ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎10本目 『ホワイト・オランダー』

2025/12/09

【あらすじ】
アストリッド(アリソン・ローマン)は、母 イングリッド(ミシェル・ファイファー)とふたりで暮らしていたが、あるとき、母が恋人を殺したことで逮捕され、アストリッドの生活は一変。
里親を転々とすることに。

熱心なキリスト教信者の元ストリッパー、夫婦関係がうまくいっていない女性、自由に生きる女性など、さまざまな里親とふれあうなかで、アストリッドは母との関係を見つめ直していく。
美しく支配的な母親をもった少女の葛藤と自立の物語。

 


♥M
久しぶりに観てどうだった?

♣R
昔は気軽な感じで観ていましたが、改めて観てみると、気軽に観るような作品ではなかったですね。

♥M
全然気軽じゃないよー。これって、そんなに有名じゃないみたいだけど、すごい映画よね。
ミシェル・ファイファーの演じるママ、すごかったね。

♣R
洗脳をするタイプですよね。

♥M
私はああいう風になるのが怖くて、注意深く、そうならないように自分の子どもに接してきたような気がする。

♣R
誰でも起こりうるということですか?

♥M
うーん。そうでもないのかな。なりたくてもなれない人もいるんじゃないかな。
やっぱりある程度、母親側に、特別な影響力が必要だと思う。
この映画の場合、母親はアーティストで、あれだけ美しいし、条件は備えているかな。
彼女にとって、娘は自分が作り出したものだから、芸術作品と一緒で美しいものでなければならない…ヴィジュアルのことではなく、いいもの、作品であるということね。
だから自らが作り出した作品に対する思い入れと、自分の気に入るように育みたいという欲望、そして自分自身は「永遠の子どもととして、純粋なアーティストとして生きていく」と決めていた人が、子どもを持った時の葛藤がね、観ていて痛かった。

たとえば、娘を置き去りにして1年くらい家を出る時の心情ね。「ママ、ママ、ママ、ママ」と、クモみたいに纏わりついてくるから壁に投げつけたくなると、言っていたけれど、あれはアーティストではなくても、誰もが一度は胸にいだいたことがある想いだと思うお。子どもは母親に休みをくれないから、

♣R
路子さんが言っていた通り、イングリッドが表現するものはどの母親でも持っている可能性があるものばかりですよね…うちの母親に近いと思ったところもありました。
映画では、より強く極端に出ているだけであって、子どもを自分の思うようにしたいと思っているところは、本当に誰にでもある話ですね。

♥M
そう。だからあんなに特異なストーリーなのに、割とヒットしたのは普遍的なものがあるからなのよね。
それでもやっぱり血は争えないね。娘のアストリッドの強さの方が怖いわ。

♣R
次第に母親に近づいている部分と、母親とは違う、自分が歩んできたからこそ見つけてきた部分が上手く混ざっていますね。

♥M
そうね。でもやっぱりアメリカ映画にあるようなハッピーエンドな終わり方。
結局イングリッドも、娘への愛を選んだ訳でしょう?
アストリッド役のアリソン・ローマンがすごいのかな。あの変化はメイクだけではないのよね。

♣R
口調も。

♥M
声も違ってた。
でも、冒頭で「ママを待ってるわ」と、言っていた時と、ラストシーンで、大きくなって彼とニューヨークで暮らしてる時の声が一緒だったね。

♣R
戻った感じがしましたね。

 

■「ホワイト・オランダ―」の毒

♣R
この映画には、ジャネット・フィッチの『扉』という原作があるみたいですね。

♥M
DVDのパッケージには、全米で150万部以上の売り上げを記録し、世界25か国で出版された大ベストセラー小説。愛と生と孤独をテーマに人生を繊細に描くと書いてある。
映画のタイトルになった『ホワイト・オランダ―』は、どういう意味なのかな。

