☆39本目『イースト/ウエスト 遥かなる祖国』
2026/03/02
【あらすじ】
1946年、ソ連のスターリンは亡命ロシア人に特赦を与えると発表。フランス人女性マリー(サンドリーヌ・ボネール)は、息子を連れてロシア人の夫アレクセイ(オレグ・メンシコフ)の祖国を訪れる。しかしそこで彼らを待っていたのは過酷な日々だった。ソ連政府の監視、迫害のなかでもマリーは希望を捨てず、なんとかソ連を出ようとするが……。

♣R
『インドシナ』の監督なんですね。
♥M
歴史大作を作るのが得意な人なのね。
昔、世界史を教えていたことがあったから、スターリン独裁下のソビエトについては、うんざりするほど資料を見ているから、本当にうんざりしてしまった。
ドヌーヴが出演していなければ、絶対に観ない作品だったと思う。
スターリンの特赦が出て、亡命者が帰国するところから始まって、独裁政権と密告の世界、という展開が分かりきっているし、観ることで嫌な気持ちになりたくないけど、まさにそんなかんじの映画で、始めのシーンから、あぁ…って思っちゃった。
♣R
誰が敵で味方か、全く分からない世界なんですね。
♥M
本当にそうなの。
■何を取捨選択するか
♥M
人間とか、生命力というものを考えさせる作品だったね。
ああいう環境に陥ったとき、いつだって、生き残る人と、すぐに死ぬ人がいる。
最初のシーンで、船を降りてすぐに、逆らって殺されてしまう男の子がいたけれど、これは危ないな、何かおかしいな、と、直感的に危機感を感じ取れるか、取れないかの違いが大きく関係していると思う。
自分にはそれがあるかな…。
♣R
実際にそういった状況にならないと分からないですよね。
♥M
そうね。それから…、ああいう悲惨な生活の中にも、日々のちょっとした喜びはあったりするのよね
♣R
隣人と仲良くなったり、水泳で賞を獲得したり。
♥M
そうそう。どんな状況でも、そういった日々のちょっとした喜びが、明日への命に繋がっていくのだと、すごく感じた。
不毛の大地から何を取捨選択するかというのも、生き残るエネルギーになるのね…それが総じて生命力に繋がる。
♣R
生きるか死ぬか。
♥M
私だったら、とっくに自殺してしまいそう…。
殴られたりしたら、すぐに人の名前を吐いちゃいそうだけれど、人の名前を吐くのが嫌だから、自殺しそう。
でも、そこに子どもがいたりすると、そうはいかなくなる。
♣R
だから自殺しなかった、というのはあるかもしれません。
主演ではないですが、ドヌーヴは重要人物でしたね。
♥M
フランス女優という、そのままの役ではあったけれど、すごい存在感だった。
脇役的なドヌーヴを観られたね。
ドヌーヴ自身、ああいう信念や頑固さも持っているし、女優役ともあって、重なるね。
『仕立て屋の恋』や、『親密すぎるうちあけ話』で有名な主演のサンドリーヌ・ボネールは、すごく美しくてきれいな女優。割と好きな人なの
♣R
『灯台守の恋』も有名ですよね。
クロード・シャブロルの『沈黙の女』では、イザベル・ユペールとも共演しているんですね
♥M
でもやっぱり、ドヌーヴが食っちゃってるような気がしたな。
ドヌーヴの演技は、それくらいの勢いがあった
♣R
生活から考えて、あのくらい控えめでないと、真実味はなくなってしまいますよね。
あれで美しく、きらびやかだったら、見方が変わっちゃいますよ
♥M
うん、もちろん。そうなんだけどね。
ラストシーンでドヌーヴ演じるガブリエルが神様みたいに思えるぐらいの活躍をするから、美味しいところを全て持っていってしまった感じ。
ケーキのトッピングにはなりたくない(誰でも演じられるような出演はしたくないという意味)と言ってるドヌーヴが、端役だけれども、彼女がこの作品に出たいと思った気持ちがよくわかる。
■直接の懇願が…
♣R
自分の命も危ないかもしれないのに、なぜガブリエル(カトリーヌ・ドヌーヴ)はアレクセイを手助けして、マリーを助けたのだと思いますか?
