものが多かったから、目に入りやすい。
だから人からの注目も多いと思うし、その分お金を得られる。
それは美術館としても大きな収入になりますよね。
だから美術館としては、アートとして服飾を観る面以外でも興味を持ったと言えるのかもしれませんね。

 

■ウォン・カーウァイのアーティスト的感覚


♥M

美味しい展覧会…でも、服飾はアートかどうかという議論は、永遠に続くと思う。
ナンセンスといえばナンセンス。
ウォン・カーウァイが出てきていたけど、ウォン・カーウァイの映画は観てる?

♣R
そんなには観ていないと思います。

♥M
りきちゃん、結構好きだと思う。
『ブエノスアイレス』もウォン・カーウァイの作品よね?

♣R
『ブエノスアイレス』は観ました。

♥M
彼の映画が好き。美しいの。
映画の中ではチャイナドレスの『花様年華』が出てきてたけど、ほんとうに美しい。
私はウォン・カーウァイの才能を信頼しているから、彼がメットガラで扱っていた展覧会の芸術監督をやっている、ってのを知って、今回観たいと思ったの。

そういえば、学芸員のアンドリュー、好きでしょう?
私、りきちゃん好みだと思ったよ。
ギャスパー・ウリエルが演じたイヴ・サンローランに似てた。

♣R
たしかにちょっと似てたかも。

♥M
彼は多分ゲイでしょう?

♣R
彼のパートナーという人が意味深に出てきていましたもんね。
愛してるって言ってた人かな。

♥M
「あとで2時にね」とか言ってた相手とかね。
私は好みではないのだけれど、線が細いし、りきちゃんの好みだろうなって。

学芸員のアンドリューとウォン・カーウァイの根本的な違いが浮き出てたね。
アーティストとそうじゃない人。どっちが上下ではなく、人間の種類が違うということ。
やっぱりキュレーターはキュレーター。
私はウォン・カーウァイのアーティスト的感覚が好き。

北京の車の中で、毛沢東時代の制服と歴史的衣装を一緒に飾りたいと話していた時に、ウォン・カーウァイが反対していたでしょう?
私も悪趣味だなと思いながら聞いていたのだけれど、その時にウォン・カーウァイが、「多くを見せすぎるのはよくない。何も見せないのと同じだ。」と、割と静かに、でもきっぱりと言い切っていて、かっこいいと思ったの。

♣R
あの展覧会の詰め込み具合はすごかったですよね。
典型的な学芸員だと思ったのは、中国側の担当者。
お堅さというか、安全なところを選んでいる感じがしました。

♥M
批判が怖いと言っていた人でしょう?

♣R
でも、最近の美術館は社会に対して問題提起を投げ掛けるのが重要視されている傾向だと思うので、そういう意味ではアンドリューの意見には賛成ですね。

♥M
いくらくらいかかってるんだろう。
バラの花も25万本使ったって言っていたし。

♣R
日本とはやる事なす事、規模が全然違いますよね。

♥M
もっと見せて欲しいところはあったけれど、中国とのやり取りとか色々と限界なんだろうな。

♣R
作品内でも言っていましたが、政治的に…。

♥M
うん。全部政治的に解釈される。

♣R
その部分で分かり合えることはなかなかないでしょうね。

♥M
無理でしょうね…でも結局、中国部門の人が心配していたように、誰も中国の美術作品を観ない展覧会になったと思わない?

♣R
衣装と一緒にちりばめられてはいたんですよね?

♥M
多分背景になってしまったのよね。

♣R
たしかにそうですね。

♥M
まあ、それで儲かったんだからいいだろ? ってことかしらね。

♣R
トントンみたいな感じですかね。

♥M
(パンフレットの秦早穂子さんの寄稿文を見ながら…)秦早穂子さんがパンフレットの中で、パリに行った時のことを書いてる。
1950年末、当時のフランスは映画やデザイナーの仕事が水商売みたいに扱われていて、パリでは階級社会があって、日本にも同じようにあったみたい。けど、ニューヨークにはこういう仕事に対する差別意識が少ない。
なぜニューヨークのメットガラは可能なのかというのに繋がるね。
しかもメトロポリタン美術館は私立で、収益を上げられる企画が必要なんだって。

♣R
だからなんですね、納得。
お金を手に入れないと、運営自体が出来なくなりますからね。

♥M
ウォン・カーウァイとのやり合いのことは、秦さんも言ってる!
そうそう、やんわり断固反対しているのよね。

♣R
入口の龍の置物といい、むしろ、その組み合わせをよくぞ思いついたなって感じですよね。

♥M
たしかに。
やっぱり秦さんの文章はすごい!!(秦早穂子の大ファンなのです)

♣R
何でパンフレットの外側をきれいな赤で作ったのに、中をこんなにポップに作ったんだろう。

♥M
りきちゃんはパンフレットにうるさいですよー。
広告が入っているだけで怒りますからね。これは入ってませんね(笑)。
たしかに表紙に合わせて中も作って欲しかったね。