♣R
映画に出てきた毒の花のことですよね?
桃源郷じゃなくて…。

♥M
夾竹桃(キョウチクトウ)!
日本語に訳されて出てきていたね。
それがホワイトオランダ―なのね。
それなら字幕はホワイトオランダ―にして欲しかった。
ちなみにホワイトオランダ―は日本語で白い夾竹桃(トウチクキョウ)。強く美しく生きる為に毒を放つ花。
花言葉は危険とか恵まれた人。まさにイングリッドの生き方のような花。

♣R
人が持つ毒みたいなことを言いたかったのかもしれませんね。
イングリッドに寄り添ったタイトルですよね。
アストリッドもそれに近づくみたいな意味合いもあるのかも。

最近、自分が持っているこの作品のDVDパッケージによく目がいっていたんです。

♥M
このDVDのパッケージは本当に美しいね。
そういえば、ホワイトオランダ―を牛乳に入れて飾るシーンがあったけれど、この花はそうするものなの? 白い色で合わせているのが、とてもきれいだった。
だからこのDVDのカバーがとても気に入ったの。

♣R
あれはイングリッドのアーテイスト的発想ですかね。
牛乳のことは、ネットでも気になってる人がいるみたいで、花を牛乳にいけるのは、毒を抽出する為だったと、考えた人もいるみたいですね。

♥M
原作にはこう書いてあるみたい。

「植物全ての部分と、周辺の土壌にまで毒があります。
口から摂取することで、これまでも人や家畜の死亡例がありました。」

「バリー(イングリッドの彼)の家に押し入り、関節炎薬DMSOとオランダーの樹液の混合物を、バリーの家中の表面に塗り、その結果、バリーは死亡。
というのも、DMSOはオランダーの毒を皮膚に吸収させる働きがあるため。」

♣R
手の込んだ殺し方ですよね。

♥M
家中のものに塗るって、ちょっと非現実的ね。

♣R
彼の家に行った時は、まだ生きてましたよね?
そんなに毒性が強いのに、自分は大丈夫なんですかね。
彼の家から戻ってきた時、血にまみれたりはしていなかったから、そういう殺し方ではないとは思っていましたけど…。

♥M
アストリッドがイングリッドに殺したことを聞いている時、殺されそうになったから殺したと言ってたね。それだと、とっさの出来事に聞こえるけれど、とっさの行動でいろんなところに毒を塗るなんてしないよね?

♣R
正当防衛だったのなら、塗らないですよね。
それだと、きゃーって言いながら塗って。

♥M
殺される―って言いながら、その辺を触るのをジワジワ待ってるってことでしょう?
それって変(笑)。

 

■重圧と習慣

♣R
ある程度の縛りは必要、でも自由過ぎてもダメだ、ということを考えました。
ある程度の制約があるからこそ、自由が保たれるというか…。

♥M
りきちゃんの場合は、完全に子どもの立場でしか観ないでしょう?
だからママと自分の関係というふうに観ていると思うけれど、どんなふうに重ねて観ていたの?

♣R
アストリッドを見ていると、いい子でいなくてはいけないとまではいかなくても、母親に言われたことに従うだとか、引き取ってもらった人の好みで服装や習慣を変えてしまうようなところは、自分と似ているのかなって思いました。

♥M
でもそれは生存本能よね。

♣R
従っていなくてはいけないと思ったり、相手に言えないところは似てますね。
だからこそ、ラストで母親に対して言ったこと、今回、私自身が家を出ると、自分の母親に話したのが…。

♥M
重なった?

♣R
そうですね…映画ほど強くは言ってないですが、そういうのは重なりましたね。
解放というか。

♥M
りきちゃんのお母さんは、お姉さんよりも、りきちゃんの方が自分と似てると思ってる?

