◎12本目 『ドリーマーズ』
2026/03/02
【あらすじ】
アメリカから留学生としてパリへ来ているマシュー(マイケル・ピット)。
1968年、5月革命前夜のパリ。シネマテークでの抗議活動で、双子の兄弟 イザベル(エヴァ・グリーン)とテオ(ルイ・ガレル)に出会う。
ふたりと意気投合したマシューは、彼らの家で生活を共にし始めるが…。

♥M
すごい傑作!これはいつの作品?
♣R
2003年です。
たしか18禁の作品ですが、高校生の時に同級生と一緒に映画館で観ました。
でも18歳になってたかな…(笑)。
♥M
18歳になってないかもしれないね(笑)。
りきちゃんはやっぱりセンスいいわ。
私、りきちゃんが選んだ映画、観る度に隠れた名作だとか言ってるけど、これもほんとうによかった。
♣R
『アメリ』や『8人の女たち』もおしゃれだと思いましたが、この映画もそう思っていました。
この作品は、ふたつの作品みたいにはっきりした色の映像ではないし、いわゆるパリの美しさも出ていないのに、とてもきれいだと感じるんですよね。
♥M
役者の美しさが際立っているからなのかな。
昔の映画のオマージュがいっぱいある作品だったね。
私も全部は網羅していないし、多分半分くらい分かっていないけれど、グレタ・ガルボが出てきたり、マレーネ・ディートリヒが出てきたりで、知ってる人にはたまらない。
映画オタクの話だからね、ぞくぞくする。このシーンはなんでしょう?みたいにクイズ的にね。
■オマージュ作品探しを楽しむ

♥M
あのシーンが好きだったな。
『クリスチナ女王』へのオマージュ、グレタ・ガルボが部屋を記憶するシーン。
♣R
イザベルが部屋を触っていくシーンですね。
♥M
まあ、ちょっとイザベルのエキセントリックさは鼻につくけれど、若いから許す(笑)。
♣R
『はなればなれに』のオマージュの美術館で走るシーンが、3人の無邪気さが出ていて好きです。
♥M
ゴダールに対してのオマージュも結構あったね。
♣R
他の映画との映像のマッチングが本当に上手いですよね。
浮いている感じが全然しない。
でも実は、『ドリーマーズ』で使われている映画は『フリークス』しか観ていなかったです。
♥M
『フリークス』のオマージュは、どこのシーンで使われてた?
♣R
みんなで「仲間だ、仲間だ」と言っているシーンです。
もっと有名な作品があるのに、何でそれだけ観てるんだろう(笑)。
♥M
りきちゃん、不思議なのを観てるわね。
映画オタクとして観ておかなければいけないものは観ていないのに(笑)。
♣R
本当にそうなんです(笑)。
でも、使われている映画を観ていなくても、映像の使われ方が面白いから楽しめますよね。
3人でお風呂に入るシーンも好きです。
♥M
お風呂のシーンでは『モダーンズ』という映画の、男の人が女の人の脇を剃るシーンを思い出した。印象的なの。
♣R
マシューとイザベルがセックスしている横でテオが目玉焼きを焼いているシーンも、『ひまわり』の卵24個で作るオムレツシーンへを思い出しました。オマージュですかね。
♥M
セックスに備えて精力を付ける為に、マストロヤンニが卵をたくさん食べるシーンね。『ドリーマーズ』では、精力付けさせる為にではなく、セックスするふたりを見て、連想で卵を大量に出してきて、いくつも目玉焼きを焼いている感じ。
♣R
そんな感じがしてきました!!
♥M
何で卵かという理由はそれしかないと思った。
♣R
すごーい!
そうやって探していくと、他にもありそうですね。
公表されて使われている映画以外でも、色々思い出す感じがしますね。
◾️無責任な空間と日々

