ふたりの映画鑑賞記/よいこの映画時間

◎64本目『ローズメイカー 奇跡のバラ』

2026/03/09

【あらすじ】
父から引き継いだバラ園を経営し、かつては優秀なバラ育種家として有名だったエヴ(カトリーヌ・フロ)。しかしバラ園は倒産寸前。最後の希望として新種の白バラで世界最高峰のバラ・コンクールに挑むものの惨敗に終わる。

そんな彼女の前に現れた男女3人。経費削減のために職業訓練所を介して雇われた彼らは、バラのことなど何も知らず、社会のはみだしもの的で、エヴも最初は彼らを受け入れないが、少しずつ変化が。
ある日、2つの品種を掛け合わせたバラの交配を思いついたエヴは、新種のバラで翌年のバラ・コンクールに挑むことを決意する。コンクール優勝を目指し、4人は結束し始め、やがて季節がめぐり、バラの開花の時期を迎える。しかし……。




♥M
考えさせるとかではなく、さらりとした映画だったね。

♣R
エマニュエル・ドゥヴォス主演の『パリの調香師』を思い出しました。

♥M
私も!
嗅覚の優れていたフレッド(メラン・オメルタ)が、ドゥヴォスのところに修行に行けば面白かったのに。

♣R
まさかの話が繋がっているやつ(笑)。

♥M
私たちの中だけで繋がっている感じだけど(笑)。

エヴは葉巻を吸っているのよね。

♣R
葉巻ですよね。
香りが云々という割には…嗅覚が鈍るからと、フレッドの煙草も注意しているのに。

♥M
何でそんな風にしたのかな。

♣R
少し矛盾していますよね。
香りといえば、バラも香水みたいに香りを嗅いで研究するんですね。

♥M
ね。この映画、バラに集中しちゃうところがあるね。
色々な映画評論家の感想も読んだけれど、バラを育てたくなったとか、バラが美しくて癒されるとか、登場人物とかストーリーそのものよりもバラの話が多かった。

『ターシャ・デューダー 静かな水の物語』も思い出していたの。
自然の草花を育てるのは時間がかかるし、すぐには結果がわからない。
そういうのがまた面白いということが、この映画にも描かれていて好きだった。 

■バラがいっぱい!


♣R
カトリーヌ・フロは役作りのためにバラの勉強をしたみたいです。
インタビューではこんなことを言っていました。

「私は学ぶことが好きです。人生の学校のように思えるからです。
たとえ撮影後に取得した技術を忘れたとしても、
新しいことを学んだ喜びは自分の中に残っていきます。」

♣R
『大統領の料理人』の時は料理のレッスンを受けて、『譜めくりの女』でもピアノのレッスンを受けていたみたいなので、そういう勉強熱心みたいなところは、ジュリエット・ビノシュに近いものがありますよね。

♥M
どのシーンもバラがいっぱいだった!

♣R
いわゆる一般的に想像するような、赤くてトゲがあるバラは、あまり出てこなかったですね。
黄色とかピンクとかが多くて。

♥M
りきちゃん、知らなすぎよ(笑)。
バラにも色々あるんですよー。
バラと言えるのかと思うような、ひらひらしたのもあるよ!

♣R
勉強不足でした(笑)。
フランスはバラがお家芸なんですか?

♥M
バラの物語はフランスに多いかもしれない。
ナポレオンの妻だったジョセフィーヌはバラが大好きで、バラ園を熱心に作っていたとか、マリー・アントワネットもバラが好きで、バラの肖像画があるとか。
でも、フランス以外でもバラの話は有名で、エジプトのクレオパトラはバラを敷き詰めてアントニウスを招き入れたとか、古代ローマではバラの祝宴があったりね。
だからフランスに限った話ではないかもしれない。
バラと百合は花のツートップだと思うけれど、百合が聖母の清い象徴だとすると、バラはもうちょっとあやしい感じ。

♣R
バラについては、路子さんがハーパーズ・バザーに寄稿した薔薇物語「清らかな矛盾ーー私が惹かれる理由」もおすすめですね。
ぜひ読んでみましょう!

■バラが負けそう!


♣R
自分はカトリーヌ・フロが好きなので、たくさん彼女の出演作を観ていますが、最近の出演作は彼女のコメディエンヌらしさが出ている作品は少なかったです。
コメディ要素のある作品だったのは、音痴の歌姫フローレンス・フォスター・ジェンキンスをモデルにした『偉大なるマルグリット』ぐらいですかね。

♥M
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』としてリメイクされて、メリル・ストリープが主演だった作品だね。

♣R
リメイクの話は知らなかったです!
『偉大なるマルグリット』は、彼女らしいコメディというものとは少し違う感じがしました。

元々、『女はみんな生きている』でカトリーヌ・フロを知って、その後も『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』などを観ていたので、コメディエンヌとしての姿を見ることが多かったですが、この作品は、久々にコメディエンヌっぽいカトリーヌ・フロを楽しめました。

♥M
私も色々観ているけれど、やっぱり『女はみんな生きている』は面白くて、私もその作品で彼女のことを好きになった。
日本の映画サイトで見ると、彼女の出演作はあまり出てこないけれど、日本で公開されていないものもあるのかな。

♣R
結構あるみたいです。
海外のサイトで出演作を探すと、たくさん出てきますが、日本で特別有名というわけではないですからね。

♥M
カトリーヌ・フロは少しドヌーヴっぽくなってきたね。

♣R
まだドヌーヴほど振り切っていない感じですよ。

♥M
歳がまだ若いから…65歳だっけ?