♣R
多分そうだと思います。

♥M
そうだよね…趣味とかの話を聞いていると、私もそれを感じる。
愛するのとは別として、自分と似ているものを持っている者として、何かを感じるんだと思うの。

♣R
さらに言うと、里親を渡り歩いてる中で、そこで落ち着きたいという気持ちが絶対にあると思うんです。だからこそ相手に言えないし、重圧を受け入れて従って生きるしかないのかもしれませんね。

♥M
里親のところに行く度に、そのカラーに染まるでしょう?
それで母親に会いに行くと、それを見抜かれ、否定され、ああしろ、こうしろと言われ、それに対してアストリッドはその通りにする。
彼氏に対する評価も、アーティストではなくて漫画家でしょう? とバカにされ、はじめは頭にきていても、自分の場所に戻ると、母親の意見を受け入れてしまう。
アストリッドは母親の意見を聞いて、ああやっぱりそうだなと、思っているからそうしているのかな…それとも、ずっと支配されていたから、習慣として言うことを聞いてしまうのかな。 それとも両方?

♣R
そうやってずっと生きていたのだとしたら、習慣になってしまっている感じはしますね。

♥M
今まで、自分の意志で動いてきていないものね。

 

■愛情表現の方法


♣R

アストリッドが母親に、荒れてしまった自分を身をもって止めて欲しいと言ってましたが、最終的に母親のイングリッドは自分を犠牲にして娘を証人として裁判に立たせなかった。
アストリッドもそういった経緯からなのか、荒れた状態から抜け出していましたね。

♥M
母親から愛されていると思えることは、どれだけ大切なのか、ということなのかな。

♣R
愛されているといっても、タイミングだったり、投げかけられ方だったり、愛情表現に対してどれだけ自分が受け入れられるか、というのもあると思います。

♥M
そうね…イングリッドは母親の立場からすると、ずっと娘のアストリッドを愛してるけれど、彼女の希望を聞いてあげるという形での愛し方はずっとしていない。
アストリッドも終盤で、初めて自分からはっきりと、証言をさせないで欲しい、自分の希望を聞いてくれるような、そういう愛し方をして欲しいと言う。
その時イングリッドは一回躊躇したけれど、その希望を受け入れる…初めて、娘の希望を聞いてあげるという愛し方をした瞬間。
そして、それがアストリッドはとても嬉しかったのね。

やっぱりこの映画はストーリーもいいけれど、女優がすごかった気がする
ミシェル・ファイファーのあの目線。私、アーティストです、狂ってます、みたいな、いっちゃってる目。

♣R
狂気の目でしたね。

♥M
うん…光が分散するような、コンタクトを入れているのではないかと思うくらい。

♣R
レネー・ゼルウィガーもすごくよかったと思います。

♥M
ねっ、すごかった。

♣R
レネー・ゼルウィガーというと、『ブリジット・ジョーンズの日記』や『シカゴ』のイメージがあるけれど、この消え入りそうな感じが、とてもよかったですね。

♥M
レネー・ゼルウィガーが演じたクレアも危うくて、クレイジー。
種類は違うけれど、狂的な感じがしたね。

♣R
どの女性も男に人生を狂わされてますよね。

♥M
そうね。

♣R
最後の里親だけは違いましたね。
私は、この人が一番好きです。人間味あふれるている感じ。

♥M
あのゴミを漁らせる里親のこと?

♣R
そうそう。
見た目も好きですが…。

♥M
きれいだったね。
たしかに、彼女だけが、男云々言っていなくて、お金が大事みたいに言ってた。

 

■男で狂う女たち


♥M

男たちが魅力的ではなかったね。

♣R
最初の里親の彼氏役の見た目は好きですけどね(笑)。

♥M
細くていい身体をしていたけれど、線が細くてダメなのよ(笑)。
2番目の里親クレアの旦那さんは好みだった?

♣R
やっぱり、最初の里親の彼氏の方がいいですね。

♥M
ふたりとも、線が細目でりきちゃんの好みでしょう?