♥M
衣装やお部屋の感じも好きだった。
♣R
部屋の内装とかいいですよね。
イザベルが最後に着てる服、好きです。
♥M
あれはネグリジェ? ドレス?
下着なしで着ているから、ヘアも見えるけれど、美しい。
映像が本当に美しかった。
♣R
部屋とかも汚いけれど、きれいだと思ってしまうんですよね。
ゴミ捨て場とかも映っているのに。
♥M
そうそう、ゴミ捨て場から拾い集めてきた臭そうな食材でさえ、ゴージャスに見えるあれは何?(笑)。
やっぱり色の使い方とか、そういうことなのかな。
♣R
「あの年代のカラー」というのはあると思いますが、それにしても際立ちますよね。
♥M
親がバカンスに行っている間、好き勝手にやって、運動にも加担していたのに、五月革命中の社会からも離れて、テレビも観ず、部屋に籠って過ごし、食料が尽きたりもする。まさに夢のようなひととき。ちょっとこんな風な時間を過ごしてみたいと思った。
♣R
分かります!
昔からこの映画の中の世界に憧れがあるんです。
♥M
私は今もある。
3人とも若い子たちだから、若さの特権みたいな見方をする人もいるかもしれないけれど、私はこの中に身を投げ出したいと思う。
私も歌を聴きながら脱いでいきたい…ちょっと違うものが出てくるかもしれないけれど(笑)。
無責任でいっぱいのなかに身を投げ出したいって衝動をかきたてられるね、こんな年になっても。
■ぼかしたことで消えてしまうもの

♣R
3人とも魅力的ですよね。
特別美しいとか、かっこいいわけではないけれど。
♥M
ルイ・ガレルは特別感がある。かっこいい俳優は、あまりピンとこないけれど、彼のまなざしはたまらない…。
私、かっこいい人が好きじゃないって言いながら、実は金城武は好きでね、ルイ・ガレルと金城武ってちょっと似てるな、なんて思いながら見てた。
しかし、ベルトルッチも好きなように撮って、見たいものを見てるわね。
裸の上半身にジャケットだけ着せて、下半身に何も着せないとか(笑)。
♣R
緑のジャケットの(笑)。
♥M
そうそう。ベルトルッチしょうもないなって思ってしまった。
しかも、そのまま外に出しちゃうし。
でも日本はぼかすからね。見せてくれよー(笑)。
♣R
あれは、ぼかしちゃダメですよね。
マシューがイザベルの写真を下着の中に隠してるシーンでも、ぼかしてたら何だか分からないですよね。
♥M
そうそう。あとイザベルが処女だったから、マシューとのセックスで血が出てるけれど、あれもぼかすから何があったの? 何か掴んでるの? 何かが入っていたのかな? って色々深読みしてしまった。
♣R
シャルロット・ゲンズブール出演の『アンチクライスト』でも、ぼかされているシーンがあったんです。ぼかされて何も分からないんですけど、そこのシーンは、見えていないと話の意味が繋がらないところだというのが後々分かったんです。
エロティックとかそういう部分フォーカスではなくて、映画自体の意味が…。
♥M
成立しなくなってしまう。
この映画のぼかしはいらないと思う。
♣R
なぜかマシューだけはぼかしがあって、テオにはぼかしがないんですよ。
♥M
そうそう、全部ぼかされている訳ではないの。ぼかしのない部分もあった。
ちょっと見えたみたいな。あれは映倫の好みかしら(笑)。
♣R
フランス俳優と、アメリカ俳優の扱いの違いですかね(笑)。
■流される「双子」と自分の世界へ戻る「アメリカ人留学生」

