◎65本目『MISS ミス・フランスになりたい!』
2026/03/09
【あらすじ】
アレックス(アレクサンドル・ウェター)の子どものころの夢はミス・フランスになること。「男の子なのにおかしい」と笑われた記憶は頭から消えない。
成長した彼は、両親を事故で亡くして以降、人生を諦めたような日々と送っている。
そんなとき偶然再会した幼なじみが自分の夢を叶えたことを知り、なにかがアレックスのなかに芽生える。自分も夢を叶えたい。そしてミスコンテスト出場を決意する。
下宿の家主ヨランダ(イザベル・ナンティ)や個性豊かな下宿人たちに支えられて、アレックスは男性であることを隠したまま厳しい審査を勝ち進んでゆくが……。

♥M
すごくいい映画だった。うまい作り方。
感動させどころのツボをおさえてる。
♣R
割とオーソドックスな作りでしたが、ちゃんと性格の変化も描かれていましたね。
♥M
SNSをやることで、自分を見失ったりね。
♣R
予選の時と、SNSで自分を見失っている時のアレックス(アレクサンドル・ヴェテール)は、全然違いますよね。
♥M
いとも簡単に、人は勘違いをしてしまうよね。
♣R
それに気付くか、気付かないかで、自分を取り戻せるか否かも決まりますよね。
■みんないい人
♥M
それにしても心をかなり揺さぶられたから、理由は何かを考えてみたの。
ひとつは、アレックスがチャレンジしていく様子や、周りの人たちの優しさ、そして理屈ではない美しいものを見たから。
アレックス役のアレクサンドル・ヴェテールがインタビューの中で、「(脚本を読んだ時に)自分の好きだと思えるような女性たちが描かれていたのがよかった」と、言ってるけど、たしかに、そんな人ばかりではないよね、というくらい、登場人物がみんないい人たちだった。
♣R
ホテルで相部屋になるパカ(ステフィ・セルマ)が一番分かりやすい、いい人ですよね。
他のミスコンメンバーの秘密を知ったら、揺さぶって脅すぐらいのことは考えそうですが、秘密を受け入れて、応援までしますからね。
プロデューサーのアマンダ(パスカル・アルビロ)も、アレックスの正体に気付きながらも、最初から目を掛けて、励ましたり、時には厳しいことを言ったりしながら、アレックスを立ち直らせますよね。
♥M
なかなか現実世界ではないものを見せてもらった。
こうだったらいいなのオンパレード。
♣R
ミスコンのシーンはドヌーヴの『ミス・ブルターニュの恋』を思い出しました。
将来、ヨボヨボヨレヨレの姿で「何年のミス・〇〇よ」と、誇らしげに言うんだろうなあって(笑)。
♥M
私も思い出した(笑)。
ひとりひとりの人物の掘り下げが、もう少し欲しかったな。
♣R
割とサラッとしていましたよね。
アレックスが住んでいる家は、マイノリティのごった煮みたいなメンバーばかりで、その中でも深く掘り下げられていたのは、ローラ(ティボール・ド・モンタレンベール)ぐらい。
♥M
そうなの。
でもやっぱりアレクサンドル・ヴェテールの魅力によるところが大きいね。
♣R
もし主人公が、オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』のロマン・デュリスみたいだったら、女装しているおじさん感が強くなって、コメディ寄りだったり、笑わないようなシーンなのに笑う人がいたりする、全く違う映画になりそうですよね。
♥M
奇跡的な美しさだった。
♣R
ジェンダーレスという言葉が使われていましたね。
監督のインタビューでは、アンドロギュノス的と書かれていました。
♥M
セクシュアリティを扱った映画の中では、新しいタイプね。
♣R
トランスジェンダーの映画はたくさんありますけどね。
♥M
そうそう。『リリーのすべて』とかね。
■男らしさ・女らしさ
♣R
この作品はトランスジェンダーの話ではなく、どちらかといえば、ドラァグクイーンに近いように思いました。
自分は幼い頃、女の子が好きになるようなものが好きだったり、それが理由でバカにされたりしていました。
でも女の子になりたかった訳でも、女性らしさをアピールしたかった訳でもなかったです。
アレックスは男性でありたいと思っているし、手術をしたい訳でもない。
自分と違うところは、女性の姿で女性らしさをアピールしたいと思っているところですかね。
♥M
私の場合はタンゴかな。
タンゴは女性性をすごく出すものだけれども、たまに男側としてリードしたりもするの。
その時は、いつもとは違う自分が立ち現れる。
アレクサンドル・ヴェテールが「誰の中にも男性性と女性性があって、それが強く現れる人と、そうじゃない人がいる」と言っていたけれど、すごく納得がいく。
♣R
男らしさ、女らしさって、そもそも何だろうって感じですよね。
♥M
そう、それも考えさせられた。
♣R
昔は、男の子なんだから泣いちゃダメとか、女の子なんだからおしとやかにしなさいとか、よく言われていましたが…。
♥M
それが「当たり前」とされる中で育ってきていたからね。
♣R
伝承してしまうとか?