♣R
うーん…もうちょっと顔がかわいい方がいいです(笑)。
2番目の旦那さんは、顔だけで判断すると、ちょっと面倒くさそうな気がする。

先ほどちらっと話題にしましたが、どの女性も男に人生を狂わされてますよね。
母親は娘のアストリッドに「男を受け入れないように」とか言っていたのに、男で人生が狂ってしまう人物。
最初の里親の母親も、自分の彼氏がアストリッドに取られることを恐れ、狂ってしまう。
二番目の里親のクレアも、旦那が出て行ってしまうというのも重なり、自殺をしてしまう。
そういう女性たちの姿をアストリッドは見ているから、彼女自身も男性への態度にためらいや嫌悪感を感じる節があるような気がします。

♥M
そうよね、恋愛が難しくなって当然。でもあらわれるのよね、恋人が。
あんなに強要もせず、ソフトに見守ってくれる都合のいい男はいるのかしらね。

♣R
たしかに(笑)。

♥M
だって、全然彼女のペースを乱さないもの。

♣R
そうですね。

♥M
彼は受け身の人よね。

 

■母親を選ぶとしたら


♥M

作品の中で母親をひとり選べるとしたら誰を選ぶ?

♣R
適度に突き放す関係なのは、最後の里親ですよね。

♥M
商売をやらせる人ね。

♣R
路子さんは誰がいいですか?

♥M
共感出来るのは、自殺をしてしまう里親のクレアと、イングリッド。

♣R
クレアは、自分の自殺を制御する為にアストリッドをそばに置いていたというのは、イングリッドが言っていた通りだと思います。

♥M
気晴らし兼監督者ということね。
クレアとイングリッド、ふたりを合わせ持ったら、私が出来上がるかもしれないと思うけれど、やっぱり嫌だな…。
私もりきちゃんと一緒の人にする!
そういうシーンは描かれてはいなかったけれど、情があるようにも思えるから。

♣R
偏見ではありますが、ああいうタイプの母親だったとしたら、娼婦として働かされるイメージがありますが、ちょっと違うんですよね。

♥M
そうそう。フリマで服を売るの!

♣R
ゴミから売り物の服を見つけているにせよ、あれ、普通のことやってるって思っちゃいました。盗むとかじゃないんですよね。

♥M
フリーマーケットだもの。
意外といい人。

一番嫌なのは、最初に引き取った里親。
極端な形で描かれているとしても、失われていく若さというものに恐怖を持ち、キリスト教に対して適当に興味と救いを求め、知性もないあの人が一番嫌。

♣R
キリスト教の話をしていても、深みも説得力もない。

♥M
そういう人はよくいるよね。
感情のゆらぎの原因を自分自身のなかに求めずに、自分以外の人のせいにするようなところも嫌い。

 

■イングリッドの強烈的な魅力


♥M

やっぱり、ホワイトオランダ―を牛乳にいけるシーンが本当に印象的だった。
私も今度花をいけるとき、やってみようかな。

♣R
この映画は「白」という色をすごく大事にしていますよね。
牛乳にいけたホワイトオランダー、イングリッドの法廷シーンの真っ白な衣装。
彼女の強さが際立っていましたね。

♥M
イングリッドは魅力的よね。
法廷から去っていく最後のシーンが一番きれいだと思った

♣R
頬がこけたりはしてましたが、何年経っても自分の強さがあるからなのか、全然変わらないですよね。むしろ強くなっていく感じがしました。
追い込まれれば追い込まれるほど、強くなるタイプですよね。
監獄の中でもアーティスト活動をして個展を開くぐらいだし。

♥M
本当に。
強いというか、強烈だった。
シャネルはああいうタイプに近いかもしれない。
いい映画だったね。すごく面白かった。これは名作!

 


~今回の映画~

『ホワイト・オランダ―』
2002年 アメリカ
監督:ピーター・コズミンスキー
出演:アリソン・ローマン/ミシェル・ファイファー/レネー・ゼルウィガー/ロビン・ライト・ペン

-ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間