 

■各国が想像するイメージ


♣R

竹の展示はやり過ぎでしたよね。
中の展示が何も見えない。

♥M
竹も花の陶器みたいなのもやり過ぎ。
あれは生花でしょう?
長持ちするのかという余計な心配をしてしまう。

♣R
誰かファッションデザイナーも言っていましたが、実際の中国というよりは、こういうイメージだろう、と作られた中国みたいな感じでしたね。

♥M
ゴルチエが言ってたね。

♣R
それぞれの部屋のコンセプトが、微妙に日本みたいに見えるものが混ざっていたり。
だから間隔的には中国というよりは、アジアという大きな括りなんですよね。

♥M
そうそう。
でも服飾の展示をやるとしても、みんなそのイメージで来ているから、そうするしかないのよね。

♣R
日本人が、アメリカ人はこういう風だと思っているのと同じですよね。
しかたないのかな…忠実に再現したところで、イメージと違うと言われそうだし。

♥M
中国の人との会話の中で、どうして過去の物ばかりで今現在のものはないんだ、と、メットガラの幹部か何かの中国の人が言っていたけれど、そこにもウォン・カーウァイが的確なフォローをしていたね。結局…。

♣R
「現在がないから」と、言ってましたよね。

♥M
そうそう。それを言うにもアナ・ウィンターみたいにではなく、「過去を研究することによってその先があるから」と、いう言い方をしているところで、この人はバランス感覚もあるんだと思った。

♣R
幹部のおじさんも、発展途中だからあははみたいな感じでしたもんね。

♥M
あそこは妙にみんなで納得していたね。
やっぱり『花様年華』を観なおそうと思った。
そうだ、あんなに美しい映画だったんだなって。

 

■アナ・ウィンターの仕事


♥M

アナ・ウィンターは、結婚して、離婚して、息子と娘がいる。
ドキュメンタリーの「ファッションが教えてくれること」の時は娘がまだ若くて。
その時のインタビューでは、アナの娘は「ママの仕事とは違う道を行きたい」と、話しているのだけれど、それを聞いたアナがショック…みたいな顔をしているシーンがあるの。
今日も娘が出ていたけれど、娘に対しては他とは違う対応をしていて、娘には弱いのだと分かって面白かった。

娘は当時、法律の方へ進むと言っていたのに、最近チェックしていたら、元伊版『VOGUE』編集長の息子と婚約を発表して、最近は母のアナと一緒にファッションショーのフロントに座っていると、書いてあった。だから同じ感じになっているね。
今日の作品にもメットガラに参加する時のドレス合わせしたりしていたから、同じ道を行くんだ、と思った。

♣R

アナ・ウィンターがすごいと思ったところは、無駄なものを省くということ。
神殿の展示について話している時も、余計な飾りを外すよう指示をしていましたが、それはきっと神殿自体に展示物としての力があるからなんですよね。
彼女はきつくズバッと言うけれど、とても適格。
自分も聞いている立場だったら、言い方!って思うかもしれないけれど…。

♥M
一生懸命考えた企画を3秒ではねつけるとかね。
これもいいけど…という言い方ではないのよね。

♣R
そういう言い方自体が無駄だと思っているのかもしれませんね。

♥M
多分そうね。

♣R
会議はしーんとしてギスギスしていたけれど、彼女の職場は思ったよりもアットホームというか、アナも気さくでしたね。

♥M
うんうん、そうかもしれない。
アナ・ウィンターの『ファッションが教えてくれること』という映画は観たことはある?
もし観てないのなら、これをきっかけに観てみるといいかも。

♣R
観てみたい!
自分はドキュメンタリーをそんなに観る方ではないですが、今回は大分楽しめました。

♥M
りきちゃんがすごく楽しんでる!

♣R
路子さんはどうでしたか?

♥M
私ももちろん楽しかったけれど、わあー感動したという映画ではないかな。

♣R
感動とは別ですよね。

♥M
ふむふむ、なるほど…という感じ。
でも、ああいうアートとかは必要だけれど、どれだけお金がかかってるんだろうと思って、貧しい人々のことを考えてしまった。
それだけのお金が集まるから出来る訳で、本当に上の方ではお金ってグルグル回っているのね。

 

■ファンタジーがなければファッションは永遠に変化できない


♥M

カール・ラガーフェルドが言ってたね。デザイナーが自分をアーティストと言うのは最悪だ。アーティストならランウェイでなくギャラリーへ行くがいい。シャネルもランバンもドレスメーカーだって。たしかにココ・シャネル自身も自分は職人だと言っている。
さっきも服飾はアートか否かという話をしたけれど、アートは発する側の意識の問題なのか、受け取る側の意識の問題なのかというテーマにいくね。