♥M
伝承(笑)。
ここは男らしくしっかりしなさいみたいな気持ちや、そういう感覚は抜けきらないよね。
よくよく考えれば違うとは思うけれど、私もたまに口にしてしまうことがあるよ。
■小さい頃の自分を肯定してあげたかった
♥M
パカがアレックスの箱の中身を見ていたけれど、何を見つけたのかな。
♣R
胸のパッドみたいなやつだと思いました。
♥M
それを見つけただけ?
♣R
パカが鍵穴から覗くシーンでは、箱の中のものを何か縫っていましたよね。
♥M
最後にアレックスが脱いだ時、胸が膨らんでいなかった?
♣R
男の人でも、体格がいいとそう見えることもありますよね。
♥M
あれだけ細い人でも?
♣R
コルセットをつけていたからじゃないですか?
♥M
それで持ち上がっているのか。ファリュスも完全に隠すことができるのね。
アレックスがすべてをさらけ出したのは、最初から決めていたことなのかな。
♣R
最初からではないと思いますよ。
♥M
何かひとつの達成感があったのかな。
♣R
女性らしさで表現するのではなく、自分らしさで表現したくなったとか。
♥M
でも、せっかく最終まで残ったのに、ミスフランスになろうとまでは思わなかったのかな。
♣R
幻想(子どもの頃の自分)を見たことで、否定され続けていた小さい頃の自分を肯定してあげたかったのかもしれませんね。
■女性でいる時の方が強くなれる
♥M
ミスコンは女らしさをすごくアピールする場だから、アレックスもミスコンで讃えられるような女らしさを勉強していくけれど、そこで会得した微笑み方や仕草は、とてもきれいだった。
♣R
でも、自然な笑顔ではないですよね。
♥M
作っている笑顔。女らしさというものに対する風刺だったのかな。
そういえば、アレックスが「女性でいる時の方が強くなれる」と言っているのが印象的だった。
♣R
ドラァグクイーンの人が、そう言っているのを聞いたことがあります。
あとは女性ですが、画家の松井冬子は、自分のきっとした化粧とか着物姿は、ドラァグクイーンの感覚に近いと言っていました。
ひとつ前に出るための戦闘服みたいな感じですかね。
♥M
変身するみたいなのは、よく分かる。
♣R
女性になっている時のアレックスと、普段の生活のアレックスが交互に描かれていましたが、普段の時の方は弱々しさを感じますよね。
小さい頃から石を投げられるような環境で育っていたから、素の自分に対する周りからの目が怖いのかもしれませんね。
でも、女性になりたいわけではないけれど、ボクシングジムにエリアスと妊娠しているエリアスの奥さんがいる時に、アレックスがちょっと悔しそうな顔をするんですよね。
あれは何だったんだろう…。
♥M
自分には不可能なことだと思っているようなね。
♣R
女帝みたいな人に、「絶対に女にはなれない」と釘を刺された時も、どきっとした表情をしてます。
この映画はアレクサンドル・ヴェーテルと出会ったことで作られた作品ですが、出発点はトランスジェンダーがテーマだったらしいです。
だからテーマが混ざってしまっている部分はあるのかもしれませんね。
■自分と向き合う
♥M
後半の審査の時、アレックスはミスコンにトライしようと思ったきっかけを「自分を知りたかったから」と、答えたでしょう?
あれはどういう意味なのかな。
♣R
ミスコンのことはあまり詳しくないですが、見た目や内面の美しさを極めたり、知識やマナーもなくてはならない。自分がどれだけできるかは自分との戦いですよね。
あとは満足していない生活を変えていくみたいな野心もありますよね。
今までゆらぎのあった人生を改めて見つめ直し、自分を受け入れるチャンスみたいなものだったのかも。
♥M
そうだよね。まだまだ若いもの。
アレックスは今後どうなっていくと思う?
ラストあたりでは、初めて両親のお墓参りをしたでしょう?
♣R
それこそ、自分と向き合うことができるようになったからですかね。
両親との関係もそんなに描かれていなかったですよね。
♥M
全然描かれていなかった。
家の窓から見えていたのは、多分、両親のお墓だけれど、そんなに近い場所にありながら行けなかったのは、ずっと向き合えなかったから?
両親との確執があったから?
♣R
亡くなった両親は、女性の姿になることを否定するような親だったかもしれないし、受け入れてくれる人たちだったかもしれない。そこはわからないです。
確執があったのかもしれないし、両親に対して後ろめたさみたいなものを感じていたのかもしれない。
うまく説明できないですが、今までは両親に対して、誇りを持って自分を出すまでには至らなかったのだと思います。親に合わせる顔がないみたいな感覚ですかね。