♥M
約束したから?
♣R
ちょっと会った時にした口約束的なものですよね…何か鬼気迫るものを感じたんですかね。
そういえば、「一般市民の声が聞きたい」と、話していましたね。
♥M
同じフランス人の女性が、直接懇願してきたことに対して、自分の力でなんとかできると思ったのかもしれないし、なによりガブリエルは、これを見捨てたら自分を許せない、と思ったのかもしれないね。
♣R
後悔すると?
♥M
うん。周りの人に「どんなに危険か分かってない。 君が考えているほど甘くはない」と言われたりしているから、もっと軽く考えていた節もあるかもしれない。
でも、自分なりの正義感と、何年にも渡るアレクセイとのやり取りに心打たれた部分はあると思う。
一般的に、手助けをしないような人でも、直接嘆願されたりすると、嘆願してきた相手と何かしらの関わりが生まれて、行動に移してしまう、というのはよくある話だし、私も少し分かる。
♣R
大使館前での毅然とした態度は見事でしたよね。
♥M
あれは女優ならではの態度だった。
ああいう時でも、演じている。
♣R
大使館は、入ると違う国になるんですか?
♥M
そう。治外法権なのよ。
あのシーンは、すごくドキドキした。
■自由の種類
♣R
マリーとフランス語で喋っていたことを密告され、おばあさんを殺されたサーシャ(セルゲイ・ボドロフ・Jr)
♥M
サーシャを演じているセルゲイ・ボドロフ・Jrは、この映画の脚本を担当し、監督としても活動をしているセルゲイ・ボドロフの息子で、後年、映画の撮影中に、氷河崩落に巻き込まれて、若くして亡くなっているみたい。
♣R
私も何かで読みました。いい雰囲気の俳優さんだったので、残念です。
サーシャは、マリーに対する憎しみがあったけれど、助けられたことで、少しずつ愛へと変化していきましたね。
♥M
サーシャは6時間くらい泳いで亡命するでしょう?
体温を下げないよう、全身にワセリンを塗り、川で特訓しているけれど、自由を求める気持ちと、愛する人を救いたいという気持ちだけど、人間はそこまでできるものなのかな。
♣R
自由を求める時の一筋の光へすがりつく想いは相当なものですよね。
自分の命もかかっている時に求める「自由」は、私たちが日々生活をしている時に不自由を感じ、あぁ自由になりたい、と思う時の「自由」とは全然違うものですよね。
♥M
自由が叶わなかったら、死と同じくらいの苦しみが待っている。
だからこそ、命を懸け、それぐらいのことをしてもいいと思えるのかもしれないね。
でもその後に、サーシャは手首を切っちゃうでしょう?
自分のやってきたことは無駄だったと思ってしまっていたからなのかな…。
ガブリエルを信じきれない部分も、きっとあったのだと思う。
♣R
せっかく6時間かけて泳いできたのに、フランスを離れてカナダに行かなければならないという現実を突きつけられてしまい、絶望を感じてしまったんでしょうね。
■実は壮大な純愛物語
♥M
それにしても重い映画だったね。
♣R
純愛の物語なんですね。
♥M
純愛よ!
10年もの純愛!!
♣R
衝撃のラスト…裏切りではない裏切りだったんですね!
♥M
そう、びっくり。
事実に基づいた話ではあるけれど、疑ってしまいたくなるくらいの純愛だった。
♣R
アパートの管理人と寝たのも、組織に順応しているように見えたのも…。
♥M
全て妻をフランスへ逃がすためにやったこと。
♥M ♣R
はぁーーーーん!
♣R
しかもラストでは、自分を犠牲にする
♥M
アレクセイがうつむきながら笑顔を見せるシーンね。名シーンだった。
他の人のレビューを見ると、彼は、彼女が戻ってくるのではないかと心のどこかで思っているのではないかと書いてあるものがあったけど。。
でも私は、10年以上も工作をしてまで彼女を逃がそうと思っている人が、そんな風には思わないと思う。とにかく自由の国に戻してあげたいという気持ちと、少なくとも彼女がフランスへ行けたんだ、という喜びの笑みだったと思うの
♣R
マリーも複雑ですよね。
夫が純愛を貫いている間に、サーシャと関係を持ってしまって…どういう気持ちなんですかね
♥M
だって彼女はその時、純愛って知らないもん!!