♣R
作品内の会話にありましたね。

♥M
うん。作る時にこれがアートだと思って作っているかどうかという問題があるとね。

♣R
パンフレットにこんなアナ・ウィンターの言葉が載っています。

「私は物事を迅速に進めるのが好きです。威圧的と思われるのは残念ですね。」

「ファンタジーがなければファッションは永遠に変化できません。」

♥M
ファンタジーね。
たとえば中国のイメージはいくつかの映画から得られるんだから実際に中国に行かなくてもいいんだ、ってゴルチエが言っていたけれど、それもファンタージにつながるのかな。

サン・ローランも中国にインスパイアされて作っているけれど、それもイメージのインスパイアだものね。
例えば、この模様はどういう背景の下で生み出されて、それをここで使うのは、こういう意図があるんだとか、そこまで深く研究しているわけではないのね。
だってファッションだから、ってことなのかな。

♣R
「ファンタジー」という言葉で話がまとめられるのは、そういう部分もあるからなんでしょうね。そしてファンタジーがなければ…。

♥M
ファッションは永遠に変化できない。
シャネルの言葉だけど。。

「ファッションは死ななければならない。
しかもできるだけ早く。
そうじゃないと次のものが生み出せないから」

♥M
ファッションというのは、移り変わっていくものだから、商業ベースで永遠であっては成り立たないということを言っているの。
だからそこでもファッションはアートなのか? となるところではある。
でも、ああいう風に衣装がアーカイブとして遺されているということは、それは芸術作品ということなのかな。

♣R
日本でも昔の衣装を展示する展覧会などが開催されていますが、以前やっていた『山口小夜子 未来を着る人』という展覧会は、今回紹介されていた展覧会に似た部分があるんじゃないかなと思いました。
山口小夜子の展覧会は人物にスポットライトを当てていましたが、衣装を並べて、インスタレーションを合わせて展示するって、なかなか日本ではないですよね。
その時は、衣装と一緒に言葉や映像を流していました。
まあ、衣装というよりも、彼女の美意識をテーマにした展覧会でしたね。
見た目が好きっていうのもありましたが、いわゆるお堅い展示物を観たり、奇抜な現代アートを観ていくというのとは別で、よかったですよ。

 

■ファッション映画ではないかもしれない


♥M

パーティーの出席者の中でも、やってられない、早く帰りたいと思っている人は何人くらいいるのかなと思った。

♣R
いると思いますよ。
しかもハブられてる人もいましたね。

♥M
(笑)。
あたしひとりなのって言っていた子でしょう?

♣R
そうです、クロエ・セヴィニー。

♥M
嫌だと思っている人、きっといるだろうね。

♣R
でも、きっとパーティーに出ることがひとつのステータスなんですよね。

今日のお客さんも意識高い系の人が多かったような気がしますが、絶対に思っていた作品と違うと思ったんじゃないかな。
みんなアナ・ウィンターやメットガラをバッと出した映画を期待していたと思います。

♥M
裏方は裏方でいいのだけれど、もっと衣装を提供するデザイナーや、そっち側の情報も欲しかったな。ゴルチエとカール・ラガーフェルドとジョン・ガリアーノぐらいだものね。
ガリアーノがどの人だったか分かる?

♣R
全然思い出せない…。

♥M
何回か出てた人。

♣R
唇の人!

♥M
そうそうそう!
あの人はどう? 好きだった?

♣R
全然好きじゃない。

♥M
私も、ガリアーノってこんな人だったっけ? って思った。

♣R
元々この作品は、コンセプトがファッションではなかったのかもしれないですね。

♥M
まあ、メットガラにはたくさんの入場者がいるから、映画も売れるだろう、というところで始まったのだろうね。だから製作者側が割と頑張ったのだと思う。
スポンサーからは、もっと派手にしろ、アンドリューが出過ぎとか、私みたいに言った人がいたはずよ。

♣R
エンドロールでスタッフがやりとりをしているシーンは、内容的にはよかったですが、折角メットガラの雰囲気で終わったのに、ちょっとあれ? って思いましたね。

♥M
男の子が、「俺アナと似てる」と、言ってるのが頭に残っちゃう。
あのラストのシーンで、裏方映画みたいにしたかったのかな…。
まさに裏方の翌日、という生の声を出したかったんだろうけれど、なくてよかったと思う。

それにしてもね、私たちが1年間に観る映画の中で、この作品は異色ね。

♣R
路子さんがこの作品を選ぶのは、何となく分かりますが(笑)。

♥M
りきちゃんが行きたいって言ったからびっくりしたもの。
これは観に行かないだろうと思っていたから。

 


~今回の映画~

『メットガラ ドレスをまとった美術館』 2016年4月 アメリカ
監督:アンドリュー・ロッシ
出演:アナ・ウィンター/アンドリュー・ボルトン/ウォン・カーウァイ/ジャン=ポール・ゴルチエ/カール・ラガーフェルド/ジョン・ガリアーノ

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間