♥M
アメリカ人留学生のマシューは戸惑いながらもふたりに惹かれていくけれど、でもその双子がそれで幸せか、というと、別にそうではない。
頭が悪い訳ではないけれど、関心を持ってそれについて勉強しているようには見えなくて。
♣R
まわりに流されてしまう。
♥M
うん。ラストのデモのシーンでも流されてしまっている。
マシューは非常にアメリカ的だけれども、暴力ではなく頭を使おう、愛を使おうと思うから、流されず、自分の世界へ戻って行く。
マシューは大学生であり知識によって感情が支えられている人物というのが、その場面で双子との違いとして出るね。
♣R
テオもお風呂のシーンで暴力反対と言っていましたが、やっぱり流されてしまう…。
♥M
流されてしまったこともあるし、マシューとの議論の中で「お前は何もしてないじゃないか」と、言われたのがすごく引っかかっていたのだと思う。
両親のいい家に住み、美味しいお酒を飲んで、デモにも関わってない。
現実と関わらないで、形だけのことをやっていると言われたことが残っていたんだと思う。
お風呂のシーンで、マシューがヘアを剃られそうになった時にものすごく怒るでしょ?
あれはやっぱり、おかしいおかしいって溜まっていたものが爆発した瞬間なのかな。
♣R
そうだと思います。
♥M
あれが1日目にやられていたことなら、素直に従っていたかもしれないね。
♣R
はじめから、この双子はおかしいな? とは感じていますもんね。
お父さんがイザベルを触る手つきだったり、テオとイザベルが全裸で一緒に寝ているとか。そのんんっ?と思っているところに巻き込まれて過ごし続けていたら、爆発しちゃいますよね。
♥M
『ドリーマーズ』の映画の中では、恋愛というものはないよね…でもマシューからイザベルに対して持つ感情は恋愛かしら。
♣R
でも、ほぼ一方的ですよね。
イザベルに関しては、恋愛というよりは兄弟愛に近いというか、延長線上の関係。やっぱり付属品のような。テオも言ってましたよね。3人一緒というのはないって。
♥M
結構きつく、それだけははっきり言っとくけど、という言い方でね。
引き込んでおいて、それはないだろうと、思っちゃうけどね…。
結局、マシューは去っていくけれど、あの双子は今後どうなるのかしら。
♣R
マシューの替わりが来たとしたら、ふたりは何か変わると思いますか?
♥M
変わらない。
♣R
私もそう思います。
♥M
多分、マシューに会う以前の日常が繰り返される気がする。
親が帰ってきて、でもそれに関してはノータッチで。
だって両親も、小切手を置いてまた家を出ていくものね。
♣R
この映画は、いまだに分からないことが多くて、何度観ても難しい作品だと思ってしまいます。
♥M
私はベルトルッチ監督が意図してやっていることの、10分の1くらいしか分かっていないと思う。
でもすごくメッセージ性があるのは分かる。監督も全部分かってもらおうと思って作っていないと思う。それがひとつの魅力でもあるのかな。
前も何かの映画で話したかもしれないけれど、日常が、池とか湖みたいな停滞している水面だとしたら、そこに波紋を広げる一石になるようなもの、それが私にとっての映画で、この作品にはそれがあった。
だって、私は自分で自分の人生をつまらなくしているんだ! って思わされたもの。
期限付きであろうと、1日、2日であろうと、自分の本質的な何かを解き放つような時間をもっと持ちたい、って。一度しかない人生だし、好きなように出来る時間はそんなにないのだから、もったいないって。
■「ラ・メール」と「永遠」

♥M
最後にピアフの「いいえ、私は後悔しない」が流れて、感激。
思い入れがあるからぞわーっとした。
♣R
ところどころ、印象的に音楽が使われていますよね。
♥M
シャルル・トルネの「ラ・メール」は2回使われてたね。
♣R
イザベルが服を脱ぐ時と、イザベルがマシューを自分の部屋に入れた時ですね。
以前、路子さんに、暗闇の中から黒い手袋を付けてイザベルが登場するミロのヴィーナスシーンがものすごく美しいと話しましたが、昔はそのシーンよりも「ラ・メール」の曲に合わせて服を脱ぐシーンの方が美しいと感じていたことを思い出しました。
♥M
あのシーンはゾクッとしたね。
歌詞の内容はどんななの?
ー ふたりで和訳を調べる ー
【La mer (ラ・メール)】
海 澄んだ入り江に沿って踊っている
金色の煌き
海 煌きを変る
雨の下
海 夏空に浮かぶ
白い羊 純粋な天使のような
青い海は羊飼い
いつまでも
見てごらん 岸辺の水溜りの
背の高い湿った葦を
見てごらん 白い鳥と
朽ち果てた家を
海 揺らしておくれ
澄んだ入り江に 愛の歌のように
海 揺らしておくれ
私の生きる心を
*「ラ・メール」の和訳が載っていたサイトには、アルチュール・ランボーの有名な詩の説明が一緒に載ってる。
また見つかった
何が? 永遠が
太陽と共に去ってしまった
海が
♥M
ああ、これは『気狂いピエロ』の最後のセリフで使われているね。
もしかしたら「永遠」がひとつのテーマかな。
イザベルがテオに関係の永遠さを求めたり、彼にその言葉を求めるけれど、そんなことも考えると「永遠」がひとつのキーワードかな。
♣R
この「ラ・メール」を聴いて、自分の葬式の出棺の時に、この曲を流して欲しいと思っていたことも思い出しました。
♥M
いまでもそう思ってる?
♣R
そうですね、「ラ・メール」がいいです。
それか、ピアフの「いいえ、私は後悔しない」がいいと思っているんです。
でも両方の曲がこの映画で使われていたんですね。私のお葬式用映画みたい。
♥M
私も「いいえ、私は後悔しない」がいいと、誰かに言ったことがある。
今はなんだろう、何を選ぶかな…。