……ごめん、ムキになっちゃった(笑)
♣R
(笑)。
サーシャがちゃんとフランスに渡れたことを新聞で読んだ時も、まだ純愛物語のことは知らないですからね。
♥M
うん、知らない
♣R
そういうことも知った上で、最後の最後、どういう気持ちだったんだろうって思って
♥M
純愛物語を知らされたのは、逃亡の直前でしょう?
だからその時は、意識朦朧状態だったと思う。
でもそのあとにフランスへ渡って、自由な生活が始まってからは、ジワジワと夫が何をしてくれたかを理性的に考えて、夫に対して、すごい想いを抱くと思う。
でも、それを感じてくれれば、夫としては本望なのかもしれないね。
サーシャとの関係も、悔やんだりはしていないような気もする。
過酷な状況の中で起こったことだから、10年も経ってしまうと、自分の身に起こったこととは思えないくらいになっているかもしれない。
■見返りを求めない愛
♣R
マリーは脱出の際、アレクセイの元へ戻ると駄々をこねるじゃないですか。
もし、彼がそんなに真剣に考えていなかったら、周りの人もあんなに必死で止めていなかったと思います。でも、息子も、ガブリエルも、彼が何年も苦労して工作を行ってきたのを知っているから、彼女を止める。
そこに愛というものがあるような気がしました。
♥M
見返りを求めない愛ね。
一生会えないだろう、という気持ちで送り出しているのよね。
最後のクレジットでは、アレクセイの渡仏が許可されたと書いてあったけれど、ふたりが再会したかまでは分からない。
♣R
私は歴史にとても疎いですが、歴史的事実を知った上で観たら、彼女の苦しみや、生活をしていた時の考え方を、もっと違う見方で受け止められたのだと思います。
♥M
独裁政治だから、とにかく反体制派っぽい動きをしただけで殺されてしまう時代。
ナチスがユダヤ人を殺した数に劣らないくらい、スターリンの独裁政治の下では犠牲になっている。フルシチョフの時代からゴルバチョフの時代にかけて、どんどん自由になっていき、スターリン時代の悪さが明らかになっていく。
この映画で描かれている通りに、密告する側は体制派に見られるから、自分の身を守るためにも誰かを犠牲にする。
身内や夫婦間でも起きたことだから、誰も信用できない状況だったみたい。
♣R
そんな状況だと、地上に安らぎがないですね。
♥M
うん。体制派になり、一切異論を唱えずに幹部になってしまえば、安心なのかもしれないけれど。
♣R
アレクセイはそれをやってのけたんですもんね。
♥M
そうそう。そういう風にして安心させてね。
同じ国の中での争い、裏切り、密告って、いたたまれないね。
ああいう状況で、自分を保っていられる人はどれくらいいるのかな…そう思うと、アレクセイはすごい人。
妻をも騙せるほど体制派にどっぷり浸かりながら、根本的な思想を失わないでいたのだから、すごい精神力だと思う。
人間は割と環境に順応しやすいから、これはこれでいいか、なんて、なりがちだけれども…。
♣R
表向きは体制派。
でも心まで体制派に傾くことはなかったんですね。
■真実味を見た

♥M
視点にもよるけど、密告をしていた管理人の女の人もかわいそうだと思う。
きっとアレクセイのことを本気で好きだったのだと思うけど、マリーが逃げるための道具として使われていた、ということでしょう?
♣R
たしかに。
♥M
とはいえ、きっとアレクセイのちょっとした息抜きにもなっていたよね。
♣R
彼女も彼女で、スパイ的な役割を秘密裏にしていた、というのもあるから…とんとん?
♥M
夫も純愛物語の作戦上とはいえ、毎晩その女性と寝ていたから、それなりに楽しんだよね。
純愛、純愛とは言っているけれど。
♣R
だからとんとんですね(笑)。
♥M
うん、そう思う。
崇高な目的はあったけれど、それに至る過程の中で、夫も妻も、自分のその時の欲望や快楽を満たしていた。
私は、そういうところに真実味を見たわ。