♣R
そうみたいです。
でもドヌーヴは、若くても振り切っていましたよね。

♥M
ドヌーヴが65歳くらいの時に出演した映画は?

♣R
67歳で『しあわせの雨傘』
58歳の時には『8人の女たち』で振り切っていましたよ!

♥M
本当だ!
『8人の女たち』の時は、私とたいして年齢が変わらない!

♣R
路子さんも、そろそろ貫禄が出てきますよ。

♥M
そろそろ振り切り始めないといけないね(笑)。
この役はドヌーヴでもいけそうだよね。

♣R
庭をいじるのが好きだと言っていますからね。

♥M
人柄も合っているし、我が道をいく人が、人との触れ合いによって変わっていくところもピッタリだと思う。

♣R
でもドヌーヴだと強すぎないですか?
もう少し普通っぽさが欲しくないですか?
この普通っぽさが、結構大事だと思いますよ(笑)。

♥M
たしかに(笑)。
ドヌーヴだと…。

♥M ♣R
バラが負けそう!

■わすれな草は「私を忘れないで」


♥M
この作品は、コメディに振り切っているわけではないよね。

♣R
そうなんですよ。突飛なコメディというよりは…。

♥M
天然な感じ。
映画館で笑いが漏れたシーンは、あまりにもベタな歌を流しながらバラを販売しているシーンくらいだった。
最近観た『MISS ミス・フランスになりたい!』もそうだったけれど、登場人物がみんないい人だったね。

♣R
エヴの専売特許が欲しい大企業の人も、別に悪い人ではなかったですよね。

♥M
そうそう。
どちらかといえば、大企業からバラを盗んだエヴたちの方が悪い人。

♣R
イエスの磔みたいになりながら(笑)。
ああいうカトリーヌ・フロはかわいいですよね。

♥M
登場人物のバックグラウンドがけっこう省かれていたね。

♣R
描かれていたのは、フレッドの両親の育児放棄の話くらいですかね。

♥M
そうそう。
エヴのことは、お父さんからバラ園を受け継いで、結婚をしていない、くらいしかわからなかった。彼女の恋愛のことも描かれていなかった。

♣R
バラ一筋女みたいな感じでしたね。

♥M
そう。きっと、これ、大きなメッセージ性がある映画ではないよね。

♣R
バラの美しさと、カトリーヌ・フロの素晴らしさを褒め称える映画ですか?(笑)。

♥M
それは、花とカトリーヌ・フロに興味がない人にとって、面白い作品?(笑)。
働きにきた3人はどんな人だっけ?

♣R
フレッドは犯罪者、サミール(ファツァー・ブヤメッド)は定職に就けないおじさん、ナデージュ(マリー・プショー)は内気すぎる女の子で、みんな職業訓練所から来ている人たちでしたね。
バラ園で働くことで、それぞれが自分の得意とするところを出しながら仕事をしていました。

♥M
自然に育てていたものが、こんなに上手くきれいに育つんだとか、ちょっとご都合主義的なところはあったけれどね(笑)。

♣R
ミツバチの奇跡のおかげで(笑)。

♥M
レッドを送り出す時に、エヴは彼に「美のない人生は虚しい」と伝え、花言葉で気持ちを伝えるのよね。

♣R
押し花と花言葉図鑑を渡すんですよね。
カンパニュラは「ありがとう」、青いパンジーは「あなたがいないと寂しい」、わすれな草は「私を忘れないで」。
ちょっと貧乏くさい演出でしたが、フランス映画で観るとオシャレに見えますよね。
わすれな草で「私を忘れないで」なんて、日本でやったらすごくダサく感じそう。

♥M
ふたりの関係性もあると思う。恋人とかではないからね。
人間関係が不器用なエヴだからこそ、活きる演出。

La rose et l'armure


♥M
エンディングで流れるベタな歌(*アントワーヌ・イーライ Antoine ELie 『La rose et l'armure』)もよかった。ふくみがあったり、男と女が逆転したりね。
訳詞もよくて、それだけでも観てよかった。
でも日本語の歌詞で日本人が歌っていたら、かなり歌詞に引っ張られてしまうと思う。

ベタの中にも真実があるとはいうけれど、なんだかいろんなこと考えてしまった。
たとえば、「君にめぐり逢えたから自分は変われた…」という歌詞の部分…自分の人生にはパッとイメージできるものがないと思って、最後の最後に物悲しくなった。

♣R
そんなぁ(笑)。

♥M
だって、あの歌を聴きながらイメージできること、イメージするひと、そういうのが全然なかったよ。

たとえば20代の後半、ふたりの男で揺れているとき…これは『ミューズ 』で書いた体験だけれども、揺れているとき、映画館で『ピアノレッスン』を観たの。
そのラストシーンで、わかったの…ずっと付き合っていた人とは、もう自分の中では終わっているのだと。
直接的なものではないにしても、何かそこに本質的な繋がりがあると、自分の今の状態を知ることができる。映画を観ていてよく起こる現象なの。
そういう意味で言えば、最後の歌のシーンでわかったことは、自分からの気持ちも、相手からの気持ちも「ない」ということ。
悲しいとか絶望ではなく、すごくはっきり見える感じ。

 



~今回の映画~
『ローズメイカー 奇跡のバラ』
2020年 フランス
監督:ピエール・ピノー
出演:カトリーヌ・フロ/メラン・オメルタ/ファツァー・ブヤメッド/オリヴィア・コート/
マリー・プショー/ヴァンサン・ドゥディエンヌ